第四章エピローグ
「やはり、すべての魔法が破壊されています」
「破壊? 減衰ではなく、破壊と?」
「はい……信じられませんが、対AM用の15の保護魔法も、すべて……」
『教の国』までの道程を【氷結】で冷凍保存されていたスーヤ・ルーニャの遺体は、祭壇のような場所に寝かされ、十数人に検分されていた。
囲むはすべてが魔法使い。
そして1人を除き、すべてが同じ顔。
それらすべてが、『雨の国』と『布の国』間の街道で姿を現したジェーン・ゴッドアイと同じ顔をしていた。
ジェーンら以外のもう1人。ひときわ目立つローブを纏っていた少女が、周りへ次々と指示を飛ばす。
「それで、再生は可能か?」
「分かりません……最悪の場合、一からやり直しとなります……上手く再生できたとしても、定着に時間がかかりますし」
「構わん。再生を最優先としろ」
「かしこまりました」
「原因は分かっているのか?」
「いいえ。しかし、あの場で不可思議な現象に見舞われました」
少女の問いに答えたのは、スーヤを直接持ち帰ったジェーンである。
「詳しく話せ」
「監視中、一切の魔法を使えなくなりました。AMエリアかと思いましたが、やはり減衰ではなく、根本から魔法が断たれていました」
「……なるほど、スーヤの停止はその現象によるものと考えていいな」
「おそらくは」
少女はスーヤと同じ藍色の瞳を、娘へと向ける。
「皆分かっているとは思うが、スーヤは貴重な成功体だ。繰り返し言う、再生が最優先だ」
スーヤとまったく同じ顔をした少女の声に、揃って御意を告げるジェーンたち。
年頃は10代後半と、娘に比べれば年上に見える少女は、確かにスーヤと血を分けていると言っても通じるだろう。
親娘というよりは、姉妹と言った方が通じやすいかもしれない。しかし、彼女はスーヤの母親である。
彼女こそが『教の国』、そして魔法協会を束ねる人間、クオノ・ルーニャ。
「【魂操】の使用も許可する。できるだけ似た魂を集めろ」
「以前の者たちの親族を使いますか?」
「ああ。近ければ近いほどいい。再現性は未知数だが、回収した分では足りないからな」
「申し訳ありません。突然のことに加え、魔法も使えませんでしたから」
クオノは「過ぎたことだ」と興味なさげに切る。
娘を見つめる彼女の目は、極めて冷淡であった。
「ジェーン、お前が遭遇した現象は固有魔法だと思うか?」
「……それ以外に、説明がつきません。自然現象とは考えにくいでしょう。前例がありません」
「だが魔法なら、前例がある……か」
魔法を完全に無効化する魔法。
永く生きたクオノには、ひとつの心当たりがあった。
1000年前にも確認された、フライフル家の固有魔法である。
勇者アイリアを傍で支え続けた偉大な魔法使い、シェリア・フライフル。魔法学園の名前に使われるほどの偉人だ。
フライフルの固有魔法、【砕魔】。
それが現代にあって、スーヤの居た場所で使われたのだとしたら、娘の停止にも辻褄が合う。
しかしフライフル家は、そのシェリアの代で途絶えている。
血が途切れれば、家の持つ固有魔法も『失われた魔法』となるのがこの世界の定理だ。
隠し子がいて、裏で脈々と血を受け継いできたのだろうか。
そして使い手が偶然にもスーヤの近くにいたのだろうか。
「……申し訳ありません。私の監視対象はスーヤ様のみで、周りの者たちまでに目が及びませんでした」
「お前は命令を過不足なく遂行していただけだ」
考えていても仕方ない。
手っ取り早いのは、調べることだ。
幸い、あの時スーヤの周りにいた人間は少ない。ジェーンにかかれば簡単に身元を明かせるだろう。
クオノはひとまず結論付け、祭壇を後にした。
「誰の仕業か知らんが、計画を狂わせてくれたな……間に合えばいいが」
長い廊下に、ヒールの音を響かせる。
音を聞いた者は、誰もが跪いた。やはり全員が魔法使い。それが魔法使いの頂点に君臨するということだ。
「そろそろあの小火騒ぎにも進展があるか……どの道、愚弟の連邦はただでは済むまい」
娘のボサボサ髪とは似ても似つかない、漆黒の艶を纏う黒髪は、周りの者が面を上げる許可を得て見上げていれば、誰もが見惚れるほどの美しさだった。
「まったく、手のかかることだ」
人工的に人間を作り出す方法を確立してから、ずいぶんと経った。
その中でもスーヤは肝入りの個体だ。
クオノにとって彼女は、欠かすことのできないピースなのだから。
第四章はここまでです
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