表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/232

接近遭遇

 【ルナ・アルケニー・グレイブ】と、【ルナ・アルケニー・カンプ】をツートップに、中央に【ルナ・アルケニー・ブラウエカッツ】、そしてその後方に【ルナ・アルケニー・カノーネ】と【ルナ・アルケニー・ラケーテン】が並走する布陣でA・C・クラーククレーターの内側斜面を駆け下りる。【松の湯】所属のザラマンダ集団は機動補助ユニットの推力でルナ・アルケニーを追う形だ。

 『ブラウエカッツより随伴ザラマンダ、目標地点は送信データの通り。敵影は見えないが念のため、到達2,000m手前でプロペラントタンクをパージされたし』

 『松の湯リーダー、10-4。全ザラマンダ、ブラウエカッツの指示に従え。10-10』

 いきなり射撃戦になる可能性もなくはないので、スカーフェイス以下タンクデサントしていたザラマンダも降車して自走しており、ザラマンダ集団は24機となっている。一機だけ、チェサの使用するザラマンダ・プロトはルナ・アルケニー・ラケーテンのミサイルランチャー基部にある補助席で第二ガンナーとして接続されているが、これはプロトが機動補助ユニットを持たないための処置だ。

 「特に動くものはないようだけど…」

 空気が無いので火災にはならないし、煙もすぐに飛散しているので爆発地点の視界は既に晴れている。アイリスからのドライバー標準視界には、飛散した何かの構造材が見えるが、いずれも静かによこたわるだけだ。

 『ブラウエカッツより各アルケニー、ガンナーは拡大モードで人、あるいはそれに類する物がないか走査せよ』

 アイリスは現場にアルケニーを走らせながら指示を出した。拡大映像だと視界は狭まるのでドライバーが用いるのは危険だ。

 『カンプよりブラウエカッツ、なんか場違いなのがいる。映像送る』

 「場違いって…まあ、場違いかな?」

 バズーからの報告にアイリスが軽く眉をひそめる。

 「…医者?」

 ドーユーも軽く首をかしげた。

 送られてきた映像は、爆心地から30mほど離れて倒れ伏す人。場違いなのは、真空の月面で宇宙服ではなく白衣を着込んでいること。おそらく男性で、髪は短く刈りそろえたグレー。傍らに落ちている黒いカバンからはご丁寧に医療器具らしきものがこぼれだしている。

 『アイリスさん、ひとまず収容しましょう』

 『?メイちゃん?生きてるとは思えないけど?』

 『死体が残るのならNPCでしょう。この場にいるプレイヤー以外の人はチャンドリアンサイバーの可能性が高いかと。ならば、彼らの事を知る一助にはなります』

 『んー、わかった。とりあえず近くまで行きましょう。各機、爆心地が近いから周辺に注意を』


 『さて、【場違い】の所まで着いたのは良いけど』

 『そのコードネームはどうかと思うが?アイリス君』

 『むう、確かにあんまりかな?じゃあ、医者っぽいから【ドク】でどう?ムラさん』

 『いくらかましだな』

 『収容するのならカンプかグレイブのコンテナが妥当でしょう。元々その用途のコンテナですし』

 『じゃあカンプのコンテナを開く』

 『よろしいのですか?』

 『女子に死体運びは押し付けられんよ』

 雑談交じりの相談をしながら【ドク】をがしゃがしゃと5機のルナ・アルケニーが取り囲むんだその時だった。【ドク】ががばりと起き上がる。

 『わお、生きてる。なんてタフな』

 『いや姉貴、そんなレベルの話じゃ…』

 きょろきょろと周囲を囲むアルケニーを見回した【ドク】は、彼なりに状況を把握したのか両腕を振り回して口をパクパクさせはじめた。

 『なんだか怒られている気がするけど』

 『身振りからはどっか行け、と言っておるように思えるがの』

 『その、声が聞こえないですから詳細が…』

 『!メイちゃん!ダウン!』

 『ひゃっ!?』

 【ドク】の反応に皆が戸惑いを見せる中、唐突にアイリスがメイフェアに指示をとばした。反射的にメイフェアがルナ・アルケニー・グレイブの姿勢を低くし、予想しない挙動にプルナが小さな悲鳴を上げる。と同時にルナ・アルケニー・ブラウエカッツが主砲の【アルケニーショット】をぶっ放した。ブラウエカッツクルー以外の全員の視線が思わず射線の先を追う。そこで無数のビームの針を浴びて前後に長い頭部を霧散させていたのは、光の加減で黒とも紫とも見える、長い尾を含めれば8mにも及ぼうかという細身の長身。手足も相応に長いが、猫背で膝を曲げた姿勢のため地上高は4m位だろうか。そのモンスターは、βプレイヤーの多くが直接対峙した経験があり、正規版からのプレイヤーもデモムービーで見知っている。

 『ギーガー!?大きい!!』

 「クオ、奴の外見、サーマルデータ、レーダー反射率、動作パルスを敵性登録。以後類似を含め該当反応は友軍全機にポジションマーカーを添えて警告発報」

 「かしこまりました。姫様。早速ですが爆心地地下から該当動作振動50。間もなく瓦礫を抜けて地上に出ます」

 『グレイブ!カンプが【ドク】を収容するまで近接防御!カノーネ、ラケーテン、近づく数を漸減せよ!スカさん、撃ち漏らしの処理は任せてもいい!?』

 『グレイブ10-4』

 『カンプ了解、収容次第戦線復帰でいいな?』

 『カノーネ了解。ラケーテン、ミサイルはあまり使うな。爆発で目標を見失う恐れがある』

 『ラケーテンわかりました』

 『スカーフェイスより松の湯全機、乱戦になる恐れがある。フレンドリーファイアに注意せよ』

 指示に対する返信が飛び交う中、あっけに取られている【ドク】をブラウエカッツの前部作業肢が捕まえた。

 『わ、私をどうする気だ!?』

 接触したので振動マイクが声を拾えるようになったようだ。

 『乱暴ですみませんが、緊急事態のようです。話は後で伺いますからしばらくあの中にいてください』

 僚機が発砲を始め、アイリスは【ドク】をルナ・アルケニー・カンプのコンテナに押し込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ