チャンドリアンサイバー (挿絵有り)
クラーククレーターからの一時撤収は、時間節約のために稜線でプリンセスメイフェアを呼び出して乗り込むこととした。ザラマンダはそのまま飛んで発着デッキに降り、ルナ・アルケニーはらいてうで回収する。ストライカードリルはどうしようかと相談になったが、そうこうするうちにストライカーチームの画家さんが心配してビーコンを追ってきたらしく、ストライカーファイターとストライカーダイバーが飛来してきた。どうやらダイバーはドリルを懸架して飛べるとかで、そのまま空輸していくつもりのようだ。
『青猫さん、仲間がお世話になりました』
『やあ、画家さん、ですね?直接会うのは初めて、と言いたいところだけど、ザラマンダ越しで申し訳ない。コノミさんの事は気にしなくていいよ。たまたま居合わせただけだし』
『後程当人からじかに事情を話させます。笑ってやってください』
どうも、かなり間抜けな話で突出したらしく、罰として自分の口で告白させることにしたようだった。
『ドリルは持って帰るのかい?』
『いえ、コノミさんも乗機がないと不便ですから、1999でしたか?青猫さんのベースの近くに降ろします』
『掲示板には動画が上がると思うけど、イベントモンスにギーガーがいるのは確定。サーマルデータとレーダーデータも公開するから、索敵に役立ててください』
『助かります。【機兵隊】の皆さんも喜ぶでしょう』
【機兵隊】は【松の湯】と並ぶ戦闘ギルドだが、開拓支援に軸足を置く【松の湯】とは様相が違い、よりバトルジャンキーな気質を持っている。昨日の掲示板会議でも、チャンドリアンサイバーに対して先制攻撃に出るべきだと主張していたが、多分に戦闘が発生しないイベント進行に焦れていただけではないかと思われる。明確に戦っても問題ない相手が現れたことは、【機兵隊】のようなプレイスタイルの者をかえって落ち着かせることになるかもしれない。なんでもストライカーチームは【機兵隊】に誘われたことがあるようで、今回の転移場所は彼らと同じホールだった。苛立つ【機兵隊】が鎮静化してくれればありがたいそうだ。
1999には松の湯はザラマンダによる直接降下で、セサミオープナーはらいてうからのアルケニーによる降下で、コノミとケビンはルナ・アルケニー・カンプに同乗してそれぞれ帰投した。松の湯メンバーのうち、幹部プレイヤー及び希望者以外は一時解散とし、残った者はセサミオープナーメンバーと共に軽食を取りつつケビンとコノミから事情を聴くこととした。
「で、ケビンさん、よく真空中であれだけ騒げたね」
「アイリスさんだったな。私は衛星野外活動を前提にしたサイボーグでね。生命体としてはここから上だけで完結していて、頭蓋は与圧カプセル化してる。酸素タンクが空になるまでは真空中でも問題ないのさ」
ケビンは首を指し示しながら種明かしした。
「チャンドラー人のサイボーグ、だからチャンドリアンサイバーか。電脳系かと思ったんだが」
ムラが納得したようにつぶやいた。リアルでは再生医療の発展に伴い機械式の人工臓器や義肢は廃れており、その発想はなかった。むしろクオのような高性能ドロイドのほうが現実味があるくらいだ。
「このチャンドラーでなるべく多くが生き残るための手段だった。が、今ではここではこれが普通さ」
かつて、フロンティアのテラフォーミングを手掛けた、公団では先史文明と通称される一団は、母星の滅亡を機に衰退し、この星系からも手を引いた。が、チャンドラーにいた一部は取り残されたのだという。今となっては理由は不明だ。混乱の中で取り残されたのかもしれない。何かの対立があったのかもしれない。過酷であっても、この地に愛着を持ちあえて残ったのかもしれない。
「とにかく、宇宙船の類も一切引き上げられていて、我々はこのチャンドラーで生きていくしかなかった。食料生産が不足なのは明白で、我々は最小限の栄養補給で最大限の人数を養うためにこの形態を選んだ。遺伝子改造に行かなかったのは、人、というものに対するある種の未練だったんだろうと私は思っているがね」
「では、チャンドリアンサイバーは全てケビンさんのようなサイボーグなのか?」
「活動している者は、ね」
スカーフェイスの質問をケビンは限定を付けて肯定した。
「活動していない者もいる、と聞こえますね?」
「全チャンドリアン、20万人くらいいるんだが、ほとんどは受精卵状態で休眠している。彼らを維持するために、300人が成長しているが、それもコンピュータフレームにダイブインして仮想空間で仕事をする者がほとんどだ。施設維持、保全のための地上活動のスタッフが20名ほど、私のようなサイボーグボディーを使って活動している」
「なんか生首がいっぱいコンピュータの前に並んでるのを想像した」
うへぇ、という顔で飛鳥が感想を漏らした。
「だいたいそれで合ってる」
だからどうした、とケビンが答えた。プルナは、カルチャーギャップとはこういうものか、と思った。
「チャンドリアンがどういう存在かは大体わかりました。それで、ケビンさんはどうしてあそこに?初めてお会いした時にはずいぶん怒っておられたようにお見受けしましたが」
「あの場にいたのはギーガーを退治する作戦のためだ。破棄されたプロペラント貯蔵施設に餌を置いてギーガーをおびき寄せ、爆破する手はずでね。あれでも100体以上は仕留めた後だった。ただ、全滅させるのは無理だと思っていたから、クラーククレーター内部には近づいてほしくなかった。もし君たちがギーガーを連れ帰るようなことになれば、最悪フロンティアが滅ぶ。警告は届いていたんだろう?結果的に助かったから今は感謝しているが、あの時はどうしてここに来た、早く離脱しろ、と思っていた」
メイフェアの質問にケビンが事情を明かす。
「ケビンさん、いい?」
「なんだね?アイリスさん」
「警告は届いたけど、言葉が足りなすぎて真意がさっぱりわからない。開拓者の半数は領有権を主張して宣戦布告をしている、あるいはその前段階の警告を発した、と解釈してた」
ケビンは「えっ」とばかりに周りを見回し、頷く面々にアイリスの言葉が正しいことを察して、ぱん、と顔を掌で覆って天井を仰いだ。




