第9話「モール内でバイオテロ!共闘するのは皇子様!?」
時は遡ること3日前。
〈帝歴2030年 7月2日 12時06分 ワルキュリア・シティモール1階にて――〉
私はアイ。ショッピングモール内で、ゲートと衝撃の合流をした案内人よ。
ソニアちゃんが悲鳴を上げて傍に駆け寄る。
「お兄ちゃんっ!!」
人が目立つところで倒れているというのに、声をかけてくれるのは少数だった。その他は、一目見て逃げるように離れる者、何故か恍惚の表情を浮かべて笑っている者……まるで、何かに取り憑かれたかのような邪気を放っていた。
――その時だった。
「君、意識はあるかい?」
落ち着いた、優しい声をかけられた。
声の方を見ると、銀髪のウルフカットに紫の瞳、高身長のイケメンが、手慣れたようにゲートの脈を測っていたの。しかも同い年くらいの……!
「うん……脈は正常だ。気絶してるだけでしょう。彼を担いでいきましょうか?」
青年が穏やかに提案する。素性は分からないけど、案外頼りになるわね……。
ソニアちゃんがホッとしたように膝をつく。
「あの、ありがとうございます。失礼ですが、あなたは……?」
物腰柔らかながらも、ただならぬオーラを纏うこの青年に、私は恐る恐る聞く。
「僕はメビウス。旅人……です」
彼は穏やかに答える。不自然な間があったのは気になるけど。
「さて、あなた方のことも聞きたいのですが……それは彼を休めるところまで移動しながらにしましょう」
こうして、私達は近くの宿までメビウスを案内した。
もちろん、反逆のことは秘密にしたけど――。
そして宿に着き、ゲートをベットに寝かせた。
「では、これで……」
そう言って、メビウスが踵を返して宿を後にしようとした時、再び私達の方を振り返った。
「……ああそうだ、3日後にワルキュリア・シティモールに行くのは、止めておいたほうが賢明ですよ」
彼の真剣な態度に、和んでいた空気が一変する。
「えっ……?なんでそれを――」
私は引き留めようとする。
しかし……
「では」
メビウスはそのまま、夕日とともに消えていった……。
※ ※ ※
その夜、宿屋にて――
「なんでメビウスさんは、3日後ということを……?それに、止めておけとまで……やっぱり只者じゃないですね、あの人」
ソニアちゃんが首をかしげる。
――素性の分からない青年、機密情報を知っていた、
手慣れた救護術。
(ゲートがいつ起きるか分からない……メビウスの言うと通りなら、大司教が何か仕掛けるということかしら……?)
――1時間程の思考の末、私は決断する。
「ソニアちゃん。3日後、ワルキュリア・シティモールに行くわよ」
「……!ですが、お兄――ゲートさんは大丈夫なんですか…?」
「ソニアちゃんの言っていることは分かる。けど、宿に置いていくのは危険すぎるわ。そもそも私達の反逆がカテナ教会にバレているもの」
「だから、当日になっても起きなかったら、彼を担いであそこに行くわ」
あのショッピングモールで必ず何かが起こる……そして流石のゲートも目を覚ますわ――私は、そう信じてる!
※ ※ ※
〈帝歴2030年 7月5日 ゲートが目を覚ます30分程前 ワルキュリア・シティモール1階 屋外広間にて――〉
「……大司教、出てきませんね」
ソニアちゃんがショッピングの広間で呟く。
「そうね…ろ。極秘事項だったみたいだし、人目につかないところにいるのかもね……」
ゲートを担ぎながらそう答えた瞬間……
「イヤァァァッッ〜〜!!」
――悲鳴がこだました。
そして、別のところからも悲鳴が。同時に、数多の邪気が突如湧き上がっていく……!
「何が起こっているの……!?」
その時、広間の入り口が壊れる音が鳴り響く。
そこには夥しい量の腐敗した人間……ゾンビが蠢いていた――!
次の瞬間、ゾンビたちは人間と同じ速さでみんなに襲いかかる!
「――止まりなさい!」
私は入り口付近に螺旋階段状の氷壁を生成し、地上にいたゾンビ達はを氷漬けにする。
「みんな!この階段を上がって!」
しかし、私はそう言ったことを後悔した。
パニックになった来客達が、一斉に階段に向ってしまったの!
「お姉ちゃ――」
ソニアちゃんが叫ぶ。しかし、その声は彼女の姿共に人混みに埋もれていく……。
残酷なことに、階段を上がった先の階から悲鳴の嵐が鳴り響いた。私は唇を噛むしかなかった……。
――人混みが消えた後、私はさらになくし物をしたことに気づいた。
「ゲートは……!?」
彼の姿は、どこにもない……。
私は担いでいたゲートを、私は落としてしまった。
つまり……ゲートは地獄で無防備なってしまったの。
※ ※ ※
〈帝歴2030年 7月5日 12時06分 ワルキュリア・シティモール1階にて――〉
〈現在――〉
……俺はゲート。目を覚ましたらバイオテロに巻き込まれた、駆け出し反逆者だ。
みんなはどこに行ったのだろうか…ろ?気絶してからどれくらい時間が経ったのか……?
その時、幼い少女がゾンビに襲われているのを目撃した。
「見境なしかよ……ッ!」
俺は未だふらつくその身体で黒薔薇の剣を抜き、ゾンビの脳天をぶち抜いた。
ゾンビは黒い血を噴き出しながら、黒い霧となって消えてゆく。
「黒い霧……!?まさかこいつら、悪意――!?」
カテナ教会の仕業か――!
俺は怯えた少女の頭を撫でながら慰める。
しかし、肉が裂ける音……鳴り止まない悲鳴……夥しい数のゾンビは既に他の来客たちを殺戮していた……!
「クソッ……!」
本当にカテナ教会の仕業なのか……?国ぐるみの組織が、無差別にこんな……!
「全員は助けられない、ならせめて……!」
俺が駆け出そうとした、その時。突如飛んできた無数の光の槍が、正確無比にゾンビ共を貫いてゆく。
――充満する黒い霧が晴れた後、やけに穏やかな声が全体に響いた。
「大丈夫かい?ゲート君」
その声の主はウルフカットのイケメンだった。
てか、なんで俺の名前を……?
「アンタがさっきのを……?」
俺の質問に対し、彼は答える。
「そうだよ、ゲート君」
すると、彼はショッピングモール全体を見下ろすように浮遊しながら、声を張り上げた。
「突然で悪いけど、ここは共闘しよう。僕の名はメビウス!アルトリア帝国第3皇子、”メビウス・ディ・アルトリア”だ!!」
「皇子……だと!?」
一抹の不信感が、俺の頭を過った――。




