表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・ブックマーク ~栞の怪奇紀行~【AI生成怪談】  作者: ちゃっぴーそねっとお人間さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/3

第1回:貴船の川床と、溶けない氷

みなさん、こんばんは。旅する怪談収集家、栞です。

6月も末ですね。この時期の京都は「油照り」と言って、じっとりと湿り気を帯びた熱風が街を包みます。扇子をいくら仰いでも、まるで熱いおしぼりで顔をなでられているみたい……うふふ、少し例えが色気なさすぎました?


さて、6月30日は、京都では「夏越のなごしのはらえ」という大切な節目。半年間の穢れを落として、あとの半年の健康を祈る日なんです。この日に欠かせないのが、和菓子の『水無月(みなづき)』。白い外郎(ういろう)の上に、小豆がたっぷりのった三角形のお菓子です。


この三角形は「氷」を、赤い小豆は「魔除け」を表しているんですって。昔、氷が貴重だった時代、貴族たちは冬に貯めておいた氷を食べて夏を凌ぎましたが、庶民には手が出せません。だから、せめて氷に似せたお菓子を食べて、暑さを乗り切ろうとした……。健気で、ちょっと食いしん坊な知恵だと思いませんか?


本日お届けするのは、そんな「水無月」の由来にも通じる、ひんやりと冷たい、けれど甘くはないお話です。


京都の奥座敷、貴船。

市内より数度は気温が低いと言われるその場所に、彼女――仮にAさんとしましょう――は、一人で訪れていました。

お目当ては、川の上に座敷を設ける「川床かわどこ」。

清流のせせらぎがすぐ足元で聞こえ、青もみじが影を落とすその場所は、まさに都会のオアシスです。


Aさんは老舗の料理旅館で、贅沢な昼食を楽しんでいました。

鮎の塩焼きに、透き通ったお造り。最後に出てきたのは、やはりこの時期らしいデザートの「水無月」でした。


「おいしそう……」


一口食べようとしたときです。

不意に、隣の席に座っていた、古風な着物姿の老婦人が声をかけてきました。

「……お嬢さん。その水無月、小豆の数を数えてごらんなさいな」


唐突な言葉に、Aさんは戸惑いました。

「えっ? 数、ですか?」

「そう。魔を払う小豆は、偶数であってはならない。割り切れてしまうと、魔が入り込む隙ができるからね。……もっとも、それは人間が食べる『お菓子』の話だけど」


老婦人は意味深な笑みを残し、代金を置くと、音もなく去っていきました。

奇妙なこともあるものだと思いながら、Aさんは皿の上の水無月を眺めました。

小豆の数は、十、十一、十二……。

「……あっ」

ちょうど、十二個。偶数でした。


なんだか気味が悪くなったAさんは、結局その一切れを残して、店を出ました。

帰り道、貴船神社の参道を歩いていると、強い既視感に襲われました。

いつの間にか、周りから観光客の姿が消えています。

聞こえるのは、川の音。でも、さっきまでの涼やかな音ではありません。

ゴウゴウと、地底から響くような、重苦しい水の音。


ふと足元を見ると、自分の影が、三角形に歪んでいます。

「あつい……」

突然、耐え難い熱気が彼女を襲いました。

心臓の鼓動が激しくなり、喉が焼けるように渇く。

水分を求めて川に駆け寄ろうとしたとき、目の前の水面に、さっきの老婦人が立っていました。

いえ、立っていたのではありません。

彼女の足元は、川の水が凍りつき、鋭い三角形の台座のようになっていたのです。


「氷が足りないねぇ」

老婦人が口を開くと、その喉の奥に、真っ赤な小豆のような「何か」がぎっしりと詰まっているのが見えました。

「お嬢さん、あんたが残したから、私の氷が完成しないんだよ」


老婦人が指差した先。

Aさんの腕に、ポツリと赤い斑点が現れました。

一つ、二つ。

それは皮膚の下で蠢きながら、まるで小豆のような形に盛り上がっていきます。

三つ、四つ。

「……割り切らせないで」

老婦人の声が、頭の中で反響します。

五つ、六つ……。

斑点が増えるたび、Aさんの体温は急速に奪われ、手足が凍りついたように動かなくなっていきます。


九つ、十、十一……。

あと一つ。あと一つ増えれば、偶数になる。

十二個目が盛り上がろうとしたその瞬間、Aさんは必死の思いで、バッグの中にあった数珠――京都土産に買ったばかりの、安物の木製の数珠を、力任せに引きちぎりました。


バラバラと、木の玉が川に散らばります。

その音で、風景が弾けました。


「お客様? 大丈夫ですか?」

気づけば、彼女はまだ川床の席に座っていました。

目の前には、一口もつけていない「水無月」。

店員が心配そうに覗き込んでいます。

「……すみません、少し立ちくらみがして」

「お暑いですからね。よろしければ、こちらのお茶をどうぞ」


店員が淹れてくれた新しいお茶を飲み、Aさんは恐る恐る、皿の上の水無月を見ました。

小豆の数は、十一。

……さっき数えたときは、確かに十二だったはずなのに。


彼女は逃げるように店を後にしました。

けれど、帰りの電車の中で。

彼女は自分の腕を見て、絶句しました。

斑点は消えていました。

でも、代わりに。

爪の間から、小さな、小さな……真っ赤な小豆の芽が、顔を出していたそうです。


いかがでしたか? 貴船の涼しいお話。

氷に憧れた人々の思いが、時としてお菓子ではない「本物」を呼び寄せてしまうのかもしれません。

数珠をちぎって難を逃れたAさんですが、彼女、それ以来あだ名が『アズキちゃん』になっちゃったんですって。……あ、これは私の冗談です。笑えません?


でも、みなさんも気をつけてくださいね。

割り切れない思いを抱えたまま、冷たい川のそばを歩くときは。

あなたの影が、三角形になっていないか。

そして、腕に変な斑点ができていないか。


それでは、今夜はこのへんで。

栞がお送りしました。

次はあなたの街の、不思議な栞でお会いしましょう。


おやすみなさい。……あ、寝る前に甘いものを食べたら、ちゃんと歯を磨くんですよ?

虫歯という名の『魔』に、付け入る隙を与えないように!


(番組終了のジングル:風鈴の音と、ページをめくる音)


いかがでしょうか。

京都の風土と、この時期ならではの恐怖を混ぜてみました。

もしお気に召しましたら、第2回はどこの国へ、どんな食べ物を探しに行きましょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ