第2話「黒薔薇の剣」
「それじゃあゲート、本題に入りましょうか。」
決意を聞いたアイが話し始める。
「今、この世界はたった一人の王――アルトリア帝国現皇帝によって管理されてるの。」
その内容に、ゲートは困惑する。
「この国のトップが…世界のトップだって…?」
世界が、人民が、文化が、全て誰かの所有物……。荒唐無稽な話に、ゲートは目の前のアイと、自分の耳
を疑った。
「嘘だろ…。首相会談とかよくやってるじゃねえか…?!」
彼は自分の見てきたことをぶつける。
しかし、アイはその言葉を待ってましたとばかりに、クスクスと笑い声をあげた。
「ああ、あれね……クスクス……!」
「あれはぜーんぶ皇帝の道化。首脳会談も、奴の独裁をごまかす大掛かりな劇。」
アイは、季節外れの白い息を吐きながら続ける。
「皇帝は自らの悪意を振りまき、世界を染め上げるっていう、難しいけど反則じみた能力を持っているの。」
ゲートは驚愕する。嘘だろ…?人智を超えた存在…クソッ、考えが甘かった…!
「つまり…君の反逆は、
この世界の嘘を暴いて皇帝を倒し、奴の悪意を断ち切ること!」
アイが簡潔にまとめる。
「おいおい……!暴くも何も、その話が本当ならお前自身が世間に公開すればいいじゃねえか……!新聞にも週刊誌にすら載ってないぜ、そんなバカな話。」ゲートは未だ納得できないと言った感じだ。
「だいたい……なんでそんなこと知ってるんだってことが多すぎる…。」
ゲートの目が、鋭く光る――。
「お前、何モンだ…?」
ゲートの言葉には、アイに対する警戒がこもっていた。
彼の威圧に、アイは一瞬ビクッとする。しかし、すぐにもとに戻って微笑みかける。
「……っ?!」
その顔を見たゲートは、心の中に違和感を覚えた。
「…う〜ん、こんな見た目の私の言うことなんか、誰も信じないし〜?」アイが澄ました顔で答える。
「私の役目は反逆者の案内人だから、素性なんて教えませーん!」
話し終えた途端、ゲートはハッと我に返る。
「なんかウザいな、お前…。」
第一声がこれである。
話を逸らされたことと、アイの幼稚な言動にゲートが呆れる。不思議な感覚は……今は触れないでおこう。
(話す気がない……か。けど……今の俺は、コイツの言うことを信じるしかない……!)
ゲートは自分の置かれている状況を鑑み、これ以上の追求は無意味だと悟る。
「まあいいや…。さて、俺は今から何をすべきなんですか、案内人さん?」
ゲートは一息つい問いかける。今の彼がする事は、追求ではなく、アイの話を戻すことだ。
「よくぞ呼んでくれました!アイちゃんうっれし〜!」
アイの無邪気さは、相変わらずだ。
「それじゃあ行くよ、ファーストミッション!この剣を使いこなせ!」アイが手をかざすと、空気が歪み、魔法陣が浮き出てきた。
「なっ……!?」
ゲートは思わず上ずった声を上げた。
「魔法……?いや、そんなはずは……!」
まるでファンタジーな世界を見ているかのような感覚。しかし、先の皇帝の件が本当だとすれば……。
彼は複雑な感覚に陥った。
アイは魔法陣に手を伸ばす。そこから取り出したのは、鍔が薔薇の形をした赤黒い剣。その剣から、非現実的経験が皆無なゲートでも感じられる程の、ただならぬ雰囲気を帯びていた。
「これは黒薔薇の剣。別名、反逆の剣だよ。ゲート、君はこれを自在に扱えるようになること!」
反逆のファーストミッションが、アイの口から放たれた――。
ゲートは黒薔薇の剣を見ながら、にやりと笑う。
「上等だぜ…!」
…しかし、現実は常に非情だ。
「クソがぁ〜!!全然持ち上がらね〜!!」
ゲートは情けない声をあげる。
「持ち上がるまで休憩はダメだぞ〜?」
氷のように冷たい宣告が、突き刺さる。
「嘘だろ〜!!?」
――この黒薔薇の剣が、そう遠くない未来に、語りかけてくることを……ゲートはまだ知らない。




