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転生したら余命宣告された令嬢でした  作者: 櫻木サヱ
余命宣告された令嬢

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2/5

また、一年

目を開けた瞬間、天井がやけに高いと思った。


白い漆喰に繊細な装飾。知らない部屋。知らない匂い。

でも、不思議と混乱はなかった。


「ああ……転生か」


自分の口から、そんな言葉が自然にこぼれることに、少しだけ驚いた。

もっと動揺してもいいはずなのに、心は妙に静かだった。


重たいカーテンの隙間から差し込む朝の光が、やわらかく床を照らしている。

高価そうな調度品。自分の手を見下ろすと、細く白い指が視界に入った。年齢は、たぶん十代後半。


「……また、最初からか」


それでも、ため息は出なかった。

前世でも、病室の天井を何度も見上げてきた。

白くて、無機質で、逃げ場のない空間。

生きる時間を数えることに、もう慣れてしまっていた。


しばらくして、部屋の扉が音もなく開いた。


「お目覚めですか、リリアーナ様」


若い侍女が、ほっとしたように息をつく。

その名前が、自分を指していると理解するまでに、ほんの数秒かかった。


「……ええ」


声は落ち着いていた。

驚くほど、違和感がない。


侍女――エマと名乗った少女は、医師を呼んできます、と慌ただしく部屋を出ていった。

その背中を眺めながら、私はゆっくりと身体を起こす。


身体は、軽くも重くもない。

ただ、どこかで知っている感覚があった。


胸の奥に、薄く広がる鈍い痛み。

息を吸うと、わずかに苦しい。


「ああ……これも、あるんだ」


前世と同じ。

健康な身体を与えられるほど、世界は甘くないらしい。


しばらくして現れたのは、白衣を着た中年の男だった。

無駄のない動き。視線は冷静で、余計な同情がない。


「お目覚めですね、リリアーナ様。体調はいかがですか」


「悪くはありません。ただ、少し息が浅いです」


自分でも驚くほど、的確に答えていた。

医師は小さく頷き、脈を取り、瞳孔を確認する。


沈黙が続く。

長すぎる沈黙ではない。

ただ、言葉を選んでいる時間だと、直感的にわかった。


「……率直に申し上げます」


医師は、視線を逸らさずに言った。


「リリアーナ様のお身体は、先天的な魔力循環不全を抱えています。現状、完全な治癒は困難です」


侍女のエマが、息を呑む音がした。


私は、ただ頷いた。


「余命は……」


「一年ほどでしょう」


ああ、と心の中で思う。


一年。


前世と、ほとんど変わらない。


「そうですか」


声は、我ながら穏やかだった。

医師が、わずかに目を見開く。


「……驚かれませんか」


「いいえ。予想はしていました」


正確には、予感だ。

この息苦しさ、この静かな疲労感。

知らないはずがない。


エマが震える声で口を開いた。


「そ、そんな……! 治療法は……魔法でも……!」


医師は首を横に振った。


「延命の手段はあります。ただし、負担が大きく、確実ではありません」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がわずかに冷えた。

希望という言葉が、いちばん残酷な形で差し出される。


「……ありがとうございます」


私は、医師に向かって頭を下げた。


「正直に伝えてくださって」


彼は一瞬迷い、それから静かに頷いた。


医師と侍女が部屋を出ていくと、室内は再び静寂に包まれた。

鳥の声が、遠くで聞こえる。


私は、ベッドの上で天井を見上げる。


転生。

公爵家令嬢。

余命一年。


条件は変わっても、構図は同じだ。


「……また、数える生活ね」


でも、不思議と絶望はなかった。


泣くほど若くもないし、怒るほど期待もしていない。

生きる時間が限られているなら、どう使うかを考えるだけだ。


前世では、できなかったことがたくさんあった。

病室の外を、自由に歩くこと。

人の話を、途中で遮られずに聞くこと。

「未来がある前提」で扱われないこと。


「今回は……」


小さく息を吸い、吐く。


「ちゃんと、生きよう」


奇跡はいらない。

延命も、無理に望まない。


ただ、この一年を、私の時間として使う。

誰かの期待でも、計画でもなく。


そう決めた瞬間、胸の奥に、ほんのわずかな熱が灯った。


それは、希望とは少し違う。

覚悟に近いものだった。

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