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天柱のエレーナ・レーデン  作者: ぐらんぐらん
第二章 天使編
37/212

【 】――マァゼはマァゼなの

 【おそらく君の場所ではないところ。或いは君のたどり着けないところ】



 ここ、どこ?

 ふぅん、どうでもいいのね。マァゼのこと聞きたいの? いいよ。



 マァゼの名前はマァゼ。だいたい300歳。

 魔族のパパと、天使のママの間に生まれたとってもとっても可愛い娘なの。


 なんでマァゼが生まれたかっていうと、1000年前にすっごい人がすっごい事をして、その力が欲しくてたまらなかった天使長様が、いしゅこーはい? ですっごい人の力を再現した子供を作ってすっごい兵隊を作ろうとしてたみたい。



 天使長様は1000年前にすっごい人を見てから人が変わった~って、他の天使たちも言ってたの。

 戦争が終わって魔族大陸が沈んでから、主天使様を騙し討ちで封印して、長い長い時間をかけて色々考えたんだって。


 ヘブンズコートの第5フロートは封印区画。使われたことはないけど、天使がどうしようもないような相手を封印するためにある場所なの。

 天柱のすっごい技術で作ったすっごい封印装置……らしいの。封印結晶とはまた違うのね。

 そこに入ったら『時』を止められて永遠に停止したままらしいの。

 史上初の収監者になったのが一番偉い主天使様っていうのは笑い話なの?


 で、他の天使にテキトーなこと言って、天使長様は天使の頂点に立ったのね。



 天魔族を生み出すためにやったのがいしゅこーはい。

 大陸の残骸に住む生き残りの魔族を雄雌かまわず攫って監禁して、天使たちに命じて子供を作らせてたの。

 子供の作り方? マァゼはまだできないことなのね。


 でも天使ってすっごくすっっごーーーく子供が出来にくい種族だし、できたとしても数年単位でお腹の中で育って、出産も数日単位でするのね。

 その上、他の種族とは子供がもっと出来にくいし、出来たとしても死産するか産まれてすぐ死ぬの。


 あと天使の人たちも、天使長様の命令とはいえ魔族とそういうことするのはすっごく嫌だったみたいで、結局初めて妊娠例が出るまで500年くらいかかったらしいのね。


 そして戦後700年、今から300年くらい前に、マァゼが生まれたの!



 マァゼはようやくまともに生きて生まれた初めての成功例。そして最後の例。

 天使長様はそれはそれは喜んで、赤ん坊のマァゼに色々なことをしたのね。主に【超速再生】を期待されてのことだったから、覚えてないけど。多分何度も殺されたと思うのね。


 で、結果的にマァゼに押された烙印は『失敗作』。

 マァゼの再生能力は普通の天使のそれで、【超速再生】には程遠いもの。

 もしかしたら能力が進化して超速になるのかと色々実験もされたけど、結果は同じだったのね。


 物心ついたときには、マァゼは出来損ないの禁忌として周りからブベツの目を向けられてたの。

 暗い牢屋がマァゼのお部屋だったし、実験のために外に出たらいっつも誰かしらがぶったりしてきたし、まぁ、ちょっと嫌だったのね。

 別に何かを言われるのはいいの。でも痛いのは、嫌。だからぶたれるのはすっごく嫌だったの。


 それからマァゼは主に天使長様の汚い仕事――自作自演の救済とか、秘密に近づいた人間の始末とか、本来の天使が行うこととは違う使命に使われたのね。


 今になって客観的に見たらかなり都合よく使われてたけど、マァゼにはそれが当たり前のことだと思ってたから、別にどうでもよかったの。

 それに使命をたくさん与えられて遂行するのは天使として偉いことなんだって、天使長様も言ってたから。


 だからマァゼは、疑うことなく、問うこともなく、ただただ使命に従って色んな人を殺したの。

 そうすれば失敗作のマァゼは役に立つんだって証明できるし、そうすればママも喜ぶって思ったんだし。

 人殺しに罪悪感? 虫を潰すのにいちいち罪悪感を覚えるの? あははっ、お姉さん面白いのね。



 ……両親? ああ、パパとママのこと?


 パパはマァゼが生まれる前に用済みで殺されちゃった。ママは、ママのことは大好きだったの。

 ママは私に痛いことしないし、泣かせてもこないし、くりくりした丸い目がマァゼと同じだったから、ああこの人はマァゼのママなんだって感じがして、大好きだったの。


 ママはね、何もしないの。

 ぶつことも、なじることも、話すことも、笑うことも、泣くことも、何もかも。

 天使長様が言うには、魔族とのこーはいに心が持たなかったんだって。


 それでも生きてる。触れることができるし、触れたら温かい。何もしなくても、そこにいてくれる。

 マァゼにとっては、それだけで、それだけですっごく幸せだったの。


 でも、ママも100年くらい前に死んじゃったのね。

 マァゼを産むのに体力を使って、その前後から何も自分から口にできなくなって、水とドロドロの食べ物を飲ませるだけの人だったの。

 あ、ママのお世話をしてたのは私なのね。生まれてから牢屋生活だけど、ママにご飯をあげる時間だけは自由に歩けたの。


 あ、話がそれちゃったのね。てへ。

 ある日ママにご飯を渡しに行ったら、ママは本当に動かなくなっちゃってたの。

 すいじゃく、なんだって。ご飯はあげてたのに、なんで死んじゃったのね。


 一度もマァゼに笑ってくれなかったし、話しかけてもくれなかったし、触ってもくれなかったママ。本当に大好きだったから、本当に悲しくて、しばらく泣いたのね。多分後にも先にもマァゼが泣いたのはあれだけなの。



 それからは、なんかもうどうでもよくなっちゃったのね。

 言われたままに人間を殺して、帰っていじめられて、牢屋でひとりぼっち。


 いつからだったかしらぁ……マァゼね、気になる人がいることに気付いたの。

 わかる? あはは、そうなの。エレーナ・レーデンなの。

 マァゼが作られる理由になったすっごい人。


 気になって仕方なかったから、使命から帰ってきたときにこっそり第2フロートで記録を盗み見たことがあったのね。

 そしたらすっごい人は本当にすごかったの!


 マァゼと同じ天魔族で、禁忌で、それでいて天使と敵対して、天使をひとり殺せる!

 天使って殺すのすっごく難しいのに、やってのけたの。

 どれだけすごいかって言うと、えーっと、手を使わずに口であやとりするくらい! ……分かりにくい? マァゼもそう思うのね。


 でねでね、マァゼはエレーナ・レーデンのことがすっごく気になって、いつか会ってみたいって思ったの。

 マァゼは自由に動けないし、向こうも死んではいないにしろ、死んだのと変わらないような状態だったから、生きてる間に一回会えたらすごいな~ってくらいだったんだけど、とにかく会ったらどうしようかな~ってずっと思ってたの。


 見た目は記録に書いてあったんだけど、実際に見たわけじゃないから想像でしかなくて、どんな声なのか、どんな性格なのか、気になり出したらどんどん止まらなくなっちゃって。

 同じ天魔族だから、『おばさん』っていうのは失礼だけど、『お姉さま』なら大丈夫かなとか。あ、でも『お姉ちゃん』の方が親しみやすいかなとか、『姉上』は流石にないなぁとか。


 だってパパとママが死んじゃったんだから、お姉さまがマァゼの最後の家族じゃない? え、家族じゃないの? どうでもいいの。

 家族じゃないなら家族になっちゃえばいいんだし、マァゼは家族が欲しかったのね。


 で、決めたの。会ったらお姉さまのすっごいところを見せてもらおうって。

 本当に強いのか、本当にすぐ再生するのか、もう見たくって見たくって。


 天使長様の命令とか、天使の使命とか、その頃にはお姉さまを想うことに比べれば、サマツゴトだったの。


 あの時、あの『天柱の人』を追っていった先にお姉さまがいたのは、本当に運命なんだ、って……本当に嬉しかったのね。



 ……え? そうなのね。戦ったの。

 えー、別に迷惑そうに見えなかったのね。

 ……お姉さんなに笑ってるの? マァゼそういうの嫌い。


 まぁ戦ったけど、やっぱり本当に強くて、かっこよくて、よく分からない間になんか胸を貫かれてて、しかもその傷ぜんっぜん治んなくて。

 すごいな~すごいな~って、本当にすごいな~って思ってる間に帰る時間が来ちゃったのは本当に残念だったのね。


 あの後、天使長様に報告したら「どうして2人を追い詰めたのに捕まえられなかったんだ」って怒られて殺されたの。痛かったのね。



 で、数日が経って、ようやくお姉さまにつけられた傷が無くなった頃に、なんかよく分からないけど牢屋の魔法錠が外れて、どうしたんだろ~って外に出てみたら、何回か封印越しに見たことのある主天使様が飛んでる見えて、うわ~大変だ~って思ったら上からなんか光が降ってきて……気付いたら海の中だったのね。


 もうなにがなんだか分からない状況だったんだけど、マァゼってば冷静だったの。

 その証拠に粉々になった第6フロートの宝物庫で運よく残ってた封印結晶の欠片を見つけられたんだから。

 これがあれば主天使様に殺されずに済む! って思ったのね。


 ……死にたくなかったのか、って、死にたくなかったに決まってるの。

 やっとお姉さまに会えた、やっと家族に会えた。これからが楽しいところなのに、死のうなんて思えないのね。



 封印結晶の欠片を持って海から戻ってみれば、あら大変。

 お姉さまと主天使様が戦ってたの!

 しかもお姉さまは裸! なんで裸だったのね?


 それで楽しそうだったから私も混ぜて~! って感じで主天使様に攻撃してみたんだけど、主天使様すっごくすっごく硬くてびっくりしたの。

 ちょっと遊んでから封印してやろって思ってたんだけど、すぐにお姉さまに捕まって、まぁその後は知っての通りなのね。


 近くで見るお姉さま、本当に綺麗で……服って邪魔なものだったんだってあの時初めて思ったのね。



 ……えっ、もういいの?

 そう。じゃあさよならなのね?

 だって、ここはマァゼがいる場所じゃないし、マァゼがいたい場所でもないの。


 マァゼがいる場所、ずっとそこにいたい場所は――



「そうかい、ありがとう。やっぱり誰かと話すのは楽しいね」



 それで、お姉さんは誰なの?



「おそらく君の知らない人。或いは君と出会わない人だよ」



 あっそ。



「ボクとお話をしてくれたお礼に、ひとついいことを教えてあげよう。ボクは彼女には詳しいんだ」



 いいことって?



「エレーナはね、あれで泣き虫なんだよ。すごく、ね」

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