銃弾より派手な騒ぎを! アンタはティッシュ拾い係の王だ!
【これまでのあらすじ】
ドーナツ・トランペットの望みはただひとつ――王様になること!
荒れ果てたコモドールホテルの再生計画に乗り出したドーナツ。
リブとの再会をすぐに忘れ、新たな美女・イグアナと出会う!
ハンバーガー101個のタイムリープで、ドーナツはハチャメチャな人生を駆け上る!
俺がコモドールに目をつけてから、あっという間に2年半が過ぎた。
その夜、マンハッタンの公園のベンチで、若い男女が熱いキスを交わしていた。突如、男の頭が不自然に揺れる。女の顔に熟れたトマトが投げつけられたような飛沫が飛んだ。
「何、これ……?」
それが何か理解する前に、二発目の銃弾が女の頭を貫いた。
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「コモドールの再生は、ニューヨークを生まれ変わらせる偉大な計画だ!」
俺はと言えば、クイーンズの王の仕事に追われながら、合間を縫って市役所に通い続けていた。今日も朝から、市役所の会議室で、唾を飛ばしながら熱弁を振るう。
テーブルの上には、新しい高層ホテルの模型が置かれていた。全面ガラス張りの、やけにゴージャスなやつだ。
周囲との調和? そんなものはどうでもいい。
プレゼンはフリ芸だ。
理屈よりも、いかに派手で、いかに夢を見せられるか。
この計画に賭ける価値があると思わせたヤツの勝ちだ。
「コモドールが変われば、ニューヨークの景色も変わる。人が集まり、金が回る。だからこそ、この計画には特別減税の価値があるんだ!」
だが、市の連中の顔は、あいもかわらず鈍いままだった。
「他のホテルから苦情が出ています。コモドールだけ減税するのは不公平だと」
会議は、そこで終わった。
「同じ話を2年もしてるんだぞ! 市の権益やら、金の流れやら、見直せることは全部見直してやった。なのに、この偉大なる計画の意味がいまだに理解できない。どこまでも無能なヤツらだ!」
俺はクソ重い模型を抱え、市庁舎の大階段を降りながらわめいた。
「最近じゃ、マスコミも俺を全然取り上げない。連中が騒いでるのは、例のハムだかソーセージだか……」
「ハムの息子か?」
「そうだ。あの頭のおかしい連続殺人犯の話ばっかりだ」
このところ、ニューヨークのクイーンズやブロンクス、マンハッタンなど、あちこちで若い女やカップルを狙った殺人事件が相次いでいた。
犯人は被害者の頭を拳銃で撃ち抜いては、『ハムの息子』を名乗って奇妙な犯行声明文をニューヨーク市警に送り付ける。
マスコミはこぞって、センセーショナルなハムの息子の特集を組んだ。
「ハムだかソーセージだかに、王が負けるわけにはいかないんだよ」
俺は模型をコーンフレークに押し付けた。
「マスコミが派手な画を撮りたいなら、こっちも派手な画を作ってやるまでだ。銃弾なんかより派手な騒ぎをな」
「何をするつもりだ? 弁護士資格剥奪は御免だぞ!」
大階段を駆け下りる俺の背中に、コーンフレークの悲鳴のような声が突き刺さる。
「今度こそ、市のうすのろ連中の目を覚ましてやるんだよ!」
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その日の深夜。
コモドールホテルの裏通りに、大勢のホームレスが集まっていた。
「なんだこれ?」
「タダで酒をくれるらしいぞ」
噂が噂を呼び、売春婦やドラッグの売人まで集まってくる。犯罪者のカオス。その中心にいるのは――ドーナツ・トランペット。この俺だ。
俺はホームレスたちに、どんどん酒を注いでやった。
「いいか。カビ臭いコモドールをぶっ壊して、キラキラした新しいホテルを作る。そうすりゃ、仕事はいくらでも生まれる」
歓声が上がる。
実に気分がいい。
「ただな。市の連中が邪魔してる。誰か、説得してくれればいいんだが」
俺がわざと困った顔を作ると、鼻の赤い男が手を挙げた。
「じゃあ、俺が行ってやる」
「本当か! 成功したら、アンタは清掃係の王だ!」
「アタシも!」
「アンタは……雑巾係の女王だ!」
「俺も!」
「アンタはティッシュ拾い係王!」
その夜のうちに、俺は様々な清掃係の王を任命した。
灰皿空っぽ係王、空き瓶回収係王、掃除機のつまり解消係王。
なんでも王をつける。
その度に大きな歓声が上がり、笑い声と酒と、根拠のない希望が、暗い路地を満たしていった。
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次の日の朝は、イグアナのアパートで目を覚ました。
イグアナには別に付き合っている相手がいたらしい。だが、俺の野心と金の匂いにイグアナは飛びついてきた。
俺はシーツにくるまったままニヤニヤと笑った。
昨日の夜は、完璧だった。今頃、ホームレスや売春婦たちが、ゾロゾロと大挙して市役所に陳情に行っているはずだ。マスコミが飛びつく派手な画。市の連中も、ようやく俺の計画の重要性に気づくだろう。
俺がマンハッタンの王になる時が、着々と近づいている。
電話のベルが鳴る。
しばらくして、イグアナは俺に受話器を押し付けてきた。
「勝手にウチの電話番号を教えないで」
「仕方がない。王は忙しいんだ」
受話器の向こうから、コーンフレークの声が耳に飛び込んできた。
「ドーナツ! 今すぐニュースを見ろ!」
「ああ? 何なんだ一体……?」
テレビをつけると、ニューヨーク市庁舎が映し出された。
大階段に、数え切れないほどのホームレスと売春婦が押し寄せている。棒やガラス瓶を持っているヤツら。制止しようとする警察官ともみ合いになり、警察官が催涙ガスを発射する。
「大変な事態です。今朝からニューヨーク市庁前で暴動が起きています。彼らは一様に、コモドールホテルの改装を訴えています!」
キンキンしたアナウンサーの声が俺の頭を殴りつける。
ホームレスの一人がインタビューに応えて言った。
「市を説得しろって言われたんだ。ドーナツって野郎に」
俺の顔写真がデカデカとテレビに映し出された。
いつかの雑誌のインタビューで最高にセクシーなポーズを決めた一枚。テレビの画面の向こうから指を咥えた俺が、俺を見つめて笑っていた。




