間話① ー決意は仲間と共にー
※視点が変わりますのでご注意ください。
床に散乱したティーカップの破片を眺めていた。
まだ、彼の頬を叩いた掌には、じんじんと痺れるような感覚が残っている。
体に力が入らない。
自分の体じゃないみたい。
店員さんの床を拭く後ろ姿をただぼうっと見つめる。
後ろのテーブルで大きな声で談笑する冒険者たちの話も入ってこない。
笑い声を上げ話し込むフリードたちの話も・・・。
・・・ずっと、彼を信じていた。
お互いのことを分かり合えていると思っていたのに、彼がどうしてあのような行動を取ったのか理解できない。
私を支えてくれるって言ったよね。
私とあなたで魔王を倒すんじゃなかったの?
ずっと一緒にいるって約束したんじゃないの?
私が間違っていたのかな・・・。
ううん、そんなことない。
カインの取った行動は仲間に対する裏切りだ。
許されていいはずがない。
仲間を信頼し、協力し合わなきゃ魔王は倒せないんだから。
「らしくねぇぞ。ロザリア」
「フリード・・・」
大きく息を吐き対面にどかっと腰掛けた彼は、落ち着かない様子で目を泳がせている。
「何て言うか、その・・・。わりぃ。お前の目の前であんなこと言っちまって」
その声色は穏やかで、態度とは裏腹にとても優しく響いた。
心配してくれているんだ。
「あの野郎、言ってくれるよな。俺たちに向かって『無能な役立たず』なんてよ。これでも実力でお前に選ばれたんだっての。なぁ?」
ヴィオラはくるくる回していた紫色の帽子を止めた。
「でも、それだとあいつも認めることになるんじゃない? それを言うならあいつも同じなんだから。二人の関係を考えれば、むしろそれ以上だし」
「ははっ確かに」
「笑い事じゃないってのジュリアン」
他人事のように笑うジュリアンに、ヴィオラは呆れた様子でため息を吐く。
それを見て、私の心も一層沈んでいくみたいに重くなった。
「急に人が変わったみたいに冷たくなったよな。俺たちみたいな雑魚には勇者の護衛は務まらないってことか?」
「そんなことない。皆んな私からお願いしてパーティに加わってくれた。命を落としてしまうかもしれないのに、私に命を預けてくれた。皆んな、私が信頼できる大切な仲間だよ」
これまでの勇者が、どうやって魔王を倒すための同志を集めたかわからない。
そして、現実的に考えて、あの魔王を相手にするにはどうしても一定以上の実力は求められるのも事実だ。
その上で私は、気の許せる人を仲間にして絆を深めようと決めていた。
能力が高いかどうかに関わらず、安心して自らの背中を預けられる。
心から信頼できる仲間を。
過去には単独で挑んだ勇者もいたみたいだけど、私にはできない。
だって、それでは不安に押し潰されてしまうから。
私にとって、互いに信頼できる関係を築いた方が、はるかに戦いやすいと思っていたから。
「あいつ、何か隠してるのかな」
「いきなり何言ってんだヴィオラ?」
「よく考えたらおかしくない? あいつ、一見クールに見えるけど案外気配り上手じゃない。これまでの行動を考えても、とても裏切り行為を働くようなヤツには見えないのよ。いつも肝心なことは言わないし」
大食堂の天井を見上げるヴィオラに、真剣な表情でジュリアンも同意する。
「確かにね。それにさ、ああは言ったけど、僕には前からずっと思っていたような感じには見えなかったんだよなぁ。なんとか取り繕っていたというか」
ふと、去り際のカインの様子を思い出した。
私や皆んなを見下すような目はしていなかった。
目つきこそ鋭かったけれど、その瞳は私たちを心配するような光を湛えていた。
何か、意図があったのかな。
だとしたら、それは一体何なの?
私たちを突き放してまでやり遂げたいことでもあるというの?
私の顔色を伺うようにちらちらと私を見るヴィオラ。
「まあ、悔しいけどあいつが強いのは認めざるを得ないんだけどね。マスタークラスのジョブ数が両手で収まらないヤツなんてあいつくらいのもんでしょ」
「ジョブ階級なんてのは仰ぐ師の匙加減によって変わるもんだが、そもそもあいつは純粋な能力値が異常だ。戦闘に関しちゃ圧倒的天才だよ」
あの豪快なフリードも深く息を吐いている。
カインのスキル習得技術は天性のもの。
真似できる者は誰もいない。
「僕としては、彼に抜けて欲しくなかったのが本音だけどね。魔王討伐において彼の力は必要不可欠。一旦、私怨を傍においてでも引き止めた方が僕らにはメリットが大きかった」
「何だよ。あいつの肩を持つってのか?」
「客観的に見て、一時の感情に流されて追放してしまうにはあまりに惜しい人材だったということは、今まさに君たちが言っていたんじゃないのかい?」
「うぐ。それは・・・」
カインの力は私たちに大きな安心感を与えてくれていた。
彼がいるだけで、皆んなが互いに力を発揮できているのは肌で感じていた。
だけど・・・。
「ごめんよロザリア。気分を悪くさせてしまったかもしれないけど、もちろん君が悪いなんて言うつもりは毛頭ないよ。君が仲間のために怒れる人だからこそ、僕たちはここにいるんだ。君の取った行動は決して間違っちゃいない」
「ジュリアン・・・」
「また新しい仲間を探そう。きっとロザリアの信念に共感してくれる人はいるはずだよ」
そうだ。
私には魔王討伐という大きな使命があるんだ。
仲間が一人抜けただけで取り乱すようじゃまだまだ未熟な証拠。
冒険では、メンバーが変わるなんてよくあることじゃない。
「そうだね。まだ巡礼は始まってもいないんだもの。今からこんなんじゃ皆んなを不安にさせちゃうよね」
フリードは机を叩き立ち上がった。
「大丈夫だって! 俺たちは強ぇ! カインの野郎が言っていたことなんてクソ喰らえだ!」
自らを奮い立たせる彼に触発されて、思わず両手で頬を叩いた。
そうだよロザリア。
皆んなを引っ張っていくのが勇者である私の役目。
もっと堂々としないと。
たとえカインが居なくても、私のやるべきことは変わらない。
この手で魔王を倒すんだ。
皆んなと一緒に。
すると、後ろの冒険者たちに声を掛けられた。
「おい、知ってるか? 例のヴァルムレイクの瘴気、今回のはかなり大規模だったみたいだぜ」
「そうなのですか?」
「ああ。危うく町が壊滅するところだったようだな。すぐに回復したようだが」
ヴァルムレイクの瘴気・・・。
火山地帯の影響で溜まった有害のガスが一定の周期で人々に害を及ぼす。
混乱を防ぐため、国とエテルヌス教により世間ではそういうことにされているけど、その正体は温泉に入る人々たちから抽出された負の感情が集まって形成された湖が原因だとされる。
巡礼しながら調査しようと思っていたけど、誰かが解決してくれたんだ。
「く〜! もっと早く知ってりゃ俺たちが駆けつけて報酬を山分けできたのに! なぁ?!」
「あ、あはは」
本当なら今頃、私たちだってこうして・・・。
ダメダメ。またそんなこと考えて。
「それにしても信じられねぇよな。たった二人で解決しちまったらしいぜ。なんでも、そのうちの一人は大司教さまだってよ。ま、俺たちにゃ一生縁のないタイプの人間だろうな」
その言葉に、なんだか身が引き締まる思いがした。
大きく息を吸い込む。
私たちものんびりしていられない。
「さあ行こう皆んな。絶対に魔王討伐を成功させよう」
大勢の人々の歓喜の雄叫びに押されるように、私たちは大食堂を後にした。
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