序章 主を見送った夜――「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です2」本編終幕より――
――500年前。
主ホワイトの亡骸を前に、エクレアは静かに目を閉じた。
「いま、ご主人様の魂が身体を離れました」
その声は穏やかで、けれどその場にいた誰よりも深い哀しみを抱えていた。
「このあと、ご主人様の魂は、わたくしが幽界へご案内いたします」
「ご主人様が次にこの現界へ生まれてくるのは、おそらく数百年は先になるでしょう」
一瞬、沈黙が落ちた。
けれどエクレアは、そこで立ち止まらなかった。
「それまでは、ご主人様から下されたご命令に従うまでです」
「そしてご主人様が再びこの現界に生まれてこられた時、今度こそ、何の憂いもなくお仕えできるようにするのです」
「それまでの間は、ご主人様をお迎えするための準備期間といたしましょう」
エクレアは、順に仲間たちへ視線を向けた。
「シェラはスレートのほうを手伝ってください。イオニアにはベルフラワーのほうをお願いしましょうか」
「・・・・ふふ。あなた方が力を合わせれば、男爵領どころか、一つの国すら造ってしまうかもしれませんね。ですが、それも悪くありません」
「残る二人も、引き続き、ホーネットはゴールド王国を、リューシェはエリューシオン教会と聖女を担当してください」
そして最後に、エクレアはまっすぐ前を見て告げた。
「それでは皆様。ご主人様が再び生まれるその日まで、それぞれの立場で励みましょう」
五人のメイドたちは、その言葉を胸に刻み、それぞれ転移でその場を去っていった。
あとに残ったのは、深い静寂だけ。
けれど、ついさきほどまで五人の女神がそこにいた証のように、神気だけはなおも淡く漂っていた。
これは――
愛する主を失った五人が、再び主に仕えるその日まで、世界を整え、国を育て、歴史そのものに関わり続けた、500年の記録である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
勇者ラベンダーが魔王を討ち果たして以後、世界はひとまず平穏を取り戻した。
世にいう「勇者の聖戦」である。
その功績は中央平原の各地に広まり、勇者の名は、国や種族を問わず、多くの者に讃えられることとなった。
だが、魔王という絶対悪が消え、魔物の脅威が薄れた一方で、今度は人の欲が頭をもたげはじめる。
身分を笠に着る王族や貴族。
弱き者を踏みにじる理不尽。
争い、陰謀、差別、搾取。
それらを見た創造神は考えた。
いつか再びこの現界に生まれてくる、親愛なるご主人様が――
理不尽に傷つけられることのない世界を、少しでも先に整えておこう、と。
そのために、五人の使徒は動き出した。
これは、のちに大将軍と呼ばれる者の物語であり、大魔導士と讃えられる者の物語であり、大聖女、赤髪の騎士、そして世界そのものを裏から支えた者たちの記録でもある。
そして、すべてはここから始まる。




