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第23話

 ***


 三回目の会談は、予定通り五日後になった。

 前回と同じく、指定された時間に王城に向かい、執務室に入る。


「お待ちしておりました、ミレーヌ殿」

「よろしくお願いいたします」


 手早く挨拶を交わしてソファに座る。

 テーブルの上には、既に紅茶が用意されていて、本題に入る前に、軽く世間話。


「皆様のご様子は、いかがですか?いろいろお忙しいのではないかと思いますが」

「いえ、今はそれほどでも」


 実際、式典の直後から前回の会談くらいまでは忙しかったが、その後、当面の報告が一通り済んでからは、それほどでもない。

 エルフィは魔術学院で留守にしていた間の後始末。レクトとガルドは二人で稽古をしたり、道中で知り合った人たちに会いに行ったりしている。


 前回のヴォルスとの会談の内容は、一億ゴルドの布告が出た経緯と、なぜ減額や辞退が許容できないのか、ここまでのミレーヌ自身の態度の理由も含めて、全て三人に報告した。

 ガルドは、「そういうことなら、金額自体にはそこまで拘らねえ。もちろん多いに越したことはないが、レクトと同じ条件ならそれで構わない」と、事実上当初の条件を取り下げた。エルフィは「それはそれ、これはこれ。それ以前に、八千万以上も未処理を残している時点で条件の緩和を考えるのがおかしい」と、引き下げは認めなかった。あと、国からの暗殺の懸念をミレーヌが黙っていた件について、エルフィからは「そんなことは最初から織り込み済みである。一億の金額に当てられて一人で無駄に抱え込んで馬鹿じゃないのか」と、レクトとガルドからも水臭いと、盛大に叱られた。

 最終的に、現在の条件はそのまま維持することとなり、そこから今日まで、ミレーヌはほぼ神殿の自室に引きこもって褒賞金の支払方法の検討をしていたのだが、その中で一つ、疑問が出てきていた。

 近況報告の話が途切れたところで、それを持ち出す。


「ヴォルス様」

「はい」

「褒賞金の額について、少々、お伺いしたいことがありまして」

「何なりと」

「ありがとうございます。では……褒賞金の額を一億ゴルドと決められたのは、ヴォルス様ですか?」

「そうですね。もちろん、最終的にそれを承認されたのは陛下で、その手前でいろいろと協議はしていますが、一億ゴルドという金額を設定したのは、ええ、私です」

「では……なぜ、褒賞金の額は、一億だったのでしょうか。二億でも三億でもなく」

「ほう」

「現実にはありえない金額で、ということなら、もっと多くすることもできたと思うんですけど、そうはしなかった理由が、少し気になりまして」

「なるほど。なぜ二億でも三億でも、十億でもなく、“一億”だったのか、と」

「はい」


 ヴォルスが目を細める。


「おっしゃる通り、この褒賞金は、それが布告された時点では、到底払えないことを前提とした、というよりむしろ、到底払えないことこそが必要なものでした。なので、二億でも十億でも、好きに設定することはできましたし、もしかしたらその方が、士気の向上などの目的には、効果的だったかもしれません」

「はい」

「実際、国の方でも、もっと金額を上げた方がいいのではないか、という意見は出ていました」

「そうなんですか」

「ええ。それで、なぜもっと増やさなかったのかと言いますと、一つは、あまりにも額が大きすぎると、それはそれで本気と受け取ってもらえなくなるから、ですね」

「ああ」


 確かに。これが百億ゴルドだったら、そもそも払う気が無いことがあまりにも見え透いていて、ハッタリとしてすら機能しない。


「そしてもう一つの理由ですが、これはまあ、財務官僚としての本能のようなものとでも言いますか。実際にはいろいろあるのですが、簡単にまとめますと、こういうことです。

“もし、万が一、これが実現してしまった時に、支払えるのか”」

「……ああ」

「金額を自由に設定することはできましたし、十億はともかく、二億や三億にすることは実際に考えました。しかし、万々が一、いざ本当にそれを支払うことになった時、一億と二億三億とでは、金額の重みが全く異なります」

「はい」

「“現実にはありえない額”でありながら、同時に“現実に払い得るかもしれない額”でもある。この二つの相反する条件を秤にかけ、“ありえない”を損なわない範囲で可能な限り“払い得る”に近づける、その境界線が、一億という数字だったのでしょう。当時、それを明確に意識していたわけではありませんが」

「なるほど……それで一億」

「現実にそれを支払うことになった今、心の底から、二億や三億にしておかなくて良かったと、思っています」

「そうですね、本当に」


 もし褒賞金の額が二億だったらと想像してみて、背筋が寒くなる。

 もっとも、ヴォルスならきっと、二億でも三億でも、何とかする方法を考えようとするのだろうが。

 残った紅茶を飲み終え、ヴォルスが黒板の前に立つ。


「さて、では、本題と参りましょう。まずは、現状の確認です」

「はい」

「一億ゴルドの褒賞金に対して、まず、勇者殿のご厚意により一千万を辞退、ということにしていただきました」

「はい」

「次に、冒険者からギルドへの上納金、残り九千万の一割である九百万を、事前に差し引いてお支払いする、ということにしました。その九百万は、国としましては、ギルドからの預り金ということになり、その処理が別途必要ですが、ここでは省略します」

「はい」


 話しながら、「辞退 1000」「上納金(預り金) 900」と手早く黒板に書き込んでいく。


「この二つを合わせて、千九百万を、処理することができました。残りは八千百万となります」

「はい」


 まだまだ、先は長い。


「次は当然、この八千百万をどうしていくか、となりますが、まずは、ミレーヌ殿のお考えを、お聞かせいただけますか」

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