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アーケイン・フロント  作者: メグメル
【サンライズ作戦編】第十章:余響
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余響④

章の最後に脚注があります。

「モリタ伍長、でよろしいか?」


中庭の方から声がかかった。目を引く白いFAS制服を着た男が、両手を背中で組み、勤務中のレンジャーの何人かが恥じるほど背筋を伸ばして立っていた。口調は短く切られている。命令されるより、命令することに慣れた類の人間だろう。あの馬鹿みたいな帽子もそうだ……


モリタ伍長は足を止め、反射的に出かけたものを飲み込み、まだ掻き集められるだけの平然さを装って近づいた。


……なんでこの手合いがここにいる?


「神崎レン中佐だ」


男は言った。胸ポケットに手を入れ、黒い身分証ケースを取り出す。片側には令状ディスク。もう片側には、封印付きの勤務身分証が収まっていた。


……白服——ISBだ。あの徽章と制服を見間違える奴なんて、目が見えなくてもいない。


「占領後身元再照合だ」


神崎中佐は続けた。


「戦前住民台帳と、帰還者申告、行方不明者届、死傷者名簿、占領期記録を照合している。ここの責任者であるあの鬼族から、お前の分隊にはこの地区に詳しく、インターステラー語に堪能な人員がいると聞いた」


……へえ。カシンラ先生、仕事が早い。


カシンラ先生が伍長を『人道支援』任務に推薦すると言ったとき、モリタ伍長は書類仕事がこんなに早く牙を生やすとは思っていなかった。「中庭へ行け」とあの人は言った。「お前を探している者がいる」


どうやら、これがその『誰か』らしい——ISB士官。経験上、こいつらから良いものが出てきた試しはない。屋上を出てから、まだ五分も経っていないというのに……


モリタ伍長は頷き、片腕を上げて敬礼した。


「第44レンジャー、E中隊、森田龍己伍長です。で、その公式文句を抜きにすると、何の用ですか、サー?」


「通常の身元確認だ」


神崎中佐は答えた。


「時間のため簡単に言えば、住民の中から反逆者、潜入者、偽装帰還者を炙り出すために、名前、身元、世帯記録を照合している。我々は秩序維持に来たわけでも、支援に来たわけでもない。それぞれ裁定隊と民政部の仕事だ」


身分証ケースを閉じ、煙草を一本取り出す。


「我々は矛盾を処理する」


……『矛盾』、だそうだ。平たく言えば、連中が部屋を仕分けに来たとき、声が変、見た目が変、愛し方が変、考え方が変だった不運な誰かのことだ。あるいは、連中が指さして間違いにできる誰か。


神崎中佐は煙草を唇に挟み、箱を目の高さまで持ち上げて、伍長に一本差し出した。


モリタ伍長は小さく首を振って断った。カティアなら二回腹を裂きに来る。煙草を吸ったことで一回、隠せると思ったことで一回。


代わりにポーチを探ってライターを取り出し、火を差し出した。


……喫煙者であろうとなかろうと、持っていると何かと便利だ。


「了解しました、サー。具体的に、うちの分隊に何を求めていますか」


モリタ伍長は訊いた。


「通訳、現地案内、武装護衛——それとも全部ですか?」


神崎中佐の唇に満足げな笑みが浮かんだ。煙を横へ吐く。


「理想を言えば、三つともだ」


「人数は?」


「最大で一個射撃班。正当化できるなら車両一両。人選はお前に任せる」


「交戦規定は?」


「制限的だ。立ち入り、聴取、拘束、証拠確保は私の部下が行う。お前たちは護衛と外周警備だ。敵対意思が机上の話で済まなくなるまでは、銃口は下げておけ」


……STASI¹か。白服の踏み込み屋ども。どうやらこの蚊の問題には砲兵が必要らしい。


「ほかには、伍長?」


「ありません、サー」


モリタ伍長は答えた。


「人員を集めます。新しい取り決めについては、こちらの上官にも知らせる必要があります」


「手配しよう。私に任せろ」


神崎中佐は煙草の灰を落とした。


「ほかには?」


モリタ伍長は短く間を置き、それから首を振った。


「いいえ、サー。以上です」


「結構。出発前に運動場で合流する。そこまでに部隊と輸送手段を用意しておけ」


神崎中佐はもう一度煙を吸った。


「本日の協力は適切な記録に残される、伍長。カティア氏の釈放請願が審査に回ったとき、役に立つかもしれんな」


背を向け、そのまま歩き去っていった。


……クソ野郎。最初から反論の余地なんてなかったってわけか。


……


いいだろう。なら乗ってやる。気に入るかどうか見ものだ。


五分後、モリタ伍長は運動場で待っていた。左右にはリア兵長とアカネ軍曹。そして頭の中には、すでに用意してある言い訳がある。使い物になるトラックはどれも救援作業に呑まれていた。配給箱、医療搬送、民間人の輸送、その全部だ。ISBにも車はある。もちろんある。だが証拠品キットと白服どもの横に、レンジャーとライフルを後部座席へ詰め込めるものならやってみろ。


残る選択肢はひとつ。


「伍長。なぜ戦車が君の『最適な車両』だと考えたのか、説明してもらえるか」


案の定、神崎中佐はあまり喜んでいなかった。


輪入道の乗員たちは車体の上に不安そうに座り、互いに視線を交わしながら待っていた。アカネ軍曹には寄り道の件を説明済みだ——そして実際のところ、心配するより面白がっている。乗員に足を伸ばさせられるなら何でもいい、とは本人の弁だ。『観光客』のお守りは、たいていの人間から忍耐を削り落とすらしい。


モリタ伍長は振り向き、アカネ軍曹に頷いた。戦車兵は眼鏡を鼻筋へ押し上げ、こちらに笑みを飛ばしてから戦車へ向かった。リア兵長もすぐ後に続く。おそらく車体後部、装填手ハッチのそばにあるお気に入りの場所へ向かうつもりだ。どうやら、最初に乗せてもらったあとで、あの装填手とは気が合ったらしい。


……よし。次は白服だ。


「サー」


伍長は一歩前へ出て切り出した。


「トラックもネコマタも、すでに全部稼働中です。任務用に用意するには時間がかかります」


「どれくらいかかる?」


「向こうが気前よく出してくれても最低三十分。民政部が一両も出さないと言えば、もっとです」


戦車を指さす。


「あれなら今すぐ出せます」


神崎中佐はため息をつき、何かを低くぼやいた——それから笑った。OMNILINKを叩き、伍長へ向き直る。


「よかろう、伍長。まもなく出発する——ああ、待て。行く前に」


校舎の方を指さす。正確には、こちらへ慌てて歩いてくる『観光客』二人と、そのカメラドローンを。


「追加の映像が欲しいそうだ。同行する。だからその渋い顔はしまっておけ。分かっているな」


……素晴らしい。今日はどうしても引き剥がせないらしい。


「我々に続き、最後尾につけ。すぐに出る。乗れ」


昼のチャイムが鳴る前に、車列は校地を出た。黒いネコマタ軽汎用車が三両、まず前へ出る。その後ろを、輪入道が最後尾で軋みながら進んだ。STASI部隊は二両目と三両目に乗り、神崎中佐は『観光客』とそのドローンを連れて先頭車に収まった。


……これが通常の身元確認だと言われて、歩道から見ていた奴がいたら笑っただろう。会話に軍艦を持ち込むにしても、ペリー提督の方がまだ正直だった。


最初の指定区画は、型どおりだった。


……いや、ISB基準での型どおりだ。つまり、二度目のノックが終わる前に扉が開き、誰もが突然、自分がどれほど協力的だったかを思い出す。地区の大半はパブリック・ストラタム向け住宅で、あとは小さな私有地。連邦軍務だの、市民権の見込みだの、連邦が人の人生の土台にさせたがる大仰な誓いだのに、もともと大して関心のなかった家族が持つ土地だった。


それで夜眠れるなら、好きにすればいい。


あのクソ白服は車を降り、徽章を見せ、質問をし、答えのあとの沈黙に仕事の半分をさせる。レンジャーたちは後ろに控えた。戦車はさらに後ろだが、見えないふりなど誰にもできない程度には視界に入っている。


白服が老婆と子どもを半殺しにするほど怯えさせて満足すると、片手を上げる。すると車列は次へ進んだ。


一方でリア兵長は、いつの間にか犬族の砲手——確かウメだったはずだ——と賭けに巻き込まれていた。次の家が何を吐き出すかを当てる賭けだ。玄関に出てきた顔と一致しない書類がまた出てくるかもしれない。誰も説明したがらない行方不明の親族かもしれない。あるいは、屋根裏の従兄弟は昔から住んでいたと三つの言語で誓う、哀れな誰かかもしれない。


……仲良くやっているようで何よりだ。


死ぬほど悪趣味だが、仲良くはやっている。


民間人たちは怯え切っていた。大半は協力した。言われたとおりにしていれば、すべてうまくいく。近くのどこかに銃口が向いているとき、人はそう言いたがるものだ。


それが二時間ほど続いた。


四つ目の指定区画で、空気が静かになった。


始まりは高架橋だった。次に、コンビニの横に昔の駄菓子屋がある曲がり角。その向かいには、何をどう生き残ったのか分からない業務用スーパーが居座っている。その先に、近所の公園があった。野良猫が糞を残していく古い砂場。見栄を張ったどこかの子どもが腕を折ったジャングルジム。モリタが昔、顔から突っ込み、ナオトが顎をぶつけるほど笑ったブランコ。


モリタはリアを見た。リアももう、こちらを見返していた。


「おかえり、ってか……」


……昔の地元だ。最後にここへ足を踏み入れてから、自分たちはどれくらい経った?


公式には、学校区内にあるただの住宅街のひとつ。非公式には、この地区は昔から異界人世帯で知られていた。東京中の誰もが知っていて、それでもあまり口にしない類の町だ。夕方になると、インターステラー語の違う訛りが開け放たれた窓や門先から流れていた。低い話し声と、舌を鳴らすような音。雨が降れば濡れた毛皮の匂いが混じり、ときどき、発音できない表札の前で配送ドローンが引っかかっていた。


ほとんど変わっていないように見えた——もちろん、焼け落ちた家と傷んだ道路を除けば、だが。それ以外は、意地でも見覚えのあるままだった。


先頭のネコマタは進み続ける。モリタ伍長は無理やり視線を前の道へ戻した。昔の地元に感傷的になるなら、あとでやればいい。できれば白服も、カメラドローンも、後ろについてくる戦車もいないところで。


……アカネと輪入道の乗員たちには悪いが。


最初に停まった家は、ありがたいことに誰の知り合いでもなかった。地区の端にある控えめな一軒家で、住んでいたのはティーフリングの夫婦。白服が最初に試した言葉は、一言たりとも通じていないらしい。時間はあまり無駄にしなかった。


『伍長』


神崎中佐が無線越しに呼んだ。声にはすでに余裕がなくなっていた。


『通訳が要る。できれば異界人がいい』


……だろうな。白服が頑張れば頑張るほど、余計に怖がらせているんだろう。まあ分かる。リアなら問題なくやれる。


モリタ伍長は兵長の方を向いた。リアは無言で頷き、戦車の後部デッキからひょいと降りた。


『兵長をそちらへ向かわせます、サー』


「今度は何かなー?」


ウメ上等兵がハッチから声を上げ、笑った。


「不法滞在? 不法占拠?」


「おい、ウメ……」


アカネ軍曹の注意は、前にも同じことを言ったことがあると分かるくらい疲れていた。ウメ上等兵はただ手を振って流すだけだった。尻尾は、自分がどこまで押せるか分かっているみたいに揺れている。リア兵長は肩をすくめ、振り返った。


「たぶん人間を信用してないんです。特に制服の人間は。あなたでもそうでしょう?」


そう言った。


「話してきます」


「へぇ……ウメ、その気持ちは分かる。がんばれー!」


白服を長く待たせることにはならなかった。


慎重に選んだいくつかの言葉。ところどころに小さな笑み。そして最後に、第一世代移民のそれとほとんど聞き分けがつかない訛り。少しずつ、夫婦はリアが白服どもと一緒に来たことを忘れていくようだった。リアは天性だった。舌先ひとつで相手を動かせる交渉役で、しかも本人にはその自覚がまるでない。


五分。それだけで、彼女には十分だった。話を丸く収めて戻ってきたころには、先頭車両はもう次の区画へ移る準備をしていた。


「で……結局なんだったの?」


リア兵長が輪入道の車体へ戻り、元の場所に収まると、ウメ上等兵が訊いた。


「ほらほら、待たせないでよ!」


「その夫婦は占領期を生き延びて、FEO-66を逃れたんです」


輪入道が低く唸って前へ進み出す中、兵長は答えた。通り過ぎる車列に、夫婦が手を振る。リアは笑みを返してから続けた。


「幸運にも——あるいは不運にも、命令が出たとき、二人は息子さんの義理の家族のところに滞在していました。白服が記録と照合して、問題なしと判断しました」


ウメ上等兵はハッチの中へ沈み込み、舌を鳴らした。耳は、命を吸い取られたみたいに垂れている。


「ちぇー……つまんなーい。つまんない! もう陣地に帰っていい?」


「平和を楽しんどけ、ウメ」


アカネ軍曹が言った。


「いつまで続くか分からないんだから」


次の数件も、だいたい同じだった……ほとんどは。


ある家は、命令が区役所に届いた時点ですでに家族ごと埼玉方面へ逃げていて、FEO-66を免れていた。別の家は、占領期を越えて戻ってきたものの、書類の半分は焼け、残りの半分はもう家族の誰も使っていない名前で綴じられていた。三軒目は、奥の部屋にいる老婆は未登録の扶養家族ではなく叔母だと言い張り続けた。リアが、その老婆が歯の間から笑い声を漏らすくらい荒い訛りで話しかけるまでは。


そのたびに、白服が呼ぶ。


そのたびに、リアが行く。


笑み。頷き。そして、あまりに自然にまとった第一世代の訛り。それを見るたび、モリタはそのどこまでが身につけたものなのか、どこまでが単に彼女の中から消えずに残っていたものなのか、考えずにはいられなかった。


それからリアは戻り、輪入道へよじ登り、ウメが予想を始める前に答えを出した。


「避難帰還者」


「登録不一致」


「協力者疑い。STASIが対応しました」


……最後のそれで、ウメ上等兵は笑顔としかめ面を同時に浮かべた。珍しく面白いことが起きたのに、動いたのはSTASIだった。逮捕は一分もかからなかった。男の膝が舗装に落ちる前に、FEDNEWSはもう生中継していた。


そのころには、ウメでさえ声に出して予想しないことを覚えていた。


午後三時半を少し過ぎたころ、先頭車両が角を曲がった——そしてリアが黙った。期待するような目でモリタ伍長を見て、来るはずのものを待った。


だが、それは来なかった。


車列は進み続ける。


リアがほんの少し身を乗り出す。モリタはその視線を追い、先頭のネコマタの向こう、前方の低い塀と、その先にある細い脇道を見た。


……ああ。


理解したときには、リアはもう動いていた。あまりに唐突に輪入道から飛び降りたせいで、アカネの反応を見る限り、軍曹はエンジンデッキが炎上したのかと思ったかもしれない。


『操縦手、減速!』アカネ軍曹が怒鳴った。『位置保持! 乗員が降車。繰り返す、乗員——お、おい、モリ! あんたも!?』


モリタ伍長も後を追った。指はすでにヘルメット通信機に押し当てられている。


『車列先頭、兵長が予告なく降車。待機願います』


同じ角を曲がり、足を緩めた。


道端に、リアが完全な沈黙のまま立っていた。周囲の敷地ごと消え落ちたかのように、門の横の表札を見つめている。その向こうにある二階建ての家は、ホログラムの警察規制線の奥にあった。二階部分の半分が壊れ、外気にさらされている。だがリアは、崩れた壁も、その上を流れる警告灯も見ていないようだった。ライフルは肩の低い位置まで滑り落ち、スリングは緩んでねじれている。そんなふうに忘れられた姿を、モリタはこれまで一度も見たことがなかった。


その視線を追う。


花沢——家よりも、表札の方がまだよく残っていた。


「……リア」


リアは答えなかった。一秒ほど、モリタには近くに停まった車列の音すら聞こえなかった。ただ、リアが鼻から一度息をする音だけがあった。


「花沢邸」


神崎中佐が言った。背後からブーツの足音が続く。クソ野郎……目の前に立っている少女ではなく、フォルダーに付いた名前でも読むみたいな言い方だった。


「戦前世帯記録では居住者は五名。花沢カズヤ、その妻シルヴァリア・アン・花沢——エルフ——および扶養家族、花沢ハジメ、アリス・ドゥ・花沢、リシエンヌ・ドゥ・花沢」


リアの指が、脇で一度だけ丸まった。


白服は続けた。


「FEO-66移送中に行方不明として届け出。該当地域でのイゴール接触後、同人らの車列は指定処理センターに到達せず。生存証人は、攻撃下で隊列が散開したと証言。確認遺体なし。確認帰還なし。敵による拉致の可能性は未確認のまま」


OMNILINKの表示から兵長へ視線を移す。


「後に所在が確認されたのは一名のみ。それがあなたです、花沢兵長」


白服はOMNILINKをわずかに下げ、規制線の張られた家から、その先の道へ視線を移した。リアの耳がぴくりと動く。白服のブーツが砕けた砂利を踏み、彼女の横で止まった。


「予定どおりに出発していれば、接触前に地区を抜けられた可能性がある。最初のイゴールがあの道に到達する前に、軌道植民地行きになっていただろう」


「……軌道植民地?」


モリタ伍長が繰り返した。白服は短く、突き放すように頷いた。


……収容所じゃない、ということか。これは普通の移送じゃなかった。


「つまり、遅れたんですね」


一拍遅れて、リア兵長が割って入った。


「なぜですか」


神崎中佐の親指は、また一定の速度でファイルを送り始めていた。答えたのは、そのあとだった。


「扶養家族一名の回収待ちだ」


リアへ視線を投げる。口元が、笑いもなくわずかに動いた。


「上級弁務官が、その扶養家族が集合地点に到着するまで車列を待機させるよう命じた。後知恵というのは、厄介なものだな」


「……恐れながら」


リアがまた割って入った。その言葉はあまりに綺麗に切られていて、礼儀というより抑制に聞こえた。


「その『上級弁務官』とは誰ですか」


「カズヤに決まっているだろう」


「それは……父、という意味ですか?」


「家族には話していなかったらしいな。立派な男だ」


白服はOMNILINKから目を離さないまま、同じ一定の速度で親指をファイルの上に滑らせていた。リアが一度瞬きし、眉を寄せる。


「父は教師でした。教授で——」



「——公式には、兵長。それ以外はお前の権限外だ」



白服は呼吸でもするように彼女の言葉を遮り、OMNILINKをスワイプして踵を返した。すでに先頭車両へ戻り始めていたが、一度だけ肩越しに振り返り、命令を告げるだけの時間を取った。


「車列はもう十分足止めされた。これ以上の遅延は許容しない。乗れ」


……警告だ。


これ以上突っ込めば、命令不服従として報告する口実を与えることになる。


リアの踵が浮き、それから元の位置へ擦るように戻った。白服が去っていくあいだ、リアは家を見ていた。そしてようやく、モリタへ目を向ける。


……


権限外、か。


自分がリアの立場なら、何も考えずに白服を追いかけ、結果など知ったことかと、引き出せる情報を一片残らず引きずり出していた。下手をすれば、連邦が赤城で捕まえた帝国貴族に使ったのと同じ絞り上げにかけていたかもしれない。


リアも同じことを考えたのかもしれない。知るわけがない。


語ったのは、その目に宿る冷たく、死んだような寒気だけだった——だからモリタは、大人しく脇へ退いた。



___________________________________


脚注


1)SPECIAL TACTICS AND SECURITY INTERVENTION(STASI)

内務保安局(ISB)直属の戦術対応部門。高リスク逮捕、強制突入作戦、人質救出、対浸透作戦、および魔法・シフター・構造体・武装した内部保安上の脅威が関係する事案に投入される。F.A.S.憲兵隊とは異なり、STASI部隊はISBの直接指揮下にあり、内部保安権限に基づいて行動する。大規模投入時のみ、最高宰相級の監督対象となる。


旧秩序時代の東ドイツ国家保安省、通称「シュタージ」とは別組織。


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