ターンオーバー (挿絵有り)
「ドク!とんでもない勘違いよ!あなたは今、1,000年の絶望の果てにいると思ってるようだけど」
少しだけ語調を落として、だがしっかりと視線を据えてアイリスは語る。気圧されたケビンは、その姿から目を逸らすこともできない。1,000年の絶望の果て、という表現に、ただ漠然と、その通りだ、と思う。
「わからないなら教えてやる!あなたが、チャンドリアンが今いるのは、空前のチャンスの扉の前よ!」
たん、とテーブルを叩いてのアイリスの断定にケビンは混乱する。チャンス?ギーガーにおびえ、開拓者たちには誤解からの攻撃を受けかねないこの状況が?なにをどう解釈すればそうなるのか、まるでわからない。
「後ろでなく、過去でなく、今と、周りと、未来に目を向けなさい!あなたの周りにあるのは、1,000年の間チャンドリアンが忘れていた開かれた世界への出口!今あなたの周りにいるのは、ギーガーに狩られるのでなくギーガーを狩る者たち!あなたをここまで運んできたのは、星の海を往き、、あなたと同朋を望むがままの場所へいざなう船!」
それは、八方ふさがりだと思っていた絶望の帳に差し込む光。
「あなたは医師でしょう?患者より先に医師が絶望してどうするの!」
「…そうか。たしかに、医師は患者よりも先に諦めるべきではないな…」
ケビンのつぶやきに、どや!とばかりにアイリスの口角が上がる。
「善意の押し売りと思うかもしれないけど、高く買ってもらうわよ?ケビンさん。クオ!」
「はい、姫様」
「プルナさんを起こして、チャンドラーの現状報告と対ギーガーの掃討要請を文書にしてもらって。できあがり次第公団に回して。そのほうが早いならセサミシード支部に連絡でもいいわ!」
「かしこまりました、姫様」
「ドーユーさん!」
「お、おう」
「1999は何基持ってきてる?」
「3基…いや、気密処理とかインテリアが不備なものも入れれば5基だな」
「メイちゃん!」
「はい。ドーユーさん、参りますよ?」
「え?」
「プリンセスメイフェアに積んでいるんですよね?取りに戻ります」
アイリスが矢継ぎ早に指示を出すのを横目に土下座から起き上がった飛鳥が大地の襟首を捕まえて動き出す。
「あ、姉貴?」
「ぼやぼやしない!行くよ!」
「飛鳥さん、どこへ?」
「1999用意するならまた整地しないと!チェサちゃんも一緒する?」
「あ、はい!」
「よし、わしらも行くか、ムラよ」
「了解だ」
「そう言う事なら俺たちも手伝おう。起きろ、巌さん」
「ん?おう?」
「1999を増やすそうだ。整地を手伝おうぜ?」
「む、事情はよくわからんが、わかった。行こう」
他のメンバーもそれぞれ動き出した。
「アイリスさん!」
コノミも手を上げた。
「なに?コノミさん」
「ストライカードリルも手伝います」
「あれ、整地なんかにも使えるの?」
「ドーザーブレードも付いていますし、斜面を切り崩した方が仕事が早いんじゃないかと」
意外に土木向きのマシンだったようだ。
「俺たちはまた警備役かな?」
「ん、お願い、バダーさん、バズーさん。途中飛んできたから大丈夫とは思うけど、ギーガーがここをかぎつけないとも限らないしね」
「さて、ケビンさん」
「行動力があるな。羨ましい」
「なに他人事みたいに言ってるの。ちょっとガレージまで付き合って」
「いいけど、なんだ?」
来ればわかる、とばかりにアイリスはすたすた歩きながらザラマンダを装備した。ケビンは軽く肩をすくめてそれを追う。
全員出動中なので、ガレージは閑散としている。気密ブロックでもないので、空気が抜けており、ザラマンダが立ち止まると物音ひとつしなくなる。ケビンはザラマンダの背に触れた。
「で、ここで何を?」
触れることで振動が伝わる。この状態なら会話できるのはアルケニーに捕まれた時にわかっている。
「ケビンさんにレンドリース品をね」
すっ、と横に手を伸ばす仕草をしたザラマンダは、そのまま何もないところからザラマンダを一機引きずり出す。取り出されたザラマンダは背面ブロックが解放されており、そのまま乗り込める状態だ。
「乗って」
「いいのか?」
「構わない。売るほどあるから」
ふむ、とわずかに逡巡してからケビンはザラマンダに乗り込んだ。
『基本スーツだから何も考えなくて使えると思うけど、どう?』
『ああ。わかる』
『じゃ、次に行くから少し下がって』
再びアイリスが引きずり出したのは
『ルナ・アルケニー・ベーシック、っていう。本来二人乗りだけど、一人でも使えなくはない。貸し出すから、これで戻ってチャンドリアンをまとめて』
『…わかった。その役目は、確かに私の物だな』




