仕事のスキルは気合と根性、おかしいですか?
「このままじゃ、お前は給料泥棒だ」
この春、新卒で入社した正木圭一は、始発で出勤し、終電で帰る生活を十ヶ月続けていた。
「新卒なんだから、誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰る。俺たちは当たり前にやってきたんだ」
「気合と根性が足りない。コンプライアンスなんて言葉よりも、まずは結果だ」
上司や先輩社員からは、入社以来ずっとその様に言われてきた。
そしていつしか、それが普通のことだと思うようになっていた。
「あなた、だいぶ疲れているじゃない」
「仕事は結果を出さないと。疲れたなんて言っていられないよ」
母の心配をよそに、毎日そう答えていた。しかし、実際には常に頭が冴えなかった。
同期入社は、自分も含めて十人。しかし今現在、三人しか残っていない。長時間労働に休日出勤も続き、病気で会社を去った同僚もいる。
「休みというのは、怠け者が求めるものだ」
休日出勤で目にするものは、カップルや家族連れ。思い思いの時間を過ごしているように、正木の目に映った。しかし、もうそれを羨ましいと思う気持ちもなくなっていた。
ある夜、正木は終電の車内で眠り込み、鞄の中身を床に撒いてしまった。
「すいません!」
慌てて拾い上げていると、隣にいた女性が手伝ってくれた。
「ありがとうございます」
彼女が拾った書類を正木は受け取った。
「駄目だなこんなことじゃ…」
正木はそうつぶやくと、次の駅で降りた。
「あの、ちょっと」
正木はホームで声をかけられた。振り向くと、先程の女性だった。
「あぁ、先程はありがとうございます」
「新卒さん?」
「は、はい。今年の春に社会人になりました」
「あの、今度もし良かったら、ここに電話下さらない?」
彼女は正木に一枚の名刺を渡した。
「はぁ」
「もしかしたら、あなたのお役に立てるかも。大丈夫?一人で帰れるかしら」
「失礼します」
正木は受け取った名刺を上着のポケットに押し込み、ホームを走って駅を出た。
翌朝、正木は強烈な胃の痛みに襲われた。とても出勤できる体調ではない。
[休みというのは、怠け者が求めるものだ]
「俺は怠け者なんかじゃない!」
何とか着替えて家を出る。
「圭一、そんな体調では無理よ。有休あるんでしょ!」
母が必死で止める。
「母さんにはわからないんだよ。全ては気合なんだよ」
母親が両手で正木の頬を抑えた。
「圭一、あなたはどうかしてる!あなたもあなたの状況も普通じゃない!」
「頼むよ放っておいてくれ、俺は大丈夫だから」
母親の手をはねのけ、無理に家を出た。
「胃が痛い?それはこっちの台詞だよ、お前が結果出さないから」
職場に着いて、早速上司にそう言われた。
「すみません、僕が悪いんです」
「そう思うなら、一つでも多く結果を出せ。病は気からだ。気合で治せ」
しかし、胃の痛みは更に強くなり、体を前かがみにしなければいられなかった。額には脂汗が止まらない。
電話を持つ手に力が入らず、ペンを持つ手は震えて字が書けない。
「正木君、だいぶ体調悪いようです。今日は帰らせてあげた方が…」
見かねた同僚が、上司に進言する。上司は大きなため息をついた。
「仕方ないな、じゃあ今日は帰れ。明日はまた一番に来いよ。それから、今日の分は欠勤処理だからな」
「すみません…」
会社を出たものの、正木の息は荒くなり、真っ直ぐ歩けなくなっていた。
「俺…もう駄目かも…」
正木の視界は、ゆっくりと暗くなっていった。
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