第37話 繋ぎ止める運命
「あなたは・・・誰?」
ロザリアは困惑した様子でカルマナを見つめている。
そして、二人の剣が互いに共鳴するように輝き出した。
「これは・・・」
「私はカルマナ。カインさんと共に旅をする仲間です」
「カインの・・・?」
対するカルマナは堂々と立ち、まっすぐロザリアの目を見つめていた。
「勝負はつきました。どうか、ここで退いてくれませんか?」
カルマナは聖剣を突き立て両手を広げ、俺を守るようにロザリアに伝えた。
「・・・そうね。何も止めを刺したいわけじゃない。そんなことをしても無意味だもの」
カルマナに倣い、ロザリアも『グリムガウディ』を鞘に収めた。
「約束通り、宝玉は私が譲り受ける。それでいいわね?」
「・・・ああ」
闘技場に張り詰めていた空気が開放されていくのを感じる。
「お師匠様ぁ!!」
観覧席を飛び越えたジュリエットが心配した様子で駆け寄る。
エレノアも一緒だ。
「・・・師匠失格だな。情けないところを見せた」
「そんなことありません。無事で良かった・・・」
泣きじゃくるジュリエットの頭をそっと撫でる。
対するロザリアはフリードたちと喜びを分かち合っていた。
その光景を、ただぼうっと見つめる。
ロザリアに負けたことよりも、単独で魔王に挑むという計画が潰えたことの方が遥かに痛かった。
結局魔王からロザリアを遠ざけるという未来を変えられなかった事実が、重くのしかかる。
そんな俺を呆れたような目で見下ろしたエルドリック王はロザリアの元へ歩み寄る。
「見事だロザリア。これで勇者として本来の責務に戻れるな」
「はい。魔王は私たちが必ず討伐します」
「うむ。このまま王都ロックバスティオンの試練を受け、王都ドルガリスへ戻るが良いだろう。残る宝玉は二つ。しっかりと準備し、万全の状態で臨むが良かろう」
「お心遣い、感謝致します」
そう伝えると、王は鋭い視線を俺たちに向けた。
「さて、偽勇者一行の処罰はどうしたものか」
何が処罰だ。
勇者の犠牲をただ見ていることしかできない凡愚どもが。
「お待ちください、エルドリック王」
不意に、ロザリアがエルドリックに待ったをかけた。
「魔王討伐に彼らの同行を許可していただけないでしょうか」
彼女の思いがけない提案に、エルドリックは明らかに困惑していた。
「しかしロザリア。彼の行いは勇者への侮辱行為だ。そう簡単に許すわけにもいくまい。ルマリア大聖堂の石碑から彼の名前を消し、正式に勇者パーティから削除せねばならぬしな」
そうなることは予測していた。
覚悟はできている。
「確かに、カインの行動は古くから伝わるしきたりから逸脱していました。それも『祖光継諾の儀』が遅れる勇者の代理としてではなく、自ら勇者パーティを離脱しての単独行動によって・・・」
「しかし、本来私たちにとって最も大事なことは宝玉を集めることではなく、魔王の討伐。この世界を魔王の恐怖から救い出すことです。そのためには、一人でも多くの強者の協力が必要ではないでしょうか。彼のこの短期間で三つも宝玉を集めるその力量は、私たちだけでなく、世界にとっても心強い力になるはずです」
エルドリックは顔を顰め、長い髭を撫でている。
「実際に彼と剣を交えて、その真剣さを理解しました。少なくとも、彼は勇者を侮辱するつもりはなかった。本気で自分が魔王を討伐するという、とても強い意志が伝わってきました。ですから、信じるに値すると断言します」
すると、ようやく髭を撫でていたエルドリックの手が止まった。
「ううむ。勇者の使命を侮辱する行為は決して看過できるものではないが・・・。ロザリアがそこまで言うのであれば、もはや止める権利はない」
「では・・・!」
「だが、一度パーティの一員としてその名を刻んだ以上、責任は負ってもらう」
責任、か。
「カインよ。今ここに、勇者ロザリアのパーティから除名を命ずる」
「・・・ああ。構わない」
「本来であれば投獄し、極刑の可能性もあったのだ。ロザリアの申し出に感謝するがよい」
しばらくの間、コロシアムを去る王たちの背中を見つめていた。
・・・これで、正真正銘ロザリアのパーティから追放されたわけだ。
「牢屋に入れられなくてよかったね」
「・・・追いつかれるつもりはなかったんだがな」
すると、カルマナが無理やり割って入ってきた。
「当然です。そんなこと、私がさせませんよ。カインさんには叶えたい願いがあるのです。どうしてもと言うのなら、今度は私の聖剣があなたを裁きますよ」
すると、一瞬きょとんとしたロザリアに笑顔が溢れた。
「カイン、愛されてるね」
「あ! なんですかその強者の余裕を窺わせる態度は?! 今恋人同士だったとしても、明日には分からないのが恋というものですっ! そんな風に油断してると、後でどうなっても知りませんからね!」
カルマナの叫びを掻き消すように、ロザリアは誤魔化すように強く咳払いし、その燃えるような真紅の瞳が向けられた。
「これで、形式上、私のパーティとの関係は切れた。けれど、あなたはあなたの仲間を率いて私たちに協力してほしい。もちろん魔王討伐に向かうまでお互いに干渉し合わないように配慮するし、それぞれのペースを尊重します。だから、どうかその力を貸してください」
ロザリアはこういう奴だ。
昔から。
自分に厳しいくせに、他人には優しい。
「まったく・・・。お前には敵わないな」
ロザリアは片膝をつき、俺の左腕にそっと触れた。
「今は何も聞かない。しばらくは体を休めることに集中して」
「容赦ないお前の攻撃でこっちはもうヘトヘトだからな」
すると、ロザリアは顔を真っ赤にして立ち上がり、それを隠すように背中を向けた。
「痛かったよね。ごめんなさい・・・」
そう呟き、仲間の元へ駆けて行く彼女の姿を見送った。
安心感や喪失感、悔しさが混ざり合い、内心穏やかではいられなかった。
指一本動かせないほど疲弊しているのが幸いした。
ベッドに体を預けるように地面に倒れた瞬間、埃っぽい黄金色の空に溶け込むピンクを帯びた鮮やかな夕焼けが飛び込んできた。
まるで、あいつを象徴するような色だ・・・。
なんとかロザリアの援護という形で魔王討伐へ加わることを許された。
だが、結局あいつの隣に立つことになるのか・・・。
こんな精神状態で、ちゃんと守り切れるのだろうか。
そんな不安を胸に、いつの間にかその瞳を閉じていたーーー。
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