ベース
『ちょっと…くらくらしますぅ』
『低重力とはいえ、20mは落ちましたからね』
プルナのぼやきにけろりとした様子で答えながら、メイフェアはコンテナから【ルナ・アルケニー・グレイブ】を外に出した。実のところ1/6の低重力環境なので着地時の速度は3~4mの落下と大差なく、アルケニー自体の緩衝能力もあったので身構えていればどうということはなく、プルナとメイフェアの状態の差は、操作していたメイフェアがどのタイミングでどうなるかがわかっていただけだったりする。
『メイちゃん、大丈夫だった?時間不足で水平にならすとこまではできなかったけど』
『十分ですよ、アイリスさん』
『お疲れさん、交代だ』
『はい、ドーユーさん。あとのセッティングはお任せします』
【ルナ・アルケニー・グレイブ】と入れ替わりにドーユーの【ザラマンダ】がコンテナに入っていった。
『で、アイリスさん、【らいてう】で何を運んできたんだ?』
『食糧と補給物資を少し、でも一番の荷物はあのコンテナ自体、だね。スカさん。まあ見てればわかると思うよ』
『ドーユーよりブラウエカッツ、及びスカーフェイス。これより展開シークエンスに入る。終了まで整地指定エリアへの立ち入りを制限されたし。10-10』
『ブラウエカッツ了解。ブラウエカッツより全機、事故回避のため整地指定マーカーより内側への立ち入りを制限する。範囲内の機体は退去されたし』
「よし、みんな退避できたようだし、始めるか」
このコンテナは最初にルナ・アルケニーを積んでヘリンボーンに降りたコンテナと異なり、メインハッチの中はぎりぎり1両のルナ・アルケニーが収まる広さでしかない。その奥にザラマンダが使用できるサイズのエアロックゲートがあり、更に通路といくつかのゲートを経由してコントロールルームが用意されている。ドーユーはそこにザラマンダを接続していた。姿勢を固定したザラマンダを椅子代わりにして仮想コンソールを操る姿は、もし傍から見るものがあれば「空気椅子に座るザラマンダが何かを操作するパントマイムをする姿」に見えただろう。
「まずはオートレベリングを起動」
コンテナ底部の3か所からジャッキが伸びてコンテナを水平にする。
『3か所、なのですね』
『はい、3脚なら絶対にすべての脚が設置しますから、こんな時は4脚よりも好都合なのです。プルナさん』
共用チャンネルを開いたままだったのだろう。プルナとメイフェアの会話が聞こえてくる。
「ルーフ展開」
蒲鉾型の屋根が中央から左右に分割、工具箱や釣り道具のケースのようにそのままスイングしてコンテナ側面に降りた。屋根があったその下からソーラーパネルが起き上がり、受光面を太陽に向ける。
「ガレージ準備」
引き出しを開くように入り口側の壁面がせりだし、全長が倍近く長くなり、更に底面から脚が伸びて延長分を支える。
『ベースコンテナ1998、だっけ?ドーユーさん』
『1999だ。アイリスさん』
『凄いな。見る見るうちにコンテナがちょっとした前線基地だ』
『松の湯にもどうだい?確かまだキャンプ暮らしだったろう?』
ギルド【松の湯】は軌道エレベータ東方の平原の一角をベースキャンプとして使い続けており、ギルドコアもそこに設置されているのだが未だ建築物はろくになく、全員がテント生活だ。
『…イベント終了後でいいから見積もりを出してくれ。サブマスや幹部と相談してみる』
ギルド発足時にザラマンダの一括購入やΠレックスの予約をした結果、松の湯の台所事情は厳しい。
『ところでドーユー君』
『なんです?巌さん』
『もう2,000件も設計上げたのかい?それもすごい話だが』
名前が通し番号ならそう言う事になる。もし小改良も全部カウントしていたとしても毎日30件以上設計するのは尋常なペースではない。
『いやいやまさか。1は居住用、9は簡易型、その次の9は気密型、で、その9番目のプランだから1999なんだよ』
『なら、もし松の湯が調達を希望した場合1999ではなくなるのかな?』
『もちろんクライアントの希望次第だが、多分。フロンティア地表なら気密でなくてもいいだろうし』
『まあ、その辺は置いといてとりあえず中に入りましょう?各部屋の備品は大丈夫?ドーユーさん』
『ああ。いつでもお客さんをお迎えできます、だ。アイリスさん』




