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鏡に映った自分を眺める、金色のふわふわした髪に、
ペリドットのような黄緑色の瞳。
昔はこのふわふわな髪が大っ嫌いで、
ストレートなまっすぐな髪に憧れたりもしたが、
ダリアがいろいろヘアアレンジしてくれて、
「私は、お嬢様のこの髪、好きですよ」
と言ってくれるので、今ではこのクセ髪も、
そこそこ気にいっている。
赤くてぷっくりした唇。整った鼻。
親バカな両親の言葉を鵜呑みにする訳ではないけれど、
自分でも美人の部類には入ると思っている。
大きな花をモチーフにした髪飾りをつけ、
ご満悦な私に、ダリアは嬉しそうにしてる。
「さあ、朝食の時間です」
そう言って椅子を引き、食堂へ向かうよう促してくれる。
「行ってくるね」
「はい、改めて、14歳おめでとうございます」
「うん、ありがとう!」
頭を下げるダリアを見つつ、食堂へ向かう。
食堂に入ると、いつものように両親はもう揃っていた。
「フェデリア、おはよう、お誕生日おめでとう」
「おめでとう、フェデリア」
「ありがとう!パパ!ママ!」
そう言って両親の元へいき、2人の頬にキスをする。
それから自分の席に向かい、使用人が椅子を引いて
くれたのを確認して、席に着いた。
朝食は、いつもと同じようにパンと玉子料理、
ソーセージにベーコン、サラダとミルク。
「神に今日の糧を感謝致します」
いつものお祈りをし、ナイフとフォークに手を伸ばす。
「ねえ、プレゼント何?」
「まだ、朝食が始まったばかりだよ、
心配しなくてもちゃんと用意してあるよ」
「ケーキもある?」
そんな言葉に両親は嬉しそうに頷く。
「もちろんだとも、3時のティパーティの時、
大きなケーキを用意するつもりだ、
プレゼントもその時に渡そうと思っている」
「えー3時まで貰えないの?」
「それまでは、家庭教師の先生との勉強があるだろう、
頑張ったらご褒美がある、その方がいいじゃないか」
「はーい」
私は、少し頬を膨らませて、不満を表しながらも、
素直に両親の言葉を聞く。
今日の授業は、ダンスと、商会から派遣された
方から、特産品などを学ぶんだっけ。
マナー、ダンス、魔法、読み書き、計算と言った、
令嬢なら誰でも習う勉強の他に、
私は、帳簿付け、地理や地域の特産と言った、
商人に必要な事も勉強している。
貴族は、上から公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家
となり、上位貴族と言われ領地を持つのは伯爵家から。
我が家は子爵家で、食べ物の商売をしており、
この国でもかなり大きな販路を持っている。
商人でありながら、それにより爵位を得ているのは、
それだけ国に大きな影響力を持っている事を示している。
おかげで、上位貴族にも劣らない裕福な暮らしをしていて、
その1人娘である私は、かなりいい生活をさせてもらっている。
いろんな地方の食材や料理、場合によっては、
他国の料理も食べ、これも商人としての、
知識と経験を深める為と言う事で、
舌はどんどん肥えていく。
「今日も美味しかった」
「今日のサラダはどうだった?」
パパが何気なく聞いてくる。
「うーん、美味しいけど、ゴマより、
フレンチのさっぱりしたドレッシングの方が
合うかもしれない」
「そうか」
パパは少し考えるようにしている。
そう言えば、今日のサラダには、見た事がない
野菜が使われていたが、その感想を求められたのだろ。
食材を扱う家だけに、こんな事は日常茶飯事で、
子供の意見として、パパも私の意見を、
結構重要視している事は知っているので、
私も真面目に考えて、答えを返す。
「ケーキもイチゴケーキなのかしら?
いつもチョコレートかチーズケーキしかないけど」
パパが不思議そうに聞いてくる。
「しかないとは、どうゆうことなのだ?
ケーキはイチゴかチョコレートかチーズか、
それだけなのが普通だろう」
「うん・・・・まあそうなんだけど」
不思議そうな両親を前に何とか誤魔化す。
「ほら、その3つの中でも、
誕生日はイチゴが一番多いから、
今日もそうかなと思っただけよ」
「そうなのか」
何とか誤魔化しは効いたものの、
私の中で違和感がどんどん膨らんでいく。
どうして、お菓子と言ったら、
ケーキの3種類しかないのだろう?
クッキーや、ホットケーキ、フィナンシェ。
そんな手軽に食べれるお菓子も存在しない。
両親の方針で、庶民の料理も食べているはずだから、
あるのに知らないなんて事はないはず。
あれ?
そもそも、クッキーって、どこで聞いたのだっけ。
日本では当たり前だったのに・・・・
「あー!!!!!」
日本と言うキーワードを思い出し、
ついつい大声を上げてしまう。
「本当にどうしたんだい?」
普段、大声を上げる事もない私が、
いきなり声を上げたので、両親だけでなく、
給仕も驚いた顔をしてる。
「ううん、何でもないの・・・・何でも」
神妙な顔をしてる私を、心配そうにしている
両親に悪いと思いながらも、
急に思い出した、”日本”と言うキーワードに、
頭はぐるぐるとしていた。