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プロローグ

こんにちは、こんばんは、おはようございます、!

数ある作品の中から見つけてくださりありがとうございます。


今回は異世界転移ものです。よろしくお願いいたします。

 固定観念に踊らされていた。気づく要素はどこにもない。生贄(いけにえ)として食らうつもりで近づいたのだと疑う余地がなかった。

 真剣な表情で話があると言われれば、もしかして「プロポーズ!?」などと緩みそうになる顔を抑えていたのに、だ。


 近衛若葉二十三歳ただいま絶賛戸惑い中。初めてできた彼氏が豹変したのだ。

 事件が起こったのはいつもの週末。

 今宵は彼の家で二人きり。


「遅くなってごめん。全ての準備が整うまでにだいぶ時間がかかってしまってね。でもこれからはずっと一緒だよ」


 わけのわからないことを口にする彼の名前は、来栖コルド。

 無害そうな顔をした長身イケメンだ。

 名前からわかるように異国の血が混じっている。


「えっどういうこと?」

「うん? これから僕の故郷へ行くんだよ」


 コルドは若葉の額に触れるような口づけをひとつ。

 次に頭をひとなでする。

 こんな状況でも優しく触れる手に安らぎのようなものを感じるのは心を許している証。

 すると突然部屋の中に白いモヤが満ちてゆくのが見えた。

 変わりゆく景色に得体の知れない何かを感じる。

 顔をしかめながらモヤの発生源を探すためぐるりと部屋中を見渡した。


「えっ……全面鏡? どうなってるの!?」


 まるでパラレルワールドにでも迷い込みそうな雰囲気だ。

 視界が悪くなる中、必死に目をこらす。


「えっちょっと待って! ブラックホール……? にしては何かの模様も出現してるんだけどっ」


 頭の中は大混乱状態である。

 手品にしては説明のつかないことばかり。

 種も仕掛けもないことは一目瞭然。

 慌てて逃げようにも白いモヤが枝わかれしていくつかの筋となり体に巻きつく。

 先ほどの甘い雰囲気はいったい何だったのだろうか。

 若葉の体は徐々に全面鏡へ吸いよせられていく。


(こんなの故郷へ行く手段じゃないよー)


 コルドは気づかぬうちに若葉から少し離れた場所に立っていた。


「いやっ助けて! ねぇコルドっ! コルドってばぁ」


 このままでは飲み込まれる。あらがおうと必死に手を伸ばすが空を切るばかり。

 何もつかめないことが恐怖心をあおる。

 危機が迫っているにもかかわらず見向きもしないコルド。

 注意深く見ていると魔法の呪文のような言葉をとなえ、全面鏡に何かしているているのが見えた。

 モヤを作り出している犯人はコルドだったのだ。

 魔法を使える人間がこの世にいるはずがないのに。

 

「驚かせてしまったようだね。大丈夫だよ。僕の故郷は少し特殊でね、簡単には行けないところなんだ。先に君を送り届ける必要があるから一緒には行けないのだけれど。でも安心して、みんな君が来るのを楽しみにしているんだよ。僕もすぐ追いかけるから待っててね」


 コルドは若葉の声に気がつき近づいて来ると、なだめるように耳元でささやく。

 この場にそぐわないほどの優しげな口調だ。逆におそろしい。


「ねぇ――本当にどういうことなの!?」

「うん? まだやり残したことがあるからね。すまないが、あとでゆっくり説明するよ」


 話がかみ合わない。簡単には行けない場所に故郷があるにしても、この方法は明らかに変なのだ。

 助けるそぶりも見せず、すぐに側を離れると魔法を再開した。

 途端に絡みつく白いモヤが勢いを増す。

 犯人はコルドなのだから当然だ。

 奥歯をかみしめもがく中、ふとコルドを見る。

 普段の美しい金色の瞳が赤色へ変化していたのだ。


「噓でしょ……」


 絶望が心の中に押しよせ埋め尽くしてゆく。

 震える声でこぼれ落ちたのは「悪魔?」という空想上の人物とされている名前。

 元々黒い髪色をしているコルドは若葉の知る悪魔の容姿とうりふたつなのだ。


 コルドは若葉の怯えに気づくことなく目を細めて柔らかく微笑む。


「コルドなんて……大嫌い!」


 鏡の中へ吸い込まれながら若葉は絞り出すようにつぶやく。

 今までの優しさは全ていつわりだった。

 囲い込むための罠だったに違いない。

 騙されていたのだと思うにはじゅうぶんすぎる展開なのだ。

 若葉は夢であってほしいと心の中で叫ぶ。


 一瞬目が合うとコルドの瞳が傷ついたように揺れていた。若葉の声が届いたのだ。

 コルドにしてみればただ()()を家族へ紹介するために故郷へ連れて行く儀式をしただけだったのだ。

 嫌われるようなことは何もしていない。

 何か言おうと口を開くがもう遅い。

 若葉が消えたあと、全面鏡には呆然と立ちつくすコルドだけが写っていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


毎日更新予定です。

またお会いできたら嬉しいです。


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