第12話
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「実際、エルフィの見立て通りだったと思います。戦いでは足を引っ張ることも多かったですし、僧侶としては、おまけ程度にしか貢献できませんでした」
「会計としては、どうですか」
「会計係としては、そうですね、それなりに役目を果たせたと思います」
元から冒険者のレクトはともかく、兵士勤めのガルドと学院育ちのエルフィは、旅の経験が殆ど無く、日常の細々とした交渉事も得手ではなかった。ミレーヌ自身もさして経験があるわけではないが、そちらはレクトが補ってくれたので、得意の金勘定と値段交渉に集中することができた。
「そうですか。ただ、その評価は少々ご謙遜が過ぎる気もしますね。『慈愛』のミレーヌ殿ともあろうお方が」
「……うぐっ」
思いきりむせる。お茶を飲んでいる時でなくて良かった。
そう、ミレーヌ自身にも「慈愛のミレーヌ」などという御大層な二つ名がついている。他の二人は実力相応だからいいが、自分は明らかに過大評価なので全力で否定したい……のは山々ながら、「勇者一行の僧侶」であるのは事実だし、お祝い気分にこちらから水を差すわけにもいかないので、それを言われるたびに居心地の悪い思いをしながら愛想笑いをする羽目になっている。
「し、失礼しました。その……その呼び名は、私には過ぎたものです。魔王を倒したのはひとえに他のみんな……レクトと、ガルド、エルフィの力によるものですし」
「そうですか」
ミレーヌの自己評価を、ヴォルスは否定も肯定もしなかった。
「『会計のミレーヌ』か『金庫番のミレーヌ』なら、喜んで受け取りますけれど」
「なるほど。では、会計のミレーヌ殿に、改めて申し上げましょう。その評価は少々ご謙遜が過ぎます」
「え?」
決まりの悪さを冗談で誤魔化そうとしたら、ヴォルスから思いがけない返事が返ってきた。
「そうでしょうか? 自分としては、妥当なところだと思っているのですが……」
「ええ、皆さんのご活躍につきましては、私もいくらか報告書で読ませていただいておりますが、ご自身に対する評価、特に“僧侶として”と“会計として”との比較につきましては、失礼ながら、私の目から見ましても大変妥当なように思います」
「ありがとうございます」
「その上で、私が、謙遜が過ぎると申し上げましたのは、“会計の役割”への評価です」
「会計の役割……ですか?」
「はい。ミレーヌ殿ご自身は、当たり前のこととして流しておられるようですが、実際のところ、会計としてのミレーヌ殿がおられなければ、勇者殿の魔王討伐は、間違いなく成らなかったと断言できます」
「……ああ」
ヴォルスの言いたいことが、なんとなく、分かってきた。
「魔王討伐、と一言で言いますが、実際には、褒賞金の布告から魔王を倒すまでに、四年近くの歳月を要しています。その間、皆さんはただ戦いだけをしていたわけではない。今日は王都に、明日は街道に、明後日は戦場にと、絶えず動き回っておられた」
「はい」
「そうやって動くためには、食事も必要なら寝るところも必要。衣服や武器防具も用意しなければならない」
「はい」
「そして、それを実際に用立て、運用していくには、金が必要で、その金を手に入れるには、皆さんがお持ちのものを、どうやって金に換えるかの算段が必要になります」
「はい」
それは、その通りだ。
討伐行の間、どうやって必要な金を賄うのかを考えるのは、ミレーヌの仕事だった。他の三人が優秀だったおかげで、採集物や労働との交換、支援金集めなど、金策自体に苦労することはそこまで無かったが、「それをいくらにするのか」を最後に決めるのは、それを決められるのは、ミレーヌだけだった。
「軍に例えるならば、軍事活動を継続的に行うためには兵站を整えることが必要で、兵站を整えるためには、予算を立てて活動資金を確保し、支出を適切に執行すること、すなわち」
ミレーヌを見て言う。
「会計が必要です」
「はい」
「会計とは、単なる帳簿の記録や価格の交渉にとどまるものではなく、言わば、その会計を必要とする活動を持続的に行うための、生命線ですらあるのです」
「……はい」
ヴォルスの声は穏やかだが、なぜか、叱られているようにも感じた。
「まあ、これは私が財務担当であるが故に、会計の役割を大きく見積もり過ぎているだけなのかもしれませんが、それを割り引いても、皆さんの魔王討伐における、会計係としてのミレーヌ殿の役割は、全く小さなものではなかったと、私は思います。先ほど、魔術師殿がいいご判断をされたと言いましたのは、そういう意味でもあります」
「あ……」
咄嗟に言葉が出てこない。
「ですので、私からこう申し上げます」
一度ミレーヌを見据え、頭を下げながら、ヴォルスが言う。
「『会計のミレーヌ』殿に、国の財務担当から、心からの敬意と、感謝を、と」
魔王を倒した後、多くの人に褒められ、お礼を言われてきた。
それを言われるたびに、居心地の悪さを覚えてきた。その賞賛と感謝は、自分のものではない。それはレクト達三人のもので、自分が受け取っていいものではないのだと。
今、初めて、自分が、自分のものとして受け取ってもいいと思える言葉を、貰ったような、気がする。
深く息を吸い、言葉を絞り出す。声が震えてしまわないように、「もったいない」「過分な」などと言ってしまわないように、自分を押さえつけながら。
「ありがとう、ございます。……本当に、嬉しいお言葉を、いただきました」




