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威力偵察

 掲示板での会議は3スレ目に突入し、度重なる脱線と紆余曲折の末、得られた合意は

 「自衛を除きむやみに交戦しない。チャンドリアンサイバーと接触した場合はまず情報取得を優先する」

 という2点だけだった。

 「ともあれ1999のおかげでセサミオープナー・松の湯連合が一番先行しているのは間違いない。どうするね?」

 ベースコンテナ1999という前進基地を持つ分補給や休憩のための後方との連絡が近いのはかなりの強味だ。

 「向こうから接触してきたのは進展があったと見ていいと思う。もし領有権主張なら無視すれば実力排除に来るだろうし、善意の警告でも安全でない事態が何かを知るには突っ込んでいくしかないだろうな。スカさん」

 スカーフェイスの問いかけにムラが答えた。

 「じゃあ、轍の追跡を継続かい?」

 「そこなんですが、巌さん。すぐに後続のプレイヤーがこの近辺まで上がってきますから轍は一旦保留してクラーククレーターの内側に突入するのはどうでしょうか」

 「ふむ、わしらはアルケニーの機動力を生かせば大して時間をかけずに稜線を超えられるが、松の湯は?」

 村田が単独での突出に難色を示した。

 「戦闘を考慮しなければアルケニーにしがみついていけば1両につき3体づつザラマンダを乗せていけますが」

 「タンクデサントか」

 メイフェアが提案したのは戦車と随伴歩兵の速度差を埋める古典的な手法だ。およそ戦車が戦場に登場したころから使われている。歩兵輸送用の装甲車両が広く使われるようになってからは廃れてきてはいるが。

 「プリンセスメイフェアかゼカマシより空挺降下も考えましたが、降りる間が無防備かと思いまして。それに対空攻撃を受ければ回避できても降下地点がばらけてしまいます」

 「外付けのプロペラントタンクで機動補助ユニットの稼働時間は延長できるから、デサントできないザラマンダは時間差発進して稜線付近で合流したらどうかな?」

 アルケニーはああ見えて戦車で、装甲はザラマンダよりもかなり強固だ。先行して攻撃を受けてもザラマンダよりはもつし、それを以って敵対者を発見することもできるだろうとアイリスは考えていた。

 「強行偵察、、いや、威力偵察になるのかな?」

 「相手はいるが戦力は不明な時には有効だぞ?バズー」

 バズーの感想にバダーが答える。威力偵察とは、相手の戦力や対応能力を探るために当たりの軽い軍事行動を起こして相手の出方を調べることだ。

 「後、一つ気になる情報もある」

 「なに?スカさん」

 「情報共有掲示板にアップされていたんだが、俺たちの見つけた轍以外にもそれに類する物が見つかっていてな、アイリスさん」

 「私らが見つけたのもタイプの違うのが2,3種あったよね」

 「ああ。で、ザラマンダともアルケニーとも違う足跡が見つかっている。かなり歩幅が大きく、低重力でジャンプ移動しているとしてもΠレックスくらいのコンパスがあるんじゃないか、と学芸員さんが見立てていた」

 セサミオープナーは歩行制御の改変を問題にしてΠレックスを持ち込んでいないし、アップされたスクショの足型も異なるので、こちらの物ではなく、しかも人よりも大型で歩行型の何かがいたことになる。

 「要警戒、ですね。低重力に最適化できていれば装輪車よりも俊敏な可能性があるのはアルケニーが多脚型な理由ですし」

 飛鳥が真面目な顔で頷く。

 「大地様、飛鳥様が真剣な表情ですが、あれはなにかのいたずらを計画しているところでしょうか?」

 「…いや、今のは本当に真面目な所だと思う。たぶん」

 「クオ。稀にそう言う事もあるのよ」

 「クオちゃん⁉大地⁉酷くね⁉先輩、稀にって⁉」

 日ごろの行いって大事ですね、とプルナは思った。が、口には出さんかった。ふと、メイフェアと視線が合うと、いつもの笑顔でこちらを見て頷いている。

 「心読まれた⁉」

 動揺のあまりそこだけは口に出たが、メイフェアはそれに突っ込みを入れることもなく、ただ視線を戻しただけだった。


 クラーククレーター稜線までの道のりは昨日とほぼ同じ様相だった。轍に沿っていた時よりはレーザー照射の頻度が下がっていたように思えたが、それでも稜線が近づくと徐々に被照射警告が増えてくる。

 「レーザー照射があるんだから、当ててる方はこちらの位置を把握してるってことよね」

 「おそらくは。姫様」

 「そう言えばアイリスさん、照準レーザーではないかもしれない、とするとこれはなんなんだ?」

 「位置計測とか素材分析とかにもレーザー使うよね、ドーユーさんも」

 「なるほど」

 建築に関心のあるドーユーにはレーザー測量やレーザーを用いた建材劣化検査の知識があるのですぐに思い至った。

 「つまり、向こうもこちらの事を知りたがっている?」

 「その可能性もある、っていう話だけどね」

 稜線の上からのぞけるように、にゅー、とモニターカメラの一機を上に伸ばしながらアイリスが質問に答えた。ルナ・アルケニー・ブラウエカッツの本体を稜線に隠したままカメラを回してクレーターの内側を見回す。

 『何かありますか?アイリスさん』

 『うーん、これといって何も。もしかすると人工物が見つかるかと思ったけど、あるとしても相当巧妙に偽装してるな、これは。パッシブな観測しかできないのがつらいとこだね』

 アイリスはメイフェアからの通信に返答しながら観察を続ける。

 『アクティブな観測器も積んでたはずだが?』

 『あるけどね、ムラさん。李下に冠を正さずってやつで』

 素材分析用のレーザーで走査、など行うとこちらがそう判定したように敵対行動ととられる恐れがある。

 「!!アイリスさん!!」

 「光ったね、ドーユーさん」

 「スペクトル分析。水素・酸素の酸化燃焼爆発と思われます。姫様」

 『ブラウエカッツより同行全機、爆発を確認、これより全機で現地調査に向かう。戦闘になる可能性が高い。周辺警戒を怠るな。10-10』

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