マンハッタンで一番ホットな不動産王子! エアコンが壊れても王になる!
【これまでのあらすじ】
ドーナツ・トランペットの望みはただひとつ――王様になること!
荒れ果てたホテル『コモドール』を手に入れ、マンハッタンを再生する!
ドーナツは、悪徳弁護士コーンフレークとタッグを組んで走り出した!
ハンバーガー101個のタイムリープで、ドーナツはハチャメチャな人生を駆け上る!
フラッシュが光る。
カメラのシャッター音。
眩しい照明。
俺は編集部のオフィスで、次々にポーズを決めた。
人差し指を咥える俺。
セクシーな流し目を決める俺。
白い歯が光る笑顔の俺。
大胆にシャツの胸をはだける俺。
遠くをロマンチックに見つめる俺――。
俺俺俺俺、俺だらけ。
撮影場所が汚い編集部の一角だというのが気になるが、今、俺は眩しいスポットの中に立っている。
非常に快感だ。
『今、マンハッタンで一番ホットな不動産王子』
そんなキャプションと共に、俺はもうすぐプレイボーイの紙面を飾る。
そして、俺を見守るのは金髪の美人秘書――ではなく、額の禿げあがった、どんぐり眼の男。ロロ・コーンフレークだ。
『60%の成功報酬』なんてふざけたヤツだと思ったが、実際のところ、コーンフレークは使える男だった。
政財界からメディアまで、多くの人脈を持つコーンフレークの紹介で、俺は秒殺でキングスクラブに入会。
随分と顔が広くなった。
その上、コーンフレークは、マンハッタンで仕事をするにはネームバリューが必要だと、プレイボーイ誌をはじめ、多くの雑誌に俺を売り込んだ。
俺のハンサムガイなルックスと、ナイスなトークも相まって、すぐに多くの雑誌から取材依頼が舞い込んだ。今のところ、『若手起業家特集の中の一人』程度の扱いだが、表紙を飾る日も近いだろう。
俺はクイーンズの王の仕事を続けながら、一方でマンハッタンの王になるべく、日々駆けずり回っていた。
撮影が終わると、俺はコーンフレークと共に空港へと車を走らせた。
「くそ、春だってのに、何て暑さだ」
俺のキャデラックは生憎エアコンが壊れ、車内はサウナのようだった。汗がアゴから滴り落ち、濡れたシャツが背中に張りつく。
その横で、汗まみれのコーンフレークが言った。
「今日は失敗できないぞ」
「わかってる。そのためのお迎えだ」
コモドールホテルの買収を成功させるには、4つのポイントがある。
まず1つ目は、コモドールホテルの買い取り。
2つ目は、ホテル経営のノウハウを持つ企業の協力。
3つ目は、ニューヨーク市の計画承認と減税措置。
そして、4つ目が、銀行からの8000万ドル相当の融資だ。
その『2つ目』――ホテル経営のノウハウを持つ企業として、俺が目をつけたのは、高級ホテルチェーン・パイアットだった。
俺が、パイアットの大株主であるジェイ・スプリッツァーに連絡すると、ちょうどシカゴからニューヨークに来る用事があるという。
俺はすぐに、空港まで迎えに行くと提案した。
自家用ジェットから降り立ったジェイは、いかにも名家の香りがする男だった。50代、微かに白髪の混じった黒髪は映画スターのように整えられている。爽やかな笑顔。物腰のスマートさに育ちの良さが滲む。
俺は白いキャデラックの後部座席にジェイを乗せて走り出すと、早速、口説きはじめた。
「パイアットは最高のホテルだ。リッチでクール。マジで最高だ。だがニューヨークには、まだ進出していない。だからコモドールを改装して、グランド・パイアットとして生まれ変わらせる。これはパイアットにとっても、ニューヨークにとっても最高のチャンス……くそっ、暑い!」
最悪なことにエアコンは沈黙したまま。
俺もジェイもコーンフレークも汗だくだった。
だが、俺は汗まみれになりながらも、マンハッタンに着くまで計画を語り続けた。暑さなんてどうでもいい。マンハッタンの王になるためなら、汗なんていくらでも流してやる。
ジェイのオフィスに到着すると、俺は車を飛び出した。
「ちょっと待っててくれ。いますぐ、キンキンに冷えたコーヒーを買ってくる」
育ちのいいジェイはニコリと笑う。
俺は急いで走り出した。
冷たいコーヒー一杯でパイアットがついてくれるなら、安いものだ。
だが、汗だくで走る俺の背中を見ながら、コーンフレークがこんなことを言っていたとは、ついぞ知らなかった。
「面白いヤツでしょう? 利用すればいいんですよ。上手くいけば利益はパイアットと折半。上手くいかなければ――切り捨てればいい」
陽射しの中、俺は走り続けた。
王になるのに、立ち止まっている時間はない。




