<3> 第15隊の悲願
「来週から、いよいよ騎士学校卒業生の体験配属がはじまります」
第15隊騎士館の会議室で、ヤン・ニースケンス副隊長が皆を見回しながら言う。いつも雑務と無理難題に追われている、第15隊の副隊長であり事務総長でもある。
隊長や隊員の尻ぬぐいや後処理のためにいつも睡眠不足で、眼鏡の奥の細い目が充血していることも多い。
ヤンは改めて部屋の中を見渡す。
ウィンとルカは眠たそうにしており、エヴァは寝ている。ニアは長い前髪を揺らしながら、嬉々としてノートに何かの地図を書いており、アンナだけは背筋を伸ばしてしっかりと聞いている。その他の隊員たちも、どことなく弛緩した空気になっている。
「わかっていると思いますが」
ヤンはそんな皆の様子を見て、急に大声をあげる。
エヴァがびくっと起きて、「……あれ、もう終わり?」などと寝ぼけている。
「わかっていると思いますが、第15隊にはもう3年新人隊員が入っていません。アンナ、後輩が欲しいと思いませんか?」
ヤンが、唯一の希望とでも言うように、アンナを見て実感を込めて言う。
「あ、ああ……後輩は、欲しいな」
アンナは言う。
「今年こそは、悲願でもある複数名入隊を目指さなくてはなりません」
ヤンはそう珍しく声を張り上げる。
「騎士学校卒業生たちは、入隊したい隊に3つまで希望を出すことができます。そして1週間ずつそれぞれの隊と一緒に業務を経験して、最終的に入隊したい隊を決定します。来週がその3週目で、今年はなんと第15隊を希望してくれている卒業生が2人もいます。昨年はそもそも希望者が一人もいなくて悔しい思いをしましたが、今年は可能性がゼロじゃないのです」
ヤンはそう言うと、かみ締めるように目を閉じる。
「3つしか希望書けないのに、なんでウチを書いたのかしら」
エヴァが不思議そうに言う。
「騎士学校の受付の女の子に聞いたんだが、なんでも、男の方はこの間の開港祭事変のときの、隊長の北の橋の仁王立ちを見て、感動したらしい」
ルカが言う。ルカは鍵開けの達人であると同時に筋金入りの女たらしで、方々にマメに顔を出している。
女性陣が、騎士学校の受付の女性にまで粉をかけているとは……というように、呆れた表情で見ている。
「女の方はその男の幼なじみらしくて、特に希望の隊はないので、なんとなく、合わせて書いたんだそうだ」
「……そう、ですか。なんとなく……」
ルカの説明を聞いて、ヤンが言う。
「でも、その男性は、ガルシア隊長の北の橋での雄姿を見て憧れたってことは、可能性がありますね」
今度は希望に燃えたというように、ヤンが言う。先程から感情が忙しい。
「じゃあ、その二人の引率役を決めたいと思います」
「あ、アタシ来週仕事入っているんでパス」
エヴァが右手を挙げて言う。
「オレは来週から出張なので残念」
ルカが言う。
「私はポルティガ地図学会に呼ばれている……」
ニアが言う。
「地図学会、ですか……」
ヤンが呟き、期待を込めてアンナを見る。
「……申し訳ない。来週は実家の関係で、休暇を取らせてもらっている。以前から申請していた分なのだが」
「……それは仕方ありませんね」
ヤンは見るからにガッカリしてうなだれる。
「ということは……ウィン。あなたしかいません。来週月曜日から金曜日までの五日間、騎士学校卒業生の2人を、第3希望で第15隊を希望している2人を、何としてもうちの隊に入隊させてください」
皆の視線がウィンに集中する。
「え、俺? そんな入隊するかどうかわからん奴の面倒まで見れませんよ」
「入隊させるのです」
食い気味にヤンが言い、ウィンは圧倒される。
「なあ、第3希望って言ってなかったか? 普通に考えて難しいだろう?」
ウィンは振り返って、皆に同意を求めようとする。
「入隊、させるのです。何としても、です」
ヤンが普段見せない執念深い口調で再び言い、ウィンは思わずのけぞるのだった。
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