閑話 虚空門番side
俺の目の前に居るのは悪名高かったオルシアの現当主、イゼリア様がいる。
高かったと過去形なのはイゼリア様が様々な改革をして、オルシア家どころかこの国の汚泥を叩きだしたからだ。
そんなイゼリア様は美しいと形容されていたが実際目の前に居るとそんなもんじゃない。
絹より艶を弾く黒髪、深い射干玉のような黒目。冬の新しく降った降りたての雪のような肌といい本当に美人って言葉が霞むほどに美人だ。
そのイゼリア様には2人の凶悪な番犬が付いている。
社交界ではそう言われている。
女性はその2人の名前を聞くだけで色気だち、男性は若い貴族連中が揃いも揃って顔を真っ青にさせる2人だ。
まずはイゼリア様の弟君であるギルバート様。
澄み切った深い藍色の瞳にイゼリア様と似た黒髪の持ち主で、類希な魔力を持った方だ。パッと見は……そうだな黒猫みたいな感じだな。俺的には。
年の割には可愛らしい見た目をしてるからだろうな。
パッと見は武闘派などには見えないが、笑えないことに魔力素養のあるものは武芸を使えないという考えを飛ばし正直魔力なくてもなんとかなるんじゃね?的な感じの人になっている。
……あとはアレだ。
イゼリア様が仰っている性格とギルバート様の性格が全く違うことも有名だな……。
なんせ10代後半から20代後半までの貴族はギルバート様の事を魔王とか鬼畜とか呼んでるもんな……。
もう1人はヒューリと呼ばれている従者だ。
緩く結んだ長めの銀髪に紅玉のような綺麗な赤色の瞳の持ち主でこれまた美麗な男だ。
従者という身分ながらその美貌のおかげで数多の貴族女性から言い寄られているらしいが、当の本人はイゼリア様とギルバート様の他は限られた人にしか笑わない……というか表情が動かない。
まぁこれはオルシアの全当主の悪癖の被害にあったのかもしれねぇな……。
もう少し幼かった頃は変態ほいほいだったらしいもんな。
それにしてもオルシア現当主は変わってると聞いたけど本当なんだな……呪われた虚空の門番の家に来るなんて。
我が家はその昔本当に普通の農民だった。
ある日虚空から選ばれるまでは。
あまり知られていないが虚空は門を自分で作り、その鍵は虚空自身が適当に選ぶらしい。
鍵とはその門番の血と魔力、……まぁあとは色々あるんだが説明がめんどくさい。
そんなこんなで貴族の中でもそこそこ高い立場には居るんだが、何分人を狂わす虚空の門番だ。
貴族連中からは卑しい身分の癖にと蔑まれ、同じ身分だったものは呪われた門に魅入られた狂った一族と村八分にされ居場所を失った。穏やかだったはずの村の生活は崩れ、ひたすら罪人を管理し、恨み言を聞く日々が続き、慣れぬ宮中の作法、周りからの迫害に病んだ先祖は数しれず、門番の一族は与えられた領地に引きこもるようになる。
そうして閉ざされた空間の中で俺たちは病まないように苦しまないようにと育てられる。
だから忌み嫌われる事が普通だと思っていた。なのにイゼリア様達は俺達に普通に触れて話し掛けてくれる。
あの3人は何とも思っちゃいないだろう。
普通に話し掛けただけだと思ってるはずだ。
奴隷にすら蔑まれる人以下の家畜より卑しい門番一族。
そう長い事迫害され優しさなど一欠片も与えられなかった俺達一族はそんな優しさ一つで忠誠を誓えてしまう。
(あの3人は知らないままでいい。たとえあの3人が嵌められて虚空に放り込まれるような事態にあったら俺達一族が国に反旗を翻してやろうなんて思ってること)