38 大会のエレーナ・レーデン 1
普段であれば、この日は休日。
しかしミアは制服に袖を通し、朝早くからクレアに起こされ、まるで学園がある日の様。
王都の闘技場とその周りには、大会と勇者目当てに朝から人で溢れかえっている。
「もっと早起きしてれば~!」というクレアに引っ張られ、ミアは無事闘技場内の控室まで来ることができた。
まだまだ開催の時間には早いが、既に会議で見た面子の全員が揃っているあたり、アイリア学園にとっても勇魔大会は負けられないイベントだ。
ミアは正体さえバレなければ勝ち負けにこだわらないが、他の生徒はこれまで勝ち続けている側として、負けられないプレッシャーというものがある。
少しばかりの緊張が控室を漂っていた。
「遅いぞ! 1年生よりも遅く来てどうする!」
「まーまー、全然早いっしょ? 集合時間まだだし。つーかあのお坊ちゃんも来てないし」
「……」
会議でよくまとめ役をしていたオーソー・ハジン、軽いノリで緊張と無縁そうなリレル・アンチュブ、マフラーで口元を隠し精神統一をするグダン・ガシュ。
リレルも言及したように、貴族クラスの代表はまだ来ていない。
「……じゃ、私はこれで。ミア頑張ってね! スーヤ先輩も!」
クレアが一瞬だけ眉間に皺を寄せ、ミアの背を叩き部屋を後にすると同時に、スーヤに挨拶をしようとしたところで、とてててと小走りで抱き着いてきた後輩に止められる。
「先輩っ、おはようございます」
ここ数ヶ月ですっかり見慣れたお団子ヘアーに嗅ぎ慣れた花の香り。
レンファンは少し緊張しているようだ。少し見ただけでも動きが硬いのが分かる。
あと一瞬だけクレアと睨み合っていたということも、分かりたくないが分かってしまう。
「今日は大事な日ですね……! 私のことたくさん見ててくださいっ」
「いや、私も出るから見っぱなしには」
「先輩は私が守ります。だって私、先輩のことが好きですから……!」
ミア天を仰いだ。そこに天は無く、無機質な天井があるばかりだが。
「おーおー朝から甘いなぁ二股女」
「レンファンってミアにチョーべったりだよねー。もう見慣れたっつーか本番で気ぃ抜かないでよ?」
数回の会議で全員の人となりはだいたい把握している。
普段は軽く緩いギャルなリレルにまで注意されるということは、相当抜けてるように見えているのだろうか。
いや見えているのだろう。会議中、レンファンは話を聞きながらも隙あらばミアにひっついていたほどだ。
代表メンバーの中で『レンファンはミアに相当懐いているし、そういう目で見ている』というのは初回から知られている。そしてミアに恋人がいることも知られている。
「それで作戦だが、皆覚えていることだろう。闘技場は広い。全員の総当たりとなるだろうが、二人一組の鉄則を忘れないように!」
オーソーが熱を入れて再度確認し、さらに言葉を続けようとしたところで、控室の扉が開かれた。
残るひとり、貴族クラス6年生のセリビン・ベバレスクの重役出勤だ。
「む、この私が来たのだぞ。跪け平民ども」
普通の平民、クレア辺りであれば体が勝手に膝をついてしまうだろう。
しかし上級生3人とスーヤは特に畏まる様子もなく、レンファンはミアしか見えていない。ミアは貴族はどうでもいい。
伯爵家の嫡男であるセリビンは少し機嫌を悪くしたように鼻を鳴らすと、空いていた豪華な椅子に腰を下ろした。
「(あ、アレ貴族専用だったのね。空いてるから座ろうと思ってたのに)」
「コホン、それで各組の役割だが――」
「相手は魔法使いだ、心配することはない。君たちは私が華麗に連中を倒すところを引き立ててくれればそれでいい」
オーソーの説明を遮り、威圧するような声でセリビンがそう告げる。
上から目線が板についている命令の仕方だ。慣れっこなのだろう。
場にため息に似た呆れの空気が漂った。
セリビンはそのことに気付いていないのか、気付いて敢えてふんぞり返っているのか分からないが、どちらにしろ貴族特有の図太い神経は彼にも備わっているようだ。
「ま、それで勝てるなら別にいいんですケド」
「ふっ、任せたまえ。君たちの仕事は私の護衛だ。存分に守れよ」
「……ゴホン! では各組の役割を確認するぞ! グダン君とレンファン君の組はセリビン先輩についていき、リレル先輩とスーヤ君の組、そして僕とミア君の組は相手を各個撃破だ」
「ああ、倒さずに弱らせておいてくれよ。トドメは私がもらう」
大統領にかっこいいところを見せ、貴族社会での格を上げたいのだろう思惑を隠すことなく伝えてくる。ミアはいっそ清々しい気さえした。
嫌味な奴が嫌味なところを隠さずにいるのは、ある意味真っ直ぐな奴ということだ。悪い気はしない……わけじゃない。正直このナチュラルな見下し姿勢はミアの嫌うところだ。
「(まぁ本当にコイツが全部倒してくれれば、私も注目されずに済むからいいんだけど)」
それからは特に何も話すことはなく、ただ開催時間を待つのみとなったので、ミアは屋台の食べ物でも食べて朝食の代わりとするべく部屋を後にした。
レンファンもすぐ横を腕を絡めてくっついてくる。
「(この子のことも、考えないとね……懐いてくれるのはありがたいけれど……はぁ)」
「先輩、さっきあっちで私の国の料理売ってたんです。行きませんか?」
「興味あるわね」
悩みは食欲に塗りつぶされ、とりあえず向かってみることにした。
屋台は闘技場の周りにひしめいている。買い食い程度なら集合時間に遅れることもないだろう。
闘技場から出ようとした辺りで、円形に出来上がる人の空白があった。
その中心にはひとりの女性。周りの人間は見惚れながらも、恐れ多いようで遠巻きに見ているといった感じだ。
「あら、レンファン。ミアちゃんも」
中心に居たのはレンファンの叔母にして『拳の国』を代表する世界的に有名な劇団の座頭、ウェンユェ・シンウー。
姪の晴れ舞台を見に来たのだろうか。舞台衣装とは違うが、それでも異国情緒あふれる豪奢な衣服を身に纏い、レンファンと似たようなメイクで飾り立てている。
まるでそこだけが演劇の舞台のようだ。
取り巻くモブに羨望の眼差しを送られ、一挙手一投足が流麗な音楽を奏でるような美しさを持っている。
居るだけで様になってしまう、そんなトップスターに臆面もなく近づく美少女2人。周囲の人間はますます即興の舞台でも見せられているのかという気分になった。
「久しぶりねミアちゃん」
「レンファンを見に来たんですか?」
「私は来賓で呼ばれているのよ。こう見えても有名人だからね」
ニッコリと笑い、小さく自分を指さすウェンユェはやはり若々しい。ミアは不覚にも可愛いと思ってしまった。
「レンファン」
「はい」
ウェンユェに呼ばれ、すぐさま絡めた腕を離して向かうレンファン。
「ごめんなさいね、ちょっとレンファンと話があるから……」
「ごめんなさい先輩っ」
「ああいえ、大丈夫です。私はオススメされた『拳の国』の料理を食べに行くので」
「ああペイムね。私もさっき見たわ」
「あっちの方にあったので、是非食べてみてくださいっ」
ミアは2人と別れ、闘技場の外へと出た。
できればクレアと合流して少しの食べ歩きタイムと洒落込みたいところであるが、もう彼女は観客席だろうか。
あともうひとり、羽目を外しすぎていないか心配な人物がいる。
「うまーーーーーーーーーい!!!!」
ああ、しかも近くにいた。
□□□□□
「うまい! うますぎる!! これが屋台飯というものか! 店主! もう1本だ!」
串焼き屋台の前に陣取り、バクバクと何本も食べる丈夫。
彼は周りがドン引きしていることに目もくれず、感動に体を震わせている。
「アデジア、目立ちすぎ」
ミアが背後から語りかけたのは、魔族大陸の残骸――大陸残滓で生き残った数少ない魔族を統べる魔王、アデジアだった。
「おお師匠! 師匠も食うか「フンッ!」グハッ!?」
「師匠禁止って言ったでしょ。私はミア。あなたはアデジア・ブロンズ。忘れたならもう一度叩き込んであげましょうか」
「おおおお……! は、腹はやめろぉ……食べた物が出るではないか……!」
フンスと鼻を鳴らすミア。
本来であれば魔王、魔族がこんな場所にいていいはずがない。
いいはずがないのだが、現実にここにいる。危険なことだと分かっていても、ミアはアデジアがここに居るのを認めてしまっていた。
勇魔大会に出ることが決まったミアが帰省した時に愚痴をこぼしたのが、そもそもの発端だったと言える。
それを聞いたアデジアが「我も見に行くぞ!」と言い出し、当然断ったミアに対し「嫌だ! たまには師匠の向こうでの生活を見たいのだ! 行きたい行きたい行きたい!!」と駄々をこねた結果、2日だけ王都に滞在することを許可したのだ。
魔族を統べる仕事を2日も空けるのだから、アデジアは過去有数の頑張りを見せ仕事を片付けていた。
これまでのミアならば絶対に許可しなかっただろう。
しかし平和な世界での生活が、少しだけ彼女を腑抜けさせたのかもしれない。
ミア本人は認めないが、封印が解けてから数年も経つ彼女は、優しい時間に慣れ始めていた。
故に甘い判断を下してしまう時が出てくる。
アデジアの見た目は人間として見るにはかなり『強そう』である。
たくましい褐色の肉体、ギラついた金色の瞳、普段の衣装――天使と同じような理由で黒を重んじる魔王のマント付き衣服を着ていれば、コイツが人間だと言うには禍々しい。
なので王都の服屋で適当に男物の服を買い、着せてやった。
それでも漏れ出る強者のオーラ的なものは隠せないが、怪しまれることはあってもいきなり「人間じゃないだろお前」と言われるようなことはなくなった、とミアは思う。
彼が王都に来たのは勇魔大会前日の夜、【転移】でナギサの家まで連れていった。
ナギサはたいへん驚いていたが、彼女もどこかまともじゃない(言い方が悪い)ところもあり、順応能力に関しては信頼しているところだ。
とはいえ魔王と初邂逅した彼女の驚きようは見ものであった。
そして部屋に押し込んで大人しくしてるように命じ、一晩経ってこうしてアデジアは外を出歩いている。
なお着替えたアデジアを見たナギサは「似合ってない」と笑っていた。
「そういえば、ナギサはどうしたの?」
「あやつなら屋台を制覇すると言ってどこかへ行ったぞ」
「あの馬鹿……お目付け役のこと忘れてんじゃないわよ……!」
無いとは思うが、アデジアに何かあってはコトだ。
だからナギサには部屋を貸す他に同行も頼んでいたのだが、適材適所とは言い難いようだった。
「まぁ試合は見ると言っていたし心配いらんだろう」
「何目線よそれ……」
「あっ、ミアー!」
と、人込みをかき分けてクレアが走ってきた。
彼女の明るい赤色の髪は、様々な人種がいるこの空間でもすぐに分かる。
「あら? クレアも外にいたのね」
「まだ時間あるし、友達と回ってたんだ。そしたらなんか人だかりと言うか、注目されてたから……」
クレアがアデジアを見上げる。彼は長身なのだ。
注目されていたというのはアデジアの悪目立ちだろうというのは簡単に想像できた。
おそらくナギサはまた別の場所で同じようなことになっているのだろうなぁと考えると、自分は関係ないのに頭が痛くなってくる気がした。
少し離れたところにはクレアの友人らしき生徒たちが数人いる。
なにやらヒソヒソ話をしているのは、アデジアのことかミアのことか、まぁ両方かもしれない。
「なんだ人間、我に何か「フンッ!」ヘブッ!?」
「!?」
「人間に対して人間なんて言ってどうするの……!」
腹に一撃喰らわせ、アデジアが屈んだところに耳打ちする。
「お、おう……そうだったな……」
「相手は私がするから、あなたは設定だけ守りなさい。破ったらこの場で送り返すわよ」
「ミア……?」
「ああごめんなさいクレア、これはアデジア。私の兄よ」
「お兄さん!?」
アデジアの見た目は『父』と言うには少し若すぎるため、兄という設定にした。
普段から実家のことを謎のままにしているから、それ以上の設定は考える必要もないし、アデジアにも余計なことは言うなと口止めしてある。
「う、うむ……いかにも我がエレ…………ミアの兄、アデジア・ブロンズである」
「へ、へー……ミア、お兄さんいたんだ……似てないね」
「ええ。言ってなかったのは言うほどのことでもないからよ」
「それでししょ……妹よ、このにんげ……娘は?」
何か漏らしそうになる度に射殺さんばかりの殺気を向ける。
ミアはヒヤヒヤが止まらなかった。
「あっ、私はクレア・プレトリアです! ミアとは……えっと、仲良くさせていただいてます!」
「おお! 話はよく聞いているぞ! 妹は口を開けばクレアがどうとかクレアとどこに行ったとか――」
「余計な事言うな!」
「ぐっ……! い、痛いぞ妹よ……」
「へ、へぇー……ミアが……へへ」
突然のカミングアウトにミアは顔を赤らめる。
確かに定期的に大陸残滓に戻って報告はしているものの、世間話となるとよく行動を共にするクレアの話も出てくるのだ。
アデジアはとりあえずクレアというワードだけ覚えていた。
クレアも少し顔を赤くしながら、頬をポリポリとかく。
口元も少し緩んでいた。
「代表に選ばれたって言ったらどうしても見るって聞かなくてね」
「あれ? ミアってそんなにちょくちょく実家に帰ってたの?」
「っ、あ、たまたまこっちに兄が来てただけよ!」
手を振りあたふたするミアの言葉は明らかに怪しいが、クレアは先ほどのアデジアの言葉に浮かれていて気にしなかった。
「それより兄さん、そろそろ席に行った方がいいんじゃない?」
「ううむ、ここはお兄様と呼ばれたいところではあるが……」
「あん?」
「ハハハ! 後であやつと合流して向かうとするか!」
「いい? くれぐれも何もしないように。何があってもよ」
「分かっておるわ」
生徒やその関係者は、一般の観客席とは違い特別スペースで区切られている。ミアはそこにアデジアとナギサの分の席を取っていた。
他の生徒も親などのためにそこを取る者も多く、少しばかり席取り合戦になったが、ミアは代表メンバーということもあり優遇された。
アデジアはここの串焼きはじゅうぶん堪能したのか、また別の屋台へと向かっていった。
残されたミアとクレアは、どうせならと同じ店で串焼きを注文する。
「そういえば、クレアはご家族とか呼ばなかったの?」
「えっ? あー、うん。私代表じゃないしね」
クレアが2年生に上がる前の休み期間にも、特に帰省した素振りを見せなかったのを思い出す。
何故帰らなかったのか理由は知らないが、特に問いただすようなことでもないためにミアは「ああ、そう?」と流した。
「それじゃあ、邪魔したわね。私はあと、ペイム? っていうのを買って戻るわ」
「えーっ! 一緒に行かないの?」
「待たせてるでしょ。邪魔しちゃ悪いわ」
「……別に、いいのに」
少しだけ口を尖らせるクレア。
ミアがクレアの交友を気遣って身を引くことは一度や二度ではない。こういう反応も慣れたもので、そういう時はだいたい決まっている。
ちょうどと言うべきか、ミアもクレアと一緒に回れたらいいなと考えていたし、ここで会えたのは嬉しくなくもないのだが、やはり彼女の都合を無視して振り回すのは憚れた。
「ありがとう。嬉しいわ。でも大丈夫だから」
「うう……それ反則……」
クレアの頭にミアの手が置かれ、そのまま撫でる動きをする。
そうすればクレアは顔を赤くして結局友人たちの方へと行く。よくある光景だ。
「それに、私がミアと一緒がいいのに……」
「可愛いわよ、クレア」
「っ、ふん! いいよーだ!」
ミアが揶揄ってクレアが怒るフリをして、その場は別れることとなった。
「(……やっぱり、少しくっつきすぎかしら……?)」
ミアは少し悩む。
1年生の修学遠征の時、ミアとクレアはお互いの距離感を近くしてもよいのだと確認し合った。
確かにそれで、何を不安に思うこともなく恋人のフリを続けられている。
しかしそれはそれで、上限が無いというのが新しい悩みになる。
恋人いない歴=年齢だったミアにとっては春を喜ぶべきなのだが、あくまで偽装の恋人であるクレアに対して、どこまで恋人らしいことをしていいのか。
「(可愛いっていうのは……やっぱり、言いすぎ……? いや可愛いのは事実だから嘘は言ってないけど、うーん……)」
あまり言いすぎるのも良くないとミアは考える。
言っているうちに、本当にその気になってしまいそうだから。
元々クレアとの恋人関係は、対外的にそうしておいた方が波風が立たないからという理由で作ったものだ。
ミアが本来の目的を達し、エレーナに戻り、彼女から去ることが前提。
気軽に付き合い、そして気軽にお別れするつもりだった。それが一番だと思っていた。
「(……)」
胸の中がチクリとする。
目的を達し、卒業したらはいさようなら。ミアはまた死を求めてどこかへ行き、クレアは冒険者として旅立つことだろう。
そんなビジョンを考えるのが、最近は嫌になってきている。
考えなければいけないのに、それが確定した未来のはずなのに。
「……ホント、バカ。私」
□□□□□
ミアはモヤモヤした気分を晴らすべく、ペイムという食べ物を買って闘技場に戻ってきていた。
白いフワフワな、パンとは違う生地の中に味付けされた肉が入っていて、確かにオススメされるくらい美味しい。満足。
もう数個買っておけばよかったと思いながら控室を目指し廊下を歩き、ある人物を目にする。
「あれがシェリアの……」
黒地に銀色の刺繍が入った、アイリア学園のものと対になるようなデザインのシェリア魔法学園の制服。
あれもまた、魔力の色である黒を取り入れた意匠だ。
動きやすさを意識したアイリア学園の制服と違い、あちらは少しゆったりとしたものになっている。
あれを着る誰も彼もが魔法使いだと思うと、かつて戦場で相手にしていた身としては、少し身構えてしまうのは体に染みついた癖だ。
それにしても幼い。まるで子供だ。1年生だろうか、同じ1年生のレンファンはともかく、スーヤよりかは年上だろうけど、比較対象がスーヤという時点で相当な年齢で――
「…………ん?」
「――あっ」
目が合った。
顔を確認する。驚くべきことに知った顔だ。
ミアはこれが夢じゃないかと思った。思わず「いやなんで!?」とツッコミを入れてしまいたくなる。
「あーーーーっ!!」
向こうも気付いたようで、周りが振り向くほどの声をあげ、一目散に走ってきた。
ミアは驚きのあまり動けず、その抱き着きを真正面から受け止める形になる。
「お姉さまー! 久しぶりなの!」
服は違えど、この配色には見覚えがある。
銀色の髪に深紅の瞳、そして黒い服。
かつて『港の国』で出会った天使、マァゼ。
彼女はシェリア魔法学園の制服に身を包み、嬉しそうな顔で変わらない甘い声を出していた。




