四話 一般人か逸般人か。
「やあ」
茂みの中から頭だけを出して頭に葉っぱをつけて水たまりにニッコリ挨拶する男。
変態か。まあよくいるよな。
濃い茶髪に青い目で女顔だが少し鍛えてる人の顔。色白だが少し頬は日焼けしているようだ。オレはにょい〜んと伸ばした体を揺らして挨拶する。
「よっすー、オラ水たまりの水田真理。マリーさんと呼んでくれ。水が無ければ魔力水を飲めばいいじゃない!」
「水たまりなのに元気だね! 有り難いけどよく水がないってわかったね!」
適当に言ったら当たってたらしい。あ、ちなみに声はなんか普通に水を振動させて出してる。どうも重力のエネルギーを転換できるっぽい。魔力って便利。
どうでもいいが普通に水たまりと会話するこいつはかなり変人だな。これがこの世界の普通だったら嫌だぞ。
オレは普通に人見知りはしない派だ。いきなり殴りかかってくる人なんかそういないんだから明るく挨拶しときゃいいんだよな。
「君はなんで水たまりなのにしゃべってるの?」
「遅っ! インテリだからだよ」
「インテリア」
「誰が人を駄目にするソファーやねん」
「?」
伝わらなかった。それはいいけどなんでこいつ茂みから出ないんだろう。まだ頭だけだしてニコニコしてる。葉っぱついてるって。
「この辺りはオーガが住んでるから気をつけないと駄目なんだ」
「ガサガサやってたらすぐバレるだろ」
なんだこいつ。妙にのんきなやつだな。オーガは見たことないぞ。
リス吉に聞いてみるとオーガはかなりの数がいるらしい。リス吉はテイムしたリスの名前な。亀は亀の助でカマキリがガブリエル三世だ。水を飛ばして攻撃する実験にカマキリを巻き込んだらテイムしてしまった。まあそれはいいや。
え、三世の理由? 似てたから? ルッ○ァ〜ンに。ガブリエルは適当。ちなみに五十センチくらいあるぞ。
リス吉と意志疎通できると言ってもしゃべってるわけじゃないので詳細はわからないがオーガはいるのかと聞いたらたくさんいるイメージと肯定の意志が飛んでくる。便利。
「ボクはこの森にいるフライハイトってドラゴンを探してるんだ。見たことある?」
「ないな。とりあえず出てきたら?」
ドラゴンいるのかこの森。オレはイノシシにも負けるぞ。あといつまでも頭だけ出してしゃべってるんじゃねえ。葉っぱ増えたし。髪の毛クルクルだな。枝に引っかけてるぞ。
水がないって言ってるし貯めてる魔力水くれてやってもいいかな。むりやり飲まれたら負けそうだし。
敵に飲まれたら針金とか釘とかストレージから出す戦術はどうだろう。どこかに落ちてないかな。そのへんに唐辛子とか生えてないかなあ。
「辛いのは好きか?」
「なに突然。ちょっと好きかな〜」
よし、いつかコイツで試そう。
「ちょっとまってね、シャツが引っかかって出れないんだ」
「いいから早く出てこいよ」
マヌケだなあ。うに、とか、ぐぬぅ、とか言いながらガサガサクネクネしている男。
この世界のやつみんなこんな感じなんだろうか。コイツだけだと思いたい。毛虫とかついてたらやだな。
青年?はガサゴソとまあまあ騒がしくしながら茂みから出てきた。
おお、なかなかに高身長である。バンダナやマントとかつけてるRPGの勇者みたいな服装だな。立派な剣も携えてるし。
その剣を抑えてる手が怪我をしている。気になったので体を指を差す形にして聞いてみる。
「おい、それはどうしたんだ?」
「これ? 聖剣だよ」
「正拳か。木でも殴ったんか」
日本語じゃないのに響きが同じことってあるんだな。この世界の言語は日本語ベースだったりするのかな? 正拳で殴ったらそりゃ怪我もするよな。
「その正拳でモンスターを突いたりしたわけか」
「突きはいい戦術だね。ボクはメインは斬ったりかな?」
「正拳で斬れるって達人か! 鋼鉄製かよ!」
「オリハルコンだね」
「そんなに鍛えてんの?!」
オリハルコンの拳とかすごすぎだろ! どうやって鍛えたんだ?
「ドワーフがハンマーでね」
「そりゃ怪我するわ! ドワーフとやり合ってんのか?」
「彼らはタフだからね」
ドワーフはやはりタフらしい。しかしハンマーを拳で殴るとかすごいな! そりゃ鍛えられるわ!
「そんなにタフならその剣を使えばいいだろ」
「え、流石に交渉で脅しは良くないよ?」
「え?」
「え?」
なんかすれ違ってるらしい。
そのあと話をよく聞いたら正拳と聖剣の勘違いだったようだ。音がおんなじぃ。異世界転生した日本人がいるのかなぁ。まあオレもだしな。
「正拳で鋼は斬れないけど手刀で木なら斬れるよ」
「この世界の一般人すげーな。聖剣は普通に持ってるし手刀で木も斬れるんか」
「ボクより友だちのほうが剣の腕は上かな〜」
聖剣持ってるくせにそんなに剣は上手じゃないらしい。
「あれか、魔法でズバーって」
「魔法は別の、魔女の友だちが得意」
「回復魔法とか」
「お姫様が得意だね」
お姫様と知り合いなんか。普通の一般人じゃないのかな。聖剣持ってるし。まあコイツが勇者なら世界終わってそうだけど。
「うーん、まあ勇者は勇者かも?」
「なんで疑問形だよ。あとなんでこんな森にいるんだよ」
「迷子!」
「ゼッテー偽もんだろ!」
お前のような勇者がいるか!
どうもこの森はフライハイトの森というらしく、そこの主のドラゴンをちょちょいと倒しに来たらしい。ちょちょいとは倒せんだろドラゴン。え、倒せるの?
「仲間はどうしたんだ? 勇者なのにボッチ? はぐれたの? はぐれ勇者?」
「よくわからないけど狙われそうだね。仲間はみんなどこかに閉じこもってるか行方不明だね」
「わかってんじゃねーか。ひとりでドラゴン退治? 大変だな勇者」
「うん、勇者はブラック労働らしいよ」
ブラック労働の概念あるのか。大変そうだよな、ひとりでドラゴン退治とか。まあ森に住んでるドラゴンってことはブレスとか吹かなそうだし一人でも勝てるのか?
「うーん、もう少し修行していろいろできるようになったら手伝ってやってもいいぞ」
大変そうだし、少なくともオレは死なないからドラゴン見物も良さそうだよな。だけどそこそこ戦えるようにはしたほうがいいだろう。足を引っ張るかもしれんし。
「ホント? じゃあちょっと修行する?」
「修行とかガラじゃねーな……」
もっとこう、パパっと強くなれんかね。いろいろ強くなる方法は思いついてるが時間はかかりそう。
急かされてなんかやるの嫌いなんだよな。宿題とか自主的にはやったことねーレベル。でもちょっと考えてみる。
「うーん、水を運んでくれたら一ヶ月くらいで強くなれるかも?」
「おお、それはすごいね。いつまでって期限はないし一年とかでもいいよ」
「のんびりしすぎだろ」
「ボクはアンリ、よろしくね!」
まあ助かるけど。人間の勇者基準がわからんけどドラゴンと戦えそうなくらい強くなればオレは負けないだろうな。残機増やせるし。
そういうわけでコイツと修行することになった。はぐれ勇者の名前はアンリと言うらしい。女の子みたいな名前だな。
ちなみにしっかり男だった。なんか体拭かせてとか言ってオレの水を使いその場で脱いで拭いだしやがったし。
一応こっちは乙女だぞ。まあ性欲ないし水たまりだけど。
「この水すごく魔力含んでるよね」
「普通がわからんけどまだ中純度だぞ」
とりあえず喉も乾いてるというので中純度になった魔力水を澄ませてから飲ませてやった。
オレの涙のように澄んでるぜ。流石に涙がドブだったりしねーよ? 性格はドブだけど。否定はしない。
「あ、言ってたらオーガだね」
「おお、本当にいるのか。ってやべー音してるんですけどぉ?!」
ばきゃきゃ、ぐしゃり、と派手にいろんなものをへし折ったり投げつけたりするような音を立ててなにかがやってくる。
オーガめ、こんなどんな化物がいるかわからんとこでそんなに音を立てて大丈夫なのか? 自信があるのか仲間を呼んでるのかもしれんな。
ばきゃきゃ、と片手で細い木をへし折りつつ、うっすら赤い肌をした二メートルを超えるような筋骨隆々の大男が現れた。なんだ力士か。
力士じゃないな、顔は牙がはみ出してていかにも鬼。頭には短い二本の角が生えている。あんまり長いと生存競争に不利そうだもんな。
筋肉はもうマッチョマッチョゴリラゴリラ。よっ、仕上がってるね、大胸筋が山のよう! とか言って余裕かましてるがガチでデカい。体重二百キロ超えてそう。力士かよ。
コイツと殺り合うのか? 一発でアンリが吹き飛ばされそうな豪腕だしなんか武器もメイスでいかにも獣を殴り殺してますよってスタイルだ。
こええ〜。
そう思ってアンリを見るとちょっと笑ってこっち指差してる。ビビってる〜?じゃないんだが? ビビるわそりゃ。力士だぞ。
「よっと」
そう思ったがアンリはひらりとオーガに飛びかかる。オーガは慌ててメイスで払おうとするがとっさに振ったために木に当たる。
壊そうと思って振るのと違って不意にぶつかると打点が合わずに力が入らない。木は折れず、その瞬間にはもうオーガの首がするりと地面に落ちていた。
ズズン、とデカいオーガの体が後ろに倒れた。アンリはなんのこともないように剣を血振りして鞘に収めた。
あれ? 強すぎん? 一般人どころか逸脱した人の逸般人ってやつ?
すれ違いコント難しいです。




