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Dream World Story  作者: 四ツ根谷 中顔(白玄)
序章:少女と夏の出会い
1/9

01話

(これは…夢だろか…?)


 少女はぼやけた思考のまま閉じていた瞼を開ける。

 光が差し込む眼に映るものは半壊した建物、そこから差し込む赤い陽光、そして一人の少年であった。

 その少年は特徴的で、白いぼさぼさの髪、蝋を塗ったように、病的に白い肌、そして澄んだように透明感を持つ赤い瞳。これはいわゆるアルビノであると少女は思った。


 少年はまるで少女に対して、手を握りながら申し訳なさそうな表情を向けている。


『…ごめ、んな』

『大丈夫、――は悪くないよ』

(え?)


 少年が話し、それに自分が返したことに少女は驚いた。どうやら自分の意思で言葉を発することはできないようだ。

 少年をよくよく観察すると、口元からは赤い血を流し、その白い肌を鮮やかな赤に彩っていた。そして胴、胸部に眼をやるとぽっかりとあいた穴があり、そこからも赤い液体をダクダクと垂れ流していた。

 また、その状況は少女も同じであった。どうやら身体に力が入らないようであり、少年が握る手の色は青白く変色していた。


 鈍い感覚で、自分が倒れている場所も液体に塗れており、恐らく少年も少女ももうすぐ命が消えることだろう。


『私、――のこと、好き、だよ』

『俺もお前のこと、ゴホッ、好きだ』


 二人は、誰もいない、夕日と血の二色の赤の中で告白をする。もうじき消える命の火は互いに隠し事はなく、ただ、そこにあるのは真実であった。

 そして二人は思い出を語る。


―出会った時のこと、二人で狭いこの街を冒険したこと、不思議な体験をしたこと、少年が少女を助けたこと、そして今日のこと…


『あー、もうダメそうだ』

『私も…また生まれたら――に会いたい。今度はもっといろんな場所に行きたい…行きたいよぉ』


 少女は泣きながら自分の願いを吐露する。それに少年は頷き、少女を抱きしめる。


『今度は、いろんな所に行こう…隣街はもちろん、映画やカラオケ、水族館…一緒に、一緒に楽しもう』


 そして少年は最後に一言、付け加える。


『次は、絶対に守るから』


 夢から覚める。



〇×△□



 少女、「冴月レイナ」の頭部に軽い衝撃を感じ、目を覚ます。


「冴月、起きなさい、授業中ですよ」

「ふぁ…!?あ、す、すみません!」

「中学生になってまだ4ヵ月ですよ!今から居眠りを覚えてたらこの後大変ですよ!」

「は、はい…すみませんでした」

「まぁ、いいでしょう…じゃ、授業を続けますよ!」


 レイナは数学担当の女性教師に起こされた。隣の席に座る幼馴染はもちろん、クラスメイトの全員に笑われ、恥ずかしくて頬を紅潮させる。

 それを隠すように教科書に顔を隠す。


「レイナー、居眠りなんて珍しー」

「もう、凜、いじらないでよー。恥ずかしー」

「ぷぷぷ、ほら今度から夜更かししないようにね」

「はーい」


 幼馴染の「柴野 凜」にいじられながら授業に集中するために、教科書とノートを整理して置き、黒板を見やる。黒板には簡単な方程式の解説が書かれていた。

 しかし、レイナの脳裏に浮かぶのは先ほどのリアリティのある夢であった。


(あれはホントに夢だったのかな?やけに鮮明にも思えたし…でも私にはそんな記憶ないし、あんな男子あったことないしね…でも、嫌いじゃない、好きな顔だったな)


 そんなことをぼんやり思いながらも授業は淡々と続いていく。


――


 キーンコーンカーンコーン


 授業を終える鐘が鳴り響く。先ほどの数学の授業は6限目であり、本日の最終授業であった。生徒たちは帰宅の準備をする者や掃除の者、部活に向かう者らが教室の中を行き来する。

 その中でレイナはぼけーとしながら、無意識に荷物をまとめていた。そんなレイナに凜が背後から肩を叩き、話しかけてくる。


「レイナー、今日部活ないけどこの後どうする?ファミレスでも行く?」

「あ、ごめん。今日は家にお客さんが来るからその準備をしないといけないんだ」

「あー、そんなこと言ってたね。ごめんね、忘れてたよ」

「いーよいーよ、また今度遊ぼうね」

「おっけー、またねー」

「うんまたね」


 別れを告げたレイナは一人、下駄箱置き場に向かった。途中すれ違うクラスメイトや小学校からの友人らに挨拶をしながら歩き、下駄箱の前にたどり着く。

 下駄箱には小さな扉が取り付けられており、レイナはその扉は引き開ける。するとその中には一通の手紙が置いてあった。


「はぁ」


 その手紙を溜息をつきながらも律儀に鞄にしまい、靴を取り替える。

 レイナの見た目は可愛くも恰好が良いと評判である。幼げでありながらもキリッとしたクールな顔立ちに、腰まで伸びた長い黒髪をポニーテールに纏めている。背も中学一年生にしては高い上に、細い肢体。噂によると何らかのスカウトをされたことがあると言われている。

 同級生はもちろん、上級生からも注目されている程に人気の女子生徒であった。


 そんな訳で、帰宅途中も度々注目の的になりながら自宅に帰宅するレイナであった。


 歩くこと20分、なんてことのない住宅街にある。二階建ての一軒家の前に辿り着く。ここが冴月レイナの自宅である。

 レイナは鞄から質素で特徴のないキーホルダーのついた鍵を取り出し、施錠した扉を開ける。


「ただいまー」


 そう自宅に帰宅したレイナの言葉に返す言葉はない。現在、父と娘の二人暮らしであり、その父は夜まで帰宅することはなく、その時まで一人きりである。

 帰宅したレイナはそのまま仏間に向かい、母の遺影がある仏壇の前に座る。そしてロウソクに火を点け、そのまま線香に火を移す。線香に点いた火を手を仰いで消し、香炉に立て、リンを鳴らした。手を合わせ合掌をした


「お母さん、今帰りました」


 帰宅の挨拶を済ませたレイナはロウソクの火を線香と同じように手を仰いで火を消し、着替えをしに仏間を後にした。

 レイナの母は6年前に表向き事故で亡くなっている。それ以来、レイナは父と二階建ての広い一軒家で2人で暮らしているのである。


 本日は金曜日であり、翌日は休日である。そのまま、シンクに溜まった汚れた食器を一枚一枚、丁寧に洗う。父からは今日は夕食を用意しなくて良いと言われているため、食事の準備は行わない。

 …まぁ、レイナ自身は料理が得意ではないのだが。加えて言うなら父も料理は苦手なため、普段は簡単な料理や惣菜で済ませいている。


 しかし簡単な家事を済ませた現在の時刻は17時半、父が帰宅するまではまだ時間はある。スマートフォンでゲームをしたりSNSで時間を潰しても良いとは思うが、来週には夏休み前のテストがある。

 別に普段から勉強を疎かにしている訳ではないが、それでも苦手な教科、特に数学には自身がないため、「真面目に勉強するかー」と独り言を呟き、居間にあるテーブルに問題集や勉強道具を置き、テスト勉強を始める。


 紙の上を走るシャープペンシルの芯が削れる音、間違えた文字を消す独特な消しゴムの音、ページを捲る音、アナログ時計の針が進む音、そしてレイナの呼吸音達が1時間程、流れ続けた時、玄関が開く音がした。どうやら父が帰宅したようだ。

 急いで広げていた問題集を片づけて玄関に向かった。そしてそこそこ広い空間の玄関に辿り着くとそこには父の他に4人の人物がいた。そして…


「え?」


 レイナはその初めて見る4人の内、長い白い髪をレイナと同じようにポニーテールに纏め、メイド服に身を包んだ日系人の顔立ちをした赤眼の人物に目が惹かれた。それはその人物も同じようにその目を大きく広げている。

 その他の人物は顔立ちは見ても分かるように日系人のそれではなかった。その内1人は、2メートル近い身長があり、筋肉質で大柄な金髪の男性とその男性と同じ髪色をしている小柄で可愛らしい少女、茶髪でメイド服をキチンと着こんだ妙齢の女性であった。


「ただいま、レイナ…どうした?」

「いや、何でもない…お帰りお父さん。この人達がお客さん?」

「そうだ、紹介しようか。この金髪でデカいのが『ホーク=キーソン』だ」


 父に紹介されたホークは朗らかな笑みを浮かばせながら握手に手を差し出す。大柄な体躯の彼の手はとても大きく、ごつごつとしていた


「初めまして、お嬢さん」

「は、初めまして…日本語上手ですね」

「ハハハ!剛輝にも昔言われたよ!紹介してもらったホークだ。お嬢様は?」

「あ、私はレイナです」

「レイナか…良い名だ」


 彼、ホークはにっこりと笑い、そのまま乱暴にレイナの頭を撫でた。


「さて、残りの奴らの紹介は私がしようではないか!この可愛い天使は私の娘『ミーナ』だ!」

「よろしくです!ミーナです!」


 少女、ミーナは不自由な日本語で挨拶をする。


「で、こっちの茶髪のメイドが『マリア』だ」

「マリアです。宜しくお願い致します。レイナ様」

「よ、よろしくです」


 クラシカルなメイド服を摘み、自然な所作でカテシーをする。


「最後にこの白髪が『アオイ』だ。ちなみにこんな恰好をしているが男だぞ」

「好きでこんな恰好をしている訳ではありません…アオイです。初めまして」

「初めまして…」


 白髪の人物は「初めまして」と確かに言った。髪の長さや服装が夢の人物とは異なるが、顔や雰囲気は夢で見たその人と自然にピッタリと重なった。

 そのためかレイナはそのメイド服を着た少年?を凝視してしまっていた。


「…どうした?お嬢さん?そんなにこいつを見ても何も出ないぞ?…もしかして、惚れた?」

「おい、ホーク。俺は俺より強いやつしか認めないぞ?」

「あ、なんでもない!何処かで見たことがあるなって思っただけだから!ほら、いつまでも玄関にいないで居間に行こ!ほら!」


 レイナの慌てたような、誤魔化すような声を聴き、5人は玄関から家に上がった。もちろん、客人である4人はきちんと靴を脱いでから室内に入っていった。



――


 レイナを含めた6人は居間、リビングに移動した。レイナ、父剛輝の2人とホーク、ミーナの2人はテーブルに備えられた椅子に向かうように座った。

 メイドの2人はレイナにキッチンに入る許可と食器の位置を聞き、飲み物の準備を行っていた。

 マリアがテーブルに座る4人にお茶を出し終え、アオイと共にキーソン親子の後ろに控えるように立った時、ホークが話を切り出した。


「今日ここに、日本に来たのは私の天使、ミーナを剛輝に預けようと思ってな」


 ホークが言うにはちょうど日本には仕事でやってきたのだが、その期間は2ヵ月にもなるようであり、その間娘と離れ離れになるのは耐えられないと、娘のミーナと一緒に来日したそうだ。

 しかし、自分は仕事で忙しいため、常に一緒にいられる訳ではない。そんな時、日本に友人である冴月剛輝には娘が居たことを思い出し、そこそこの報酬を出すことを条件として話をつけたのであった。

 

「この2人はミーナの世話係兼護衛だ。まぁ、アオイに関しては偶に私の護衛として離れる時があるけどな」

「それは良いんですけど…私まだ学校ありますし、それに夏休み中は部活もあります」

「その点は大丈夫だ。2人が家にいない間はこの2人が家事をしてくれる。剛輝から聞くに、食事がレトルトや店で買った出来物ばかりだと聞いてな…ほら、悪くないだろ?」

「むぅ…お父さんは良いの?」

「それも含めて俺は良いと言ったからな…お前もちゃんとした料理が出てきた方が良いだろ、ついでにお前も少しは料理のいろはを教え…痛って!!」

「ふん!」


 父からの「料理を覚えろ」と言う言葉に条件反射し、固い肘で強烈なエルボーを剛輝のあばら骨に深々と叩き込む。その一撃は骨を超え、内部の内臓まで達したのか机に突っ伏して痛みに耐え悶えている。

 その様子を見たキーソン親子じゃ「おお~」と声を揃えて感心していた。


「ごほん!まぁ、マリアに料理を習うのは悪くないと思うぞ?うちのマリアは料理が得意でな!和洋中、その他もろもろ殆どなんでも作れるぞ!」

「マリアの料理、美味しいの!」

「恐縮です、旦那様、お嬢様」


 親子2人で絶賛する様子を見て、レイナは本当にこのメイドが作る料理は美味しいんだなと感じ取り、今後の食卓が楽しみに思えた。


「で、アオイだが…まぁ家事はある程度できるが…得意なのは掃除、だなぁ…うん」

「自分の主な仕事はミーナお嬢様の護衛です。料理はマリアさんが担当になります…不審な人物がいる場合には掃除を行います」

「は、はぁ」

「…とまぁ。こいつはこういう奴だから。普通に接する分には問題はないんだが、経歴が経歴でな…詳しいことは剛輝に教えてあるから、剛輝の判断でレイナお嬢さん教えてやってくれ」

「っつぅ~、あい、分かった…」


 剛輝は未だに痛みに悶えていたようであったが、何とか回復してきたのかホークの言葉に返す。

 そんな剛輝を無視して、レイナはアオイの様子や姿を視線に気が付かれないように再度確認する。


 見るに、身にまとったメイド服はマリアが纏うものと同じクラシカルなデザインである。袖やスカートは長く、肌の露出を限界まで抑えている。それに加えて手には真っ黒な手袋が付けられている上に、首元は同じく黒いインナーで隠れている。

 立ち振る舞いは堂々としており、ピンと張り詰めた空気をレイナは感じた。素人の感想ではあるが、ホークの言葉から何か普通ではないことをしていたのではないかと考える。

 顔を見れば見るほど、夢で見た少年の顔がフラッシュバックする。そんなことが起こってしまうくらいにはメイド服の少年?は彼に似ていた。

 

 レイナのアオイを見る様子に気が付いた彼は「フッ」と笑った…そんな気がした。笑ったような少年の顔を見たレイナは「ビクッ」と身体を震わせ、頬を赤らめる。


「どうしたアオイ?」

「なんでもありません旦那様。ところで本日の晩御飯はどうするんですか?今からマリアさんが作るとなると時間がかかりますよ?」

「分かってる。だから今日はせっかくだから日本のデリバリーサービスを使って美味しい日本の食べ物をたくさん食べようと思ってるんだ!どうだ?いいだろ?」

「…まぁ、偶には良いと思いますよ」

「そっけないなぁ、アオイは」

「知ってるでしょう?旦那様」

「…そうだな…ということだ!剛輝達は何を食べたい?私は寿司を食べたい!ちなみに今日は私の奢りだからなんでも頼んでいいぞ!」


 ホークの「なんでも良い」という言葉にまずは娘のミーナが「私もお寿司食べたい!」とはしゃぎ、剛輝もその可愛らしい少女の意見に併せて「じゃあ、折角だし高い寿司を沢山頼むか!ホークの奢りだし!」と切り替える。

 マリアとアオイはその意見を聞き、早速何処かから取り出したパット状の電子機器でインターネット検索を掛ける。2人でお互いの調査結果を共有し、どの店舗の寿司が良いかを協議し、選択する。


「旦那様、こちらの店舗のものはどうでしょうか?」

「ふむ…マリア達が選んだんだ、ここにしよう!」

「ねぇ、パパ?お寿司が来るまでレイナお姉ちゃんと遊んで来ても」

「お、いいぞ!」

「わぁい!お姉ちゃん行こっ!」

「え?ちょ、ちょっと待って!」


 レイナはミーナに連れられ、居間の外に出る。そして剛輝、ホーク、マリア…そしてアオイの4人はその場に残ったままであった。



――



 居間には、互いに見合ったように座った剛輝とホーク、そしてホークの後ろにはメイドが2人。先ほどの和やかな雰囲気とは打って変わって、圧迫感のある空気が支配していた。

 これから嫌な事が起きると云わんばかりに、物々しい雰囲気が辺りを包む。


「で、表向き娘を預けるといって、本当の目的は…」

「ああ、こいつアオイをレイナお嬢さんの護衛にすることだ」

「やはりそうか…そうだったか…」


 剛輝は項垂れ、先ほどとは別の意味で机に突っ伏する。どうやら何かを察し、それを予感していたようである。

 そして剛輝は大きな溜め息を付き、更に言葉を続ける。


「こいつ、アオイはあいつらを退ける程に手練れなのか?」

「ああ、私たちもサポートをしているが…条件次第ではあるが単騎で一団を滅ぼせるほどにな」

「それほどにか…」

「元居た場所が場所だしな…それ以外にも要因はあるが」

「あそこか…報告書は読んだが…良く生き延びていたな。あいつらには散々煮え湯を飲まされ続けていたが、例の一件以来おとなしいのは…」

「こいつのお陰だ」


 ホークは親指で背後にいるアオイに指を指しながら自慢げにする。それを見た剛輝は「へぇ」と歓心した声出す。


「なるほど、な…だがアオイ、お前は今回の件は良いのか?あそこから生き延びたお前がそこまでやる義理はないと思うが…確かにうちの娘を守ってくれるのは助かるが」


 アオイ以外の3人が当の人物に視線を向ける。


「問題ありません」


 アオイは言葉を区切り自分の意思で言葉を紡ぐ。


「レイナを守る。それが私の生きる目的です」


 白髪赤眼の少年はそう、言い切った。


いいねとブクマ、よろしくお願いいたします!!

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