『三者会談』 その2
「それで……その三者会談って、いつあるの……?」
「今日のお昼ごろですよ」
「じゃあ、母さんは……それに合わせて、友好派に行くって事……?」
「えぇ、そうですよ」
真剣な顔付きで問い続けるショーナに、エイラは優しく微笑んで答える。ショーナは更に続けた。
「でも……。母さん、一頭で行くつもりなの……?」
「フフ……。そう、そこなんですよ」
「……?」
ショーナの問いに、エイラは満面の笑みで答えるも、その答えが含みのある言い方だった為、ショーナは少し顔をしかめて首をかしげた。そこにエイラが微笑みながら続きを口にする。
「母さんは一頭で行く事も出来ます。出来ますが……当然、母さんが一頭だけで行くのは……ゼロ司令達がいい顔をしないでしょう。……そ……こ……で……!」
言葉の最後でエイラは満面の笑みを浮かべて嬉しそうに声を弾ませ、ここで一度言葉を切り、一呼吸置いた。そして表情そのままに続ける。
「ショーナとジコウに、一緒に付いてきてもらおうかな~……と」
「え? ……オレと……ジコウ……?」
「そうです。ショーナと、ジコウに」
満面の笑みで言うエイラだったが、その言葉に目を丸くし、ポカンとしながらショーナは言葉を返していた。しかし、ショーナはすぐにその意味を理解し、エイラに問い掛ける。
「い、いや……! ちょっと待って、母さん……! それってつまり……母さんの『護衛』って事だよね……? それなら、ちゃんと戦闘部隊に護衛をお願いした方が……」
「フフ……。ショーナ? さっきも言ったじゃないですか。『母さんは一頭で行く事も出来ます』って。
……だから、ショーナとジコウにお願いする護衛なんて、ただの『形』ですよ。万が一、闇の魔物と遭遇する事があれば、母さんが戦いますし」
「いや……それは……、それは護衛の意味が……」
「フフ……。だって、ゼロ司令達は絶対、誰かを護衛に付けさせようとしますから。……それなら、ショーナとジコウにお願いした方が、母さんも気が楽じゃないですか」
「それ……楽なの……? 安全の面では『気が楽』とは思えないけど……」
エイラは満面の笑みで平然と言っていたが、そんなエイラにショーナは苦笑いをし、右手の指で顔を掻き、エイラに突っ込んでいた。ショーナは更に突っ込む。
「それに、オレとジコウは飛べないから、万が一……空から魔物が襲ってきたら、オレ達は地上から対空攻撃をする事になるし……」
「フフ……。だから言ってるじゃないですか。『母さんが戦います』って」
「いやだから……それだと護衛の意味が……」
「フフ……。いいんですよ、ショーナ。ただの『お出掛け』ですよ」
(……いいのかなぁ……)
強引に押し切られたショーナは、再び苦笑いをしながら右手の指で顔を掻いた。ここでショーナは、ふと引っ掛かる事が頭に浮かび、それをエイラに問う。
「そういえばさ……母さん……」
「何ですか?」
「母さん、さっき……『オレとジコウに』って言ったよね……?」
「そうですよ?」
「じゃあ……フィーは……?」
それは自然な疑問だった。これまでショーナは、フィーとジコウの二頭と一緒に生活をしてきたからだ。何より、フィーとの付き合いは自身が半年の頃からであり、この世界でのジコウとの付き合いよりも長い。
それ故に、エイラの口からフィーの名前が出なかった事が気になり、ショーナはそれを問い掛けていたのだ。その問いに、エイラは微笑んで答える。
「ショーナ? フィーは一昨日、負傷したじゃないですか」
「え? あー……まぁ、確かにそうだけど……」
エイラの答えで、失念していた事を思い出したショーナ。彼は少し上に顔と目を向け、若干顔をしかめながら相づちを打っていた。そんなショーナに、エイラは満面の笑みを向けて言う。
「フフ……。パートナーとデートしたい気持ちは分かりますけど、無理をさせちゃいけませんよ? ショーナ」
「母さん……! いつも言ってるけど、オレとフィーは、まだパートナーじゃ……」
「あら、そうでした? 確かショーナは一昨晩……フィーのおうちにお泊りして、フィーを看護して……。隙を見て子作りして、その流れでくっついて寝て、朝は顔を舐めて起こしてもらって……、それで告白してパートナーになったハズですけど……。フフ……」
「いや……創作が酷いよ!」
「あら! そうですか? でも……大体合ってたでしょう?」
「合ってないよ!」
途中から声を弾ませたエイラに、ショーナは顔を真っ赤にして反論していた。その様子にエイラは……
「フフ……フフフフ……。アハハハハハハッ!」
またも大笑いし、
「い……いたい……いたいいたい……。おなか…………おな……おなかいたい……。おなか……」
すぐに腹部の痛みにもだえ出してしまった。それをショーナは、赤い顔で気まずそうな表情をし、少し顔を逸らして横目で見ている。
(……『隙を見て子作り』って……。何かそれ……オレが悪い事してるみたいじゃん……。いや……そもそも……してないけど……)
そんな事を思いながら、右手の指で顔を掻く。
(本当……『恋バナキラキラドラゴン』なんだからさぁ……。これじゃ本題が進まないんだけど……)
ショーナは顔を掻きながら、苦笑いをして呆れている。しばらくし、痛みにもだえながらも、ひとしきり大笑いしたエイラは落ち着きを取り戻した。彼女は満面の笑みで話を再開する。
「フフ……。あんまり笑わせないで下さいよ、ショーナ。母さん、筋肉痛なんですよ? お腹」
「だからさ……。それ、オレのせいにしないでよ……」
エイラの訴えに、ショーナは思わず声を出して苦笑いし、呆れながら答えていた。そしてショーナは一呼吸置き、自ら本題へと話を戻す。
「それで、話を戻すけどさ……。つまり、『フィーは負傷しているから、オレとジコウだけを護衛に連れていく』って事だよね」
「そういう事ですよ」
「……本当に、それで大丈夫なの……?」
「フフ……。大丈夫ですよ、ショーナ。……そもそも、日中であれば闇の魔物なんてそうそう出てきませんし、仮に夜だったとしても、出ても数体ですよ。……それなら、母さんだけが戦ったとしても楽勝ですよ」
「…………」
今の話に、ショーナは少し顔をしかめて鼻でため息を吐く。それを見たエイラは、不敵な笑みを浮かべてショーナに言った。
「あら! 信じていませんね?」
「信じてないというより、心配なんだよ。……何かあってからだと……」
「フフ……。ショーナ? 前にお話しした事、忘れちゃったんですか?」
「えっ……? 何の事……?」
「フフ……。母さん、こう見えて『最強』なんですよ? 忘れちゃったんですか?」
「……そういえば、そんな事……言ってたっけ……」
ショーナは表情そのままに、ぽつりと呟いた。そんなショーナに、エイラは満面の笑みを向けて続きを話す。
「だから大丈夫ですよ、ショーナ。……さぁ! 準備しましょう!」
「えっ……? あ、ちょっと母さん……」
エイラは満面の笑みのまま部屋の出入り口へと歩き出し、その流れで尻尾の先端を水差しの持ち手部分に滑り込ませると、そのまま尻尾の先端で水差しをひょいと持ち上げた。そして、その水差しを尻尾の先端でくるくると回しながら、部屋の出入り口へと歩いていく。
「じゃあ、母さんはジコウを起こして、そのまま先に揉めてきますから、ショーナは食事を取ったら、ジコウと一緒に一本道の前まで来てくださいね」
エイラは満面の笑みのままそう言って、水差しをくるくると回しながらショーナの前を歩いていく。
(……楽しそうだなぁ、母さん……)
ショーナはそんなエイラを苦笑いしながら見ていたが、ここでふと「ある事」に気付いてエイラを呼び止める。
「あっ! ちょっと待って母さん!」
「はい?」
その呼び止めに、エイラは水差しをくるくる回したまま立ち止まり、ショーナへと振り返って微笑みを向けた。すかさずショーナは続ける。
「まさかジコウにも水を掛けて起こすつもり……? あいつ怒るよ……?」
少し慌て気味に言ったショーナに対し、エイラは満面の笑みで彼に答えた。
「フフ……。ジコウにはそんな事しませんよ。……ジコウは普通に起こしますから」
そう言うと、エイラは再び歩き出して部屋を後にした。残されたショーナは苦笑いをし、ぽつりと呟く。
「じゃあオレも……普通に起こしてほしいんだけど……」
そう呟いて束の間、ショーナはエイラの言葉を思い出して少し顔をしかめた。
(そういえば母さん……、さっき『先に揉めてきます』って言ってたけど……。何だ……? 『揉めてきます』って……。『揉める』……? 誰と……?
……まぁいいや、食事して準備するか……)
ショーナは早々に考えるのをやめ、エイラの部屋を後にして食堂へと向かった。




