第34話 女神様降臨
暑くなってきましたね。皆さん、熱中症には注意しましょう!
今日は安息日。私は、ルチアちゃん、エレオノーラちゃん、ニノンちゃんと街へお出かけしていた。
「ねーねー、どこにいくの?」
私は、気になってニノンちゃんに訊ねる。今日は、ニノンちゃんが、出かけたいところがあると言って私達はそれについてきたのだ。
「んー、教会に行くんだよ。今日は安息日だからお祈りをするんだ。」
あ〜、この世界にもどうやら宗教はあるってぽいからね。どの世でも人は心の拠り所を求めるんだね。
私は前世日本人だから、前世でも今世でも特に信仰はないけどさ。
「お祈り? ねえ、なんていう神様に祈りにいくの?」
「祈るっていったら、ロクサーヌ様以外ほとんどいないと思うけど。なんで?」
「私、宗教のこと、よく知らないから聞いてみたの。」
その後も4人で話しながら歩いていると、前方に教会のような建物が見えてくる。かなら立派な建物だ。
ざわざわと喧騒が教会の方から聞こえ、大勢の人が教会に群がっているのが見える。教会って、いつもあんなに混んでいるのだろうか?
「ねぇ、ニノンちゃん、教会っていつもあんなに混んでるの?」
「いつもはあんなには混んでなくてもっと静かだよ。帝都には何ヶ所も教会があるから人が分散するの。でも、今日は年に4回の特別な日だから創造神ロクサーヌ神自ら神界から下界してきてくださるんだよ!」
「え、神様いるの!?」
「何言ってるの? 居ないものには名前なんてないよ?」
「う、うん……。」
ちょ、ちょっと待ってよ! 頭でしっかり考えるんだ! 私の頭よ!
宗教って、神の声が聞こえるとか言う人はいるけど、普通、実際に見たことのある人はいないよね!? たぶん……。そもそも、神様が神界から降りてくるってどういうことよ!? 現界できるって、もう『下界できる神様』なのか『神界に行ける人間』なのか区別つかないよね笑。
そもそも創造神ってそんなに簡単に姿を見せるのかなあ。天使とかを造って人間に使わして、神界の玉座とかにふんぞり返ってるイメージしかないよ…
※※※
教会に着く。混んではいたものの何とか座ることができた。よかったよかった。教会の椅子なのに劇場みたいにふっかふかで座り心地がすごくいい。
前方には白大理石の祭壇と、大きなステンドグラス。聖典の一場面らしい。金髪の女の人(ロクサーヌ神かな?)が、白い髪にピンク色の瞳の女の人と、学者みたいな服を着た男の人をしたがえて、黒い羽をはやしたライオンを踏みつけている。傍に生えている木の上から、黒い服の男の子がそれを見て嗤っている。
いったいどんな場面なのかな?ちょっと気になる。
待つこと10分。
「それでは皆様、間もなく唯一神にしてロクサーヌ教の教祖であられるロクサーヌ様が下界なされます。くれぐれも失礼のないようお願いします。」
司祭さん(?)が宣言する。もうすぐロクサーヌ神が現界するらしい。神様とはどんな存在なのか楽しみだな。
神様への捧げものらしく、帝国で1番の出来らしい葡萄酒と、大粒のルビーが飾られた黄金の首飾りが祭壇に備えられた。
――その瞬間
教会内の一番奥の辺りに光が迸る。
床に幾何学模様が現れる。魔法陣だ。床だけじゃなくて、礼拝堂の壁までどんどん覆っていく。
教会内には風がごうごうと吹き荒れる。物凄く強い。
あまりの眩しさに私は目を瞑る。きっとこの場にいる誰もが眩しくて目を瞑っていると思う。
30秒程この状況が続いただろうか。瞼越しに光が収束し、だんだん弱くなっていくのが感じられる。
恐る恐る目を開けてみる。
――!?
そこには神様がいた。本物だと疑うべくもない存在だとわかる。これが、肌で感じるというやつだろうか。
光沢のある白絹で織られた長衣が瑞々しく豊満な美女の肢体を覆っている。大きく開かれた胸元に添えられた腕は処女雪色。
すらりと伸びた足がスリットから零れ、息を呑んで見守る群衆へ1歩近づく。
月桂樹の葉で編まれ、赤い薔薇が飾られたた冠を戴く太陽のように鮮やかな金髪は豊かに波打ち、ゆうに腰ほどまで届いているだろう。
うっすらと透ける白いマントを黄金の金具で肩に止められ、教会のステンドグラスから差し込む光に極彩色の宝石飾りが煌めいた。
ゆったりと閉じられていた白い瞼が開かれてアメジストの瞳が現れ、形のいい真っ赤な唇が妖艶に弧を描く。
そして神様の後ろには、様々な色の髪や瞳を持つ見目麗しい天使たちが何人も付き従っている。銀鎧に身を包む、青年の姿をした左右の近衛天使たちがそれぞれ槍や剣を交差させて、打ち鳴らし、少女の姿をした侍女天使たちは美しき女主人の衣やマントの裾を恭しく捧げ持った。
茶色の髪の男の人が祭壇の前に進み出た。格好からして、上級貴族みたいだ。付き従っている黒髪の男の人と一緒に女神様に跪く。厳かに女神様へと、日々の恵みへの感謝を述べ始めた。
ニノンちゃんがこしょこしょと教えてくれる。
「あの人がレコルド帝国の皇帝陛下で、後ろにいる人が宰相閣下だよ。」
皇帝ってことは、アデルちゃんの伯父さんにあたる人だ。宰相さんは『皇帝の懐刀』と名高い切れ者で、帝立学院のスポンサーでもある凄い人らしい。
ニノンちゃんから聞くところによれば、ファルファラ教国の教皇聖下がロクサーヌ教のトップで、レコルド皇帝は帝国最高司教も兼ねてるんだって。
「……尊むべき大地の母、髪美しき主神よ、貴女の下僕・婢女たちの贈物を受け取って頂くことを、伏して願い奉ります。そして、いずれ我らに降りかかる争いにおいて慈悲深き御手で我らを癒してくださいますよう。」
私たちがおしゃべりを(小声だからね!)しているうちに、皇帝陛下の女神様への口上は終わってしまった。
じっと耳を傾けていた女神は微笑むと祭壇のワイングラスを手に取った。紅い美酒を白い喉が嚥下する。
―――その贈り物、確かに受け取りました。森羅万象の女王たるこの妾に、これからも其方たちの祈りを捧げなさい。――――
艶めいた美声が教会内に響く。
その後、聖歌隊による賛美歌が始まる。私は、暇なので周りをキョロキョロと眺める。
ロクサーヌ神はというと、天使が虚空より取り出した長い腰掛けに座り、歌に耳を傾けている。え、何あれ。ツッコミどころ満載なんだけど!あれは、空間魔法……? そんな属性聞いた事ないけど……。 天使、チートじゃん!
まあ、ただ座っているだけで絵になるとはこういうことなのか。
――!?
ロクサーヌ神と目が合った。
私は、反射的に目を逸らす。何か悪い予感がする。目が合っただなんて気のせいだと思いたい。
―――貴女、妾と今、目が合いましたよね。―――
うわ、喋った! これって、私のこと、言ってるのかな……?
横に座るルチアちゃんの方をチラリと見る。目を閉じて静かに、聖歌隊の歌に聞き入ってるみたい。何だか神聖なオーラが出てて、ちょっと気になるけど…
女神様の声が聞こえてないのかな?
ルチアだけじゃない。他の人もだ。みんな、ついさっきのロクサーヌ神の声が聞こえてなかったみたい。
じゃあ、私だけに、話しかけられてるってこと……?
恐る恐る女神様の方を再び見る。
また目が合った。もう確定だ。なんで私なんかに用があるのよ……。
―――そうよ。正解。自力で答えにたどり着いたのね。賢い子は嫌いじゃないわ。それと、私なんかじゃない。貴方はとても輝いて見えるわ。そう、あの子みたいだわ。
妾ね、美しいものが大好きなの。どう? 妾の元へ来ない?―――
頭に直接ロクサーヌ神の声がひびいてくる。
え、このひと、なにいってるの……? 私にロクサーヌ神の元へ行けってこと? 嫌だよ。ルチアちゃん達と一緒にいたいもん。
―――そう。今回はここで引いておくわ。ふふ…色良い返事を待っているわね。―――
それきりロクサーヌ神の声(?)は聞こえなくなる。
なんだったんだろ、今の。私、ロクサーヌ神にスカウトされたの……?
※※※
レコルド帝国の宰相は、女神が神界へと還る直前、にわかに面を上げて彼女と目をあわせた。群衆も天使たちも、誰一人として2人が一瞬見つめあったことには気づかなかった。
ニヤリ。
皇帝の後ろに控えていた時に纏っていた怜悧な空気は欠片もなかった。
嗤う彼の意図がわからず小首を傾げたものの、献上された宝飾品に上機嫌になっていた美神はそれ以上気にすることなく、光とともにその姿を消した。
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そら




