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第二話猫の様な者たちが住む村

 ケットシー族ナナ

 それが私である。年齢は36歳になった。

 耳は大きくふさふさで、頭の上に二つある。手先は器用で、身体もしなやか。胸は無いが、それはケットシー族であれば皆そうである。

 そんな私は村の中では荷馬車で村で取れた野菜や肉、山で取れるキノコを集めて各村を回りながら物々交換を行っている。

 人間の住む街ではお金を必要とするのだが、この島ではそれは必要なかった。どの村の人々も迫害されたりして行き場を無くした者たちが集まって出来た集落だからだ。

 もちろん、全ての人間がそう言った考えでは無いのは分かる。この島でも、一月に一度は人間の船が来る。彼らは、島では手に入らない様な物資を運んで来てくれるのだ。

 その時には多少のお金も必要になるのだが、島で採れた食材や魔石を買い取ってもらい、そのお金を使って手に入れていたのだ。

 また、そう言う船にはこの島に逃げてくる者達もいたりする。

 そうやって私達の親や仲間はこの島で生きてきたのだ。私達もまた同じ様に過ごしていく。

 今日は方々の村を周り最後の隣村を出て、あとは家へと帰るだけだった。荷馬車であれば、陽が沈む頃には辿り着けると思っていた。

 まだ陽は高く、今から帰れば愛する夫と成人したばかりの娘の待つ家へと帰れると考えての事だったのだから。

 心配だったのは、最近現れた村の外れで目撃されたゴブリンと言う魔物マモノだが、あまり体格も良くはなく外の世界ではとても非力な存在だと聞いていた。

 繁殖力は高い、との事だったので群れが近くにいるかもしれない。そう考えて、夫と村の自警団が住処にしていそうな場所を見回っていて見付けた場合は退治していたという。

 小さな荷馬車はリトルボアに引いて貰っているし、物々交換で手に入った品物の中には日持ちしない物もある。早く帰って、村のみんなに配ろうと急いでいたのもある。

 結果として、その判断が間違っていたのだ。

 小さいとはいえ、魔物である。悪知恵が働くのかちょっとした仕掛けは出来るようだ。結果としては、荷馬車は倒れリトルボアは殺された。私も荷馬車から落ちた時に腕を倒れた荷馬車に巻き込んでしまい捻った痛みで動けなかったところを思い切り殴られてしまって意識が朦朧としてしまった。

 夢でも見ているのだろうか、そんな不思議な感覚で運んできた麦や干し肉を食い散らかすゴブリンの様子を見ていると、あらかた食い尽くしたのか次は私と死んだリトルボアを何処かへと運ぶようで持ち上げられた。

 そこでふと何処かで聞いたことを思い出した。ゴブリンは性別が雄しかおらず繁殖相手が雌であればその繁殖の相手とするらしい。

 ただ、産ませる為の道具にするというのだ。産んでは孕まされ、また産んでは孕まされる。それを考えるとゾッとする。恐ろしいが逃げ出したくてもいまだ身体は言う事を効かない。

 せめて、自分で命を断とうと思ったのだが恐怖でそれも出来ない。

 森の中を何処かへ移動していると、後ろから誰かが追いかけてくるのが見えた。この島には居ないはずの人間で男女二人組だ。

 助けて、そう言ったのが聞こえたのか手に持った何か武器の様な物が音を出したかと思うと私を運んでいたゴブリンが倒れてもがく。

 二人はとてもよく似た様な格好をしていて、武器の様な物を手に持っていた。何か音がする度にゴブリンは呻き仰け反って倒れる。

 あっという間に、私を襲ったゴブリン三体の魔石マセキだけ残して消えた時には私は助かったのかと安堵した。

 女性の方が、手早く私の傷を手当てしてくれる。その間、助かった事で少し意識を手放してしまったようだ。

 気が付くと、傷めた腕は包帯で巻かれていて手当も終わっていたようだ。

 女性は身長も高く、黒い髪は肩口で切りそろえられていて吸い込まれてしまいそうな黒い瞳を持っていた。

 また、近付いて自分に優しく声を掛けてくれた男性の方も同じ様な黒髪を短く刈り揃えて、また女性の方とは違う力強い瞳をしている。どことなく夫の瞳に似ていてドキッとしてしまった。




 森の中


 なんとか救出する事が出来た。しかし、魔物を倒した実感と言うのが分からない。

 死体は残らずに、代わりに魔石と石が残されるだけだからかもしれない。まるでゲームのようだ。

 でも、ゲームだと魔物を倒すとなぜか少量のお金が手に入るのだからこれもおかしくないのか。

 最近だと、お金では無くその魔物の素材だったりとか依頼を受けて達成する事で資金を手に入れるとかもあるので必ずしもそうではないが、納得するしかないのか。

 自分が死んでも、同じ様に石が残るのだろうか。


 「直人殿っ!女性が気付いたのであります」


 十和の声で、思考が引き戻される。何時の間にか、警戒していたはずが考え込んでいたようだ。

 彼女には擦り傷や切り傷が見受けられる。十和が触診したところ、腕を捻っているようで添え木を当てて包帯で固定しているようだ。

 十和は何かこういう事もしていたのだろうか、手際が良い。


 「おや、直人殿?」

 「いや、十和の処置の手際が良くて驚いていたんだ」


 「褒めても何もでないであります」と十和は言うが、まんざらでも無さそうな表情である。

 女性の側にしゃがみ、なるべく優しい声で話しかけてみる。

 しかし、反応は無い。もしかすると、言葉が通じないのではないだろうか。


 「十和、すまないが彼女に言葉は通じているのか?」

 「さて、どうでありましょうか。言葉、分かるでありますか?」


 女性の姿を改めて観察してみる。背丈は高くない。百五十センチくらいだろうか。

 人間のような姿をしているが、良く見ると頭の上には三角に尖っていてピクピクと動いている。

 どんぐりのようなクリクリとした瞳は大きくて潤んでいた。顔の全体的な印象は猫の様に見えるが、人間では無いのだろうか。


 「はっ、はい。言葉、分かります」

 「良かった、伝わっているようですね。ここは何処ですか?」

 「直人殿、まずはこの場所から離れた方が良いのではありませぬか?」


 十和の言う事ももっともだ。


 「すみません、焦っていたのかもしれません。安全な場所へ行きましょうか」

 「村、があります。小さな村。その前に、ブルを運んであげたい」

 「分かりました。そこへ案内お願いします」


 体格も自分の方が大きいと言って、イノシシのような生き物の死体を運ぶことにした。このまま放置するわけには行かないのだと言う。

 女性は少しふらつきもあるが歩けると言うので先導を任せることにする。

 十和が魔物の襲撃を警戒しながら森の中を進んで道の方へと戻る事にした。女性の名前は、ナナと言うそうだ。

 ケットシー族という種族の女性で村から村を移動して村で採れた野菜や肉を持って運んでいるのだそうだ。

 ここは、島らしく先程の様な魔物が出ること自体は珍しく最近になって現れているのだと言う。陽が沈むまでには村に戻れると考えたのだそうだが、簡単な罠のようなものが仕掛けられていたのだと言う。

 壊れた荷馬車を見るが、残されていたのは食い散らかされた食料だけである。今は荷馬車を回収することも出来ない。歩いて村へと向かう事にする。


 「どれくらいで着きそうですか?」

 「そんな遠くありません。もうすぐです」


 陽も傾いてきた頃、ようやく村が見えてきた。

 森を抜けて、丘を下ったところに小さな村が見えてきた。村の周囲をグルリと囲む塀が見えていて篝火も焚かれているようだ。

 せわしなく動く人影も見えている。 村がもう目の前に見えてきたところ、村の入り口から走ってくる人影が見えた。

 腰のホルスターにあるグロックを確認する。すぐに襲われると言う事はないだろうが、櫓からも視線を感じている。こちらには向けていないが弓に矢を番えているのを見えている。

 万が一の場合は、一戦交えてしまいかねない。


 「ナナっ!?ナナ、無事か??」

 「あなたっ!私は大丈夫、彼らが助けてくれたの」


 ナナを抱きしめるのもまた頭の上には猫耳を生やした男性だった。身体付きはガッシリとしている。

 猫の様な印象を受けたナナとは違い、男性の方は虎の様な印象を受ける。腰には、剣だと思う。一振りだが下げていた。


 「ヒューマ族か?なぜこんな島にいる?」


 もう一人のケットシー族が近付いてきた。こちらは豹のような印象だ。

 みな、身長は同じ様に低いのだが体格などが違う。彼はスラッとした細身である。

 声で男性かと思われる。彼はすでに手には鞘から抜かれたサーベルの様な物を持っていた。


 「ヒューマ族?」

 「我々の事でありますかな?」


 十和と顔を見合わせて、考える。なぜ、と言われても正直なところ分からないのだから仕方ない。

 十和は自分に言うのを任せるのか、それ以上には何も言わない。正直に話てみるしかないだろう。


 「正直に言いますと、まったく記憶にないのです。なぜこの島にいるのか、何をしていたのかでさえもです。自分は直人ナオトと言います。此方の女性は、十和トワ


 自分の紹介で十和がお辞儀して挨拶すると、驚いた様な顔をした。

 ここで、ナナが何があったのか説明してくれたおかげで豹のような男もサーベルを鞘へと戻してくれたのだ。

 ただ、記憶が無い事は信用していない様子だ。それは仕方のない事である。


 「今日は、もう夜だ。村へこい。ナナの命の恩人だ、ありがとう」


 ナナの夫、虎の様な顔付と縞模様のケットシー族はドッドと言うそうだ。豹の様な彼は、バルバ。ともに村の守り手だと言う。

 他にも数人の村の男達が夜には松明を持って巡回しているそうだ。

 イノシシは、ボアといって村では畑を耕したり、荷を運んだりととても役立つのだそうだ。

 また、その肉を食べる事もあるのだと言う。それだけ村にとっては貴重な存在なのだそうだが、魔物のせいで一頭失ってしまった。

 唯一、良かった事と言えば死体を持ってきた事で食べ物だけはなんとか確保出来た事だと言う。ケットシー族の女性が恐る恐る自分から受け取って何処かへと運んでいく。


 「ここは、サイの村だ。今日は泊まってもらうが明日には出てもらう」

 「バルバっ!すまない。あまりヒューマ族には良い思い出がないのでな」

 「いえ、すみません。そういった事にも疎くて」


 バルバは、持って帰ってきたボアを処理してくると言って出ていってしまった。

 こちらを一瞥するが、何か思う事でもあるのだろうか。


 「私達はまだヒューマ族と争っていた当時には生まれていなかったのですが……。直人さん達の様な方もたくさんいらっしゃることを知っています」

 「うん、ただバルバはそうはいかないからね。おっと、辛気臭くなってしまうな。改めて、この度は妻を助けてくれてありがとう」


 改めて礼を言って頭を下げるドッドとナナだ。礼には及ばない事を言って頭を上げてもらう。

 今日はゴブリンが村の近くに現れてたという報告で村の男手がそこに持っていかれてしまったのだそうだ。

 その為、ナナの帰りが遅い事に気付いてのが夕暮れも近い時だった。慌てて捜索隊を編成して出ようとしたところに我々がナナを連れて戻ってきたので安心したのとなぜここにヒューマ族がとなっているらしい。

 今日は家に泊まるってくれと言ってくれた。陽も暮れて、夜の森は危険だと言う。また、村のケットシー族皆がヒューマ族に対して良い感情を持っているわけでは無いので安全の為でもあると言う。


 「今日のあの痩せたあれは魔物ですよね?」

 「そう。あれはゴブリンという魔物だよ。一体一体は非力だし大した魔物じゃないんだ。問題は数が多いと畑も荒すし女性を攫う事もある。繁殖力は高いから数もすぐ増えるんだ」


 そして、簡単な罠を張ったりする事も出来る為にサイの村の様な小さな村には脅威である。

 巣を見付けて潰してきたのだが、明日からもしばらくは警戒し森の中も巡回すると言う。

 先程運んできたボアの肉だろうか。それと少しの野菜のサラダの様な物とちょっと硬いパンの様な物をケットシー族の女性が運んできた。

 人数分持って来てくれていて、是非と言うので十和と食べてみる。肉は、硬くはなく豚肉を食べているようだった。野菜のサラダやパンも普通に食べれるものだ。

 身体に合わないとかも無く、用意してくれた物は全て完食、感じてはいなかったのだがお腹は空いていたらしい。

 空き部屋に案内されそこに寝そべる。疲れもあって、すぐに寝つくことになるのだった。

 どれくらいの時間が経ったのだろうか。ふと、尿意を催して起きる。十和はぐっすりと寝ており起こさない様に部屋を抜ける。

 トイレと言ったものは無いのだろう。外でしようかと思いナナやドッドを起こしてしまわないよう歩く。

 部屋の明かりがついている。まだ、起きているのだろうか。


 「ナオトさんや、トワさんはすごく強いのよ。ドッド、お願いしてみたらどうかしら」

 「村の事だぞ?それを外から来たお二人にお願いするとは……」


 おや、何事だろうか。二人が何か深刻な顔をして何やら話している様子だ。

 ここを通らなければ外には出れない。意を決して声を掛けていくことにする。


 「まだ起きていたんですね。ちょっと、お手洗いに」

 「あ、あぁ。ナオトさん。もしかして起こしてしまったのでは?」

 「そんな事は無いですよ。でも、何かお手伝い出来そうな事であれば出会ったのも何かの縁です。話してみては?」


 何処か、ホッとしたような顔をする二人である。

 これは深刻な問題なのだろうか。明日また改めてお話しますと言うドッドとナナだったのでトイレを済ませ部屋に戻る。

 話を聞いてみて、無理なら断れば良い。そう考えて、また眠りにつくのだった。


 

 第二話も読んでくれてありがとうございます。

 まだ大きなことが起きたりはしていませんが、これからもよろしくお願します。

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