09話
月曜日だ!投稿日だ!
「冴月探偵事務所」と看板が掲げられている、古びたビルの前に辿り着いた一行。冴月探偵事務所は4階建てのビルの3階にあり、他の階層には何もテナントは入っておらず、ビル自体はがらんと寂れた雰囲気を醸し出しており、廃ビルだと思われても仕方がないほどであった。
そんな廃ビル予備軍の前に一台の黒いリムジンが停車し、そこからアオイと剛輝、そして運転手が降りてくる。
運転手はリムジンのトランクルームを開く。そこには縦65㎝、横120㎝、高さ10cmの表面に多数の銃痕が残る、大きなトランクケースが鎮座していた。アオイはそれをあろうかことか、それを右手一本で軽々と持ち上げ、そのトランクケースに備えつけられている背負い紐に腕を遠し、背中に担いだ。
また、そのトランクケースが持ち上がる際には、車が余程重かったのか車体が気持ち持ち上がったようにも見えた。
「おい、それなんだ?表面が銃痕でいっぱいじゃねぇか。それにどれだけ重い荷物なんだよ」
と、思わず剛輝が口に出してしまうほどにそれは異様なモノであった。アオイはそんな剛輝を気に留めることなく、軽々とした動作でいつの間にか窓を開けて様子を窺っていたホークに歩きよる。
「それでは旦那様、行ってまいります」
「行ってらっしゃいアオイ、ちゃんと剛輝の言うことを聞くんだぞ」
「不服ですが、まぁ分かりました」
「剛輝もアオイのことを頼んだぞ、こいつは良く無茶をする上に命知らずだからな」
「ああ、分かった。面倒は見る」
「…」
「ん?なんだ?」
ホークが剛輝だけが来るように手招きをする。それに応じて、剛輝は空いた車の窓に頭を入れた。
「なんだホーク?」
「1つ忠告、と言うよりはアオイについて注意点がある」
「注意点?なんだそりゃ?」
「あいつは基本的に武器を使って戦う。それこそナイフや拳銃は当たり前で、対物ライフルすら振り回しながら使う馬鹿力を持っている」
「は?まるでアニメや漫画のフィクションじゃないか」
「そうだ。だが、あいつは『俺たち』が相手取るような化け物、いやそれ以上だ。アオイが武器を使っているうちは、まだ理性はある。だが逆に武器を使わずに肉弾戦で殺り合うようになったときは血が上って手が付けられんようになる」
ホークは何かを思い出すように遠い目をしながらアオイの危険性について語る。剛輝も、アオイがあの体格で、人外生命体らと殺り合うイメージはいまいち湧かないが、ホークがわざわざ注意するということはそれ程に危険であるというのを察した。
「…まるで獣だな」
「そう、あいつは人の姿をした獣だと思って良い。俺たち親子の恩人ではあるんだが、こればっかりは注意するしかない」
「それで注意、か。で?暴走したときの手立てはあるのか?」
「ない」
「は?っで!」
キリッとした顔でNOと答える剛輝は間抜けな声を上げてしまう。そしてその勢いで頭部を金属製の窓枠にぶつけてしまう。
「おいおい大丈夫か?」
「大丈夫だが、それよりアオイがどうかしちまったらどうすればいいんだよ?」
「相手が人外ならほっておいて良い。狩り終えたら勝手に落ち着くからな。後は人間相手では暴走しないな。あいつの中では人間は『食べられないモノ』だからな」
「あいつ、どうなってるの?」
「既にそうなった経緯は教えたはずだ。それ以上知りたいなら本人に聞くんだな」
「まぁ、そうする。とりあえずアオイはこっちが責任もって預かる。そして無事に返せるように努力しよう」
「その言葉を聞けて安心だ。アオイを頼んだぞ!」
「おう!」
その答えを聞いて満足したホークは運転手に車を出すように指示を出し、その場を後にして自らの仕事先に向かっていった。
それを見送ったアオイと剛輝の2人は古ビルの中に入っていった。ビルの内部は初見の人間がこの場所を訪れたとしたなら、まず初めに「帰ろう」と思うほどに独特な雰囲気を出していた。また、エレベーターは無く、目的の事務所がある3階までは階段を使わなければならず、その階段も所々塗装が剥げ、タイルも砕けて無機質なコンクリートが剥き出しになっている。
「ここ、ホントに事務所があるんですか?ただの廃墟にも見えるんですけど」
「そう言われても仕方がないな。ただこれなら『一般の依頼人』はここに来たいとは思わないからな」
「…なるほど、『訳あり』しか受け付けない冴月探偵事務所としては打ってつけという訳ですか」
「そうだ。それに他の階層も表向きは何も入ってないように見せつけてるだけだしな。中は中々にイカしてるんだぞ」
「そうですか」
「…興味ないのか?」
「特に。で、早く行かなくて良いんですか?」
「お、そうだな。早く行かないと怒られちまう」
2人はボロボロの階段を上り、3階にある事務所の入口の前に辿り着く。その入口の扉はビルの外見やここまで内装と比較してとても新しいものであり、異質さが滲み出ていた。
そして剛輝がその扉を開け、そのまま事務所内に入る。内部は扉と同じように新しい造りになっており、とても機能的な事務所だとも思える。
事務所内には既に数人ほど居り、髪を赤く染めているであろう軽薄そうな20代と思しき男性や長い黒髪を一本に纏めているスーツを着た若い女性、剛輝やホークよりも筋肉があると見える筋骨隆々の黒いスーツを着、頭部を熊の被り物で隠した人物の3人が居た。
剛輝が事務所に入ってきたことに気が付いた3人は口々に挨拶をする。
「あ、所長。やっと来たんですね」
「おはようございます所長…あらその子は?」
「相変わらず遅い出社ですね、所長。書類などはこちらに纏めてありますので」
「おはよう、すまん遅れた。こいつに関しては後で紹介するからとりあえず例の件について頼む」
「その子も聞いて大丈夫なんですか?」
「高坂、こいつはこんな見た目だがホークのとこの秘蔵っ子であり、面倒な仕事を増やしやがった張本人だ」
「え?どういうです?」
「それについても後で伝える。まずは現状確認だ」
「はい、現状ですが…」
剛輝が「高坂」と呼んだ女性は淡々と報告を上げていく。
剛輝達が追っていた集団、仮称「蛇の一団」は目的は明確に分かっているわけではないが、人間の母体に宿った胎児を薬品と魔術を用いてその胎児を人間から蛇に変化させており、その事は母体は愚か病院すらもその事実を認識しておらず、「異常なし」と診断されていた。
このことより、病院とその患者には洗脳のようなものが掛かっており、認識が正常では無かった。また、検査結果に使われ、外部に出ると思われるエコー写真も別の正常な胎児の写真とすり替えられており、用意周到であることが分かる。
元々の依頼者はある妻帯者の男性であった。依頼の内容はざっくりと云えば、ある病院の調査であった。その夫婦は仕事の都合で引っ越すことになり、その際に妊婦であった妻は病院を変えたのだが、胎児が異常であることに気が付いた。
妻はその異常に変化した我が子に拒絶反応を見せ、錯乱し、そのストレス等によって流産してしまったという。妻はそれ以降、精神が病み、未だ病室のベットの上だという。
男性は妻の病んだ姿を見て、自分も何か出来ないかと考えた。それは、我が子を失った喪失感を埋めるための行為なのかもしれないが。男性は初めに我が子が何故その奇形の胎児になったのか調べるため、様々な文献を調べた。
しかし「蛇」のようになるという症例は何処にもなく、ならばと次の行動に出た。それは引っ越し前に通っていた病院である。だが、その病院に聞き込みを行っても成果は得られない所か何故か警察までも出てくる始末であった。そこに通っている妊婦に話を聞こうにも、こちらにも警備員や警察が邪魔をし、近づくことすらできなかった。
その異様な警備体制を疑問に思ったが、これ以上素人が足を踏み入れると命が危険であると本能的に察した男性は、「ならば専門家を頼ろう」と思い付き、紆余曲折あり、この冴月探偵事務所に辿り着いたそうだ。
そしてその依頼の調査結果だが、例の病院では男性が危惧した通り、確かに胎児を蛇に変えることをしていた。この時点で調査という依頼は終えているのだが、冴月探偵事務所『本来の仕事』としては原因の根絶である。そのため内部に侵入し、その一団を壊滅させるまでが目的である。だが、男性の話でもあったように一般の警備員や警察の一部の派閥が過剰にその病院を警護しており、その他でもその一段のものと思われる襲撃も受け、中々内部情報を得ることが出来ずにいた。
そんな遅々として進まない調査の中で、今朝の一団の壊滅の報告であった。例の病院の立ち入り禁止とされた区画が何者かに襲撃を受け、その内部は赤い血で塗れ、凄惨な光景が広がっていた。また、異様なのが『人間以外』の死体は1つもなかったという点だ。現場に残された血液の量から考えても人間サイズの生命体が少なく見積もっても13体分足りないとされ、何者かがその死体を持ち去ったと思われている。しかし、監視カメラを確認しようにもその全てが死角から破壊されており、襲撃前後でも怪しい人物は確認されていない。
なおその襲撃後、どうやら病院の医師や看護師、そして妊婦に掛けられていた洗脳は溶け、胎児の姿も徐々に人間に戻っていったそうだ。
しかしその襲撃後、その病院を警備していた警備員と警察の一部が失踪しており、その行方を追う必要が出てきた。
「つまり、今我々がするべきことは『病院に残されていると思しき一団の資料の調査』『襲撃者の特定』『失踪した人間の捜索』の3つですね」
「やることが多いなぁ…どう割り振るんですか所長」
「これは中々に大変な仕事になりそうですね」
「あー、高坂、深崎、鰰澤、その件についてなんだが…」
所員の3人がどう動くかを相談しようとしたが、剛輝が申し訳なさそうに太い眉をハの字に曲げて話に横やりを刺す。
(あ、今週の木曜日はまたお休みです)




