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「特権乱用」

退け! 私達はお嫁さんだぞ!!

『あ、ちょ、ちょっと待ってキャサ……ぬわ────っ!!』


 リビングまで聞こえてくるコバヤシの絶許にレベッカは頭を悩ませる。


「……はぁ、あんな男の何処が良いんだか」


 ソファーに座り込みながら憂鬱げなため息を吐く。


 レベッカがコバヤシを嫌う理由は二つある。


 一つは彼がD型の人類種であること。


 見た目が機械のようになっているD型に苦手意識を持つ者は意外と多い。コバヤシの活躍のお陰で弱まりつつあるものの、未だにD型への偏見の眼差しは強い。同じ人間だとしても、彼らを人間として受け入れる事に抵抗がある者は存在するのだ。


 二つ目は彼が()()であること。


 キャサリンは今の彼を受け入れているが、元々彼との交流が少なくその勇姿を間近で見ていないレベッカは『どうしてあんなのが好きになるのか』が理解できない。記憶を失って中身がほぼ別人になっているというのに何故キャサリンは彼に好意を抱くのか。元々苦手意識があった上に、その拭いされない疑問が嫌悪感となって彼を拒んでしまう。


「……まぁ、嫌な奴ではないのはわかるけど。そこまで惚れ込むような男じゃないでしょ」


 ピンポーン。


 ボソボソと小言を漏らすレベッカの耳にインターホンの音が届く。


「こんな時間に誰よ? まさかキャシーのお姉さん?」


 重い腰を上げてレベッカは玄関へ向かい、軽く髪を整えてからドアを開ける。


「はいはい、どちら様ー?」

「あ、こんばんは。お久しぶりです、レベッカさん」

「こんばんは」

「……ワッツ?」


 尋ねてきたのはコバヤシの夕食を持参したフリスと、大きなスーツケースを持ったサーシャだった。


「……え? 何しに来たの?」

「ええと、その……ちゃんと夕食を食べたのか気になって。荷解きが忙しくてまだ食べてないのではないかと……」

「いや、心配しなくてもちゃんと食べたわよ」

「とりあえず中に入れて」

「何でよ」

「コバヤシに会いたいから」

「は? いや、何を言って……ってちょっと! 何してんの!?」


 遠慮気味のフリスとは対照的にサーシャはスーツケースを押して強引に中に入ろうとする。


「サ、サーシャさん!?」

「ちょっと見てないで止めてよ!」

「え、あっ……!」

「怪我をする前に退いて。あまり強引な手は使いたくない」

「いやもう強引よ!? どうかしてるんじゃないの、アンタ!?」

「忠告はしたから」

「ひゃあっ!?」


 サーシャはレベッカのシャツを引っ張ってスーツケースの上に乗せ、そのまま玄関に突入する。


「きゃあああーっ!」


 ガラガラガラガラッ。


「サ、サーシャさん! 落ち着いて! 一体、どうしたんですか!?」

「別に。ただの仕返し」

「し、仕返し……!?」

「それよりフリスも入って。コバヤシが待ってる」

「……!」


 フリスはサーシャの強引なやり方に戸惑いつつも、ペコペコと頭を下げて部屋に入った。


「……ちょっと」


 大きなスーツケースに乗せられたまま運ばれるレベッカはサーシャを睨みつける。


「マジで殴るわよ、ロシアのチビ。ここは私達の部屋だっつーの!」

「わかってる。でも、コバヤシがいるから私の部屋でもあるの」

「はぁ!?」

「私はお嫁さんだから」


 クールな顔でトンデモ発言をかますサーシャにレベッカは絶句する。


「私は夫に会いに来ただけ」

「……あ、そう……フリスも?」

「えっ! ええと、私はその……あの……はい」


 フリスは顔を赤くし、慌てて顔を逸らしながらもボソッと本音を漏らす。大人しそうに見えて行動力に溢れた二人にレベッカはぐったりと項垂れた。


(……本当に、あんな奴の何処がいいのよ。意味わかんない……)


 あのコバヤシの何処に彼女達を突き動かすものがあるのか。レベッカは頭を抱えるしか無かった。


「コバヤシは?」

『あびゃあああああ────っ!!』

「……お風呂みたいですね」

「……何でわかるのよ」

「そ、それは」

「コバヤシはお風呂でよくあんな声を出すから」

「あ、そう……」


 リビングまで運ばれた後でレベッカはスーツケースから降り、倒れ込むようにソファーにもたれ掛かる。


「……そのケース、まさかと思うけど貴女ここに」

「うん、泊まっていく」

「えっ!? サーシャさん!?」

「フリスの分の着替えもあるから安心して」

「えええっ!?」


 夕食を届けるだけにしてはやけに大袈裟な荷物だとは思ったが、まさかこのまま泊まり込むつもりだったとは流石のフリスも考えが及ばなかった。


「レベッカは一緒に入らなかったの?」

「……何で入らなきゃいけないのよ」

「そう、良かった。ドアを壊さなくて済んだから」

「え、ええと、もしご迷惑でしたら帰りますので……」

「……いやもう貴女だけ帰っても意味ないでしょ。好きにしなさいよ……」

「ご、ご、ごめんなさい……レベッカさん」


 フリスがひたすらレベッカに頭を下げる中、サーシャは徐ろにコートを脱いでスーツケースを開ける。


「それじゃ、私も入ってくる」

「えっ! だ、駄目ですよサーシャさん!」

「フリスも入りたいなら入ればいい。お嫁さんだから遠慮しなくていい」

「で、でもっ」

「お嫁さんだから何でも許されると思わないで欲しいけど、面倒くさいからもう好きにして」


 レベッカは何とも言えない顔でブラブラと手を振る。追い出したいのは山々だが、彼女の力ではサーシャに太刀打ちできないのだ。


「じゃあ、お先に」

「……わ、私も背中を流すくらいなら……」

「それにしても、ちょっと見ない間に二人とも随分雰囲気が変わったわね」

「そ、そうですか?」

「私が貴女達のことをあまり知ろうとしなかったからかも知れないけどさ」

「……」

「コバヤシってそんなにいい男なの?」


 じっとフリスを見つめてレベッカは言う。


「……はい、とっても!」


 おどおどしていたフリスだったが、彼について聞かれた瞬間に満面の笑みで答えた。


「……そう。それならまぁ……いいかな」


 フリスの幸せそうな表情と自信に満ちた声で、レベッカはまた少しコバヤシに対する評価を改めた。



「特権乱用」-終-


\KOBAYASHI\Catherine/ │ \Саша/\Frith/三

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