↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドーナツ・トランペット バーガーリーパー  作者: マサ・イワムラン
PR
26/35

銃弾より派手な騒ぎを! アンタはティッシュ拾い係の王だ!

【これまでのあらすじ】


 ドーナツ・トランペットの望みはただひとつ――王様になること!

 荒れ果てたコモドールホテルの再生計画に乗り出したドーナツ。

 リブとの再会をすぐに忘れ、新たな美女・イグアナと出会う!

 ハンバーガー101個のタイムリープで、ドーナツはハチャメチャな人生を駆け上る!


 俺がコモドールに目をつけてから、あっという間に2年半が過ぎた。


 その夜、マンハッタンの公園のベンチで、若い男女が熱いキスを交わしていた。突如、男の頭が不自然に揺れる。女の顔に熟れたトマトが投げつけられたような飛沫が飛んだ。


「何、これ……?」


  それが何か理解する前に、二発目の銃弾が女の頭を貫いた。


   $ $ $


「コモドールの再生は、ニューヨークを生まれ変わらせる偉大な計画だ!」


 俺はと言えば、クイーンズの王の仕事に追われながら、合間を縫って市役所に通い続けていた。今日も朝から、市役所の会議室で、唾を飛ばしながら熱弁を振るう。


 テーブルの上には、新しい高層ホテルの模型が置かれていた。全面ガラス張りの、やけにゴージャスなやつだ。

 周囲との調和? そんなものはどうでもいい。

 プレゼンはフリ芸だ。

 理屈よりも、いかに派手で、いかに夢を見せられるか。

 この計画に賭ける価値があると思わせたヤツの勝ちだ。


「コモドールが変われば、ニューヨークの景色も変わる。人が集まり、金が回る。だからこそ、この計画には特別減税の価値があるんだ!」


 だが、市の連中の顔は、あいもかわらず鈍いままだった。


「他のホテルから苦情が出ています。コモドールだけ減税するのは不公平だと」


 会議は、そこで終わった。




「同じ話を2年もしてるんだぞ! 市の権益やら、金の流れやら、見直せることは全部見直してやった。なのに、この偉大なる計画の意味がいまだに理解できない。どこまでも無能なヤツらだ!」


 俺はクソ重い模型を抱え、市庁舎の大階段を降りながらわめいた。


「最近じゃ、マスコミも俺を全然取り上げない。連中が騒いでるのは、例のハムだかソーセージだか……」


「ハムの息子か?」


「そうだ。あの頭のおかしい連続殺人犯の話ばっかりだ」


 このところ、ニューヨークのクイーンズやブロンクス、マンハッタンなど、あちこちで若い女やカップルを狙った殺人事件が相次いでいた。

 犯人は被害者の頭を拳銃で撃ち抜いては、『ハムの息子』を名乗って奇妙な犯行声明文をニューヨーク市警に送り付ける。

 マスコミはこぞって、センセーショナルなハムの息子の特集を組んだ。


「ハムだかソーセージだかに、王が負けるわけにはいかないんだよ」


 俺は模型をコーンフレークに押し付けた。


「マスコミが派手な画を撮りたいなら、こっちも派手な画を作ってやるまでだ。銃弾なんかより派手な騒ぎをな」


「何をするつもりだ? 弁護士資格剥奪は御免だぞ!」


 大階段を駆け下りる俺の背中に、コーンフレークの悲鳴のような声が突き刺さる。


「今度こそ、市のうすのろ連中の目を覚ましてやるんだよ!」


   $ $ $


 その日の深夜。

 コモドールホテルの裏通りに、大勢のホームレスが集まっていた。


「なんだこれ?」

「タダで酒をくれるらしいぞ」


 噂が噂を呼び、売春婦やドラッグの売人まで集まってくる。犯罪者のカオス。その中心にいるのは――ドーナツ・トランペット。この俺だ。

 俺はホームレスたちに、どんどん酒を注いでやった。


「いいか。カビ臭いコモドールをぶっ壊して、キラキラした新しいホテルを作る。そうすりゃ、仕事はいくらでも生まれる」


 歓声が上がる。

 実に気分がいい。


「ただな。市の連中が邪魔してる。誰か、説得してくれればいいんだが」


 俺がわざと困った顔を作ると、鼻の赤い男が手を挙げた。


「じゃあ、俺が行ってやる」


「本当か! 成功したら、アンタは清掃係の王だ!」


「アタシも!」


「アンタは……雑巾係の女王だ!」


「俺も!」


「アンタはティッシュ拾い係王!」


 その夜のうちに、俺は様々な清掃係の王を任命した。

 

 灰皿空っぽ係王、空き瓶回収係王、掃除機のつまり解消係王。

 

 なんでも王をつける。

 その度に大きな歓声が上がり、笑い声と酒と、根拠のない希望が、暗い路地を満たしていった。


   $ $ $


 次の日の朝は、イグアナのアパートで目を覚ました。

 イグアナには別に付き合っている相手がいたらしい。だが、俺の野心と金の匂いにイグアナは飛びついてきた。

 

 俺はシーツにくるまったままニヤニヤと笑った。

 昨日の夜は、完璧だった。今頃、ホームレスや売春婦たちが、ゾロゾロと大挙して市役所に陳情に行っているはずだ。マスコミが飛びつく派手な画。市の連中も、ようやく俺の計画の重要性に気づくだろう。


 俺がマンハッタンの王になる時が、着々と近づいている。


 電話のベルが鳴る。

 しばらくして、イグアナは俺に受話器を押し付けてきた。


「勝手にウチの電話番号を教えないで」


「仕方がない。王は忙しいんだ」


 受話器の向こうから、コーンフレークの声が耳に飛び込んできた。


「ドーナツ! 今すぐニュースを見ろ!」


「ああ? 何なんだ一体……?」


 テレビをつけると、ニューヨーク市庁舎が映し出された。

 大階段に、数え切れないほどのホームレスと売春婦が押し寄せている。棒やガラス瓶を持っているヤツら。制止しようとする警察官ともみ合いになり、警察官が催涙ガスを発射する。


「大変な事態です。今朝からニューヨーク市庁前で暴動が起きています。彼らは一様に、コモドールホテルの改装を訴えています!」


 キンキンしたアナウンサーの声が俺の頭を殴りつける。

 ホームレスの一人がインタビューに応えて言った。


「市を説得しろって言われたんだ。ドーナツって野郎に」


 俺の顔写真がデカデカとテレビに映し出された。

 いつかの雑誌のインタビューで最高にセクシーなポーズを決めた一枚。テレビの画面の向こうから指を咥えた俺が、俺を見つめて笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。