勇気を示すマークがシンボル
ホールの中は思ったよりもは混雑していなかった。1機のヘリンボーンに4~5千人振り分けられる予定なので芋を洗うようなことになっているかと想像していたアイリスだったが、お客の多いショッピングセンター程度に収まっている。
「意外に人が少ないね?IDEさん」
「まあ、各ヘリンボーンに複数のホールを置いているし、このホールは【松の湯】と交流のあるギルドばかりが集められたようだからね」
「【松の湯】ってそんなに権力あるの?それにIDEさんはフリーじゃなかった?」
「IDE君はフレンドコールで招待したんだよ。それから、振り分けは運営指示さ。到着の早かった大手ギルドを各ホールに振った後、フレンドリストやら取引ログやらを参考に後続で到着したギルドやフリープレイヤーを割り振って誘導したらしい」
アイリスの感想にまずIDEが、それを補足してスカーフェイスが答えた。
「さらに補足しますと、イベント参加登録プレイヤーのおよそ1/3程度は現時点でログインできていないと推測されます。理由は主にリアルでの都合と思われます。姫様」
「ああ、なるほど。現に私たちもイベントスタート直後にログイン・転送の松の湯よりも遅れて到着してるしね」
クオの指摘にアイリスも納得する。スタートダッシュできれば大抵のイベントで有利になるが、仕事のシフトや家庭の事情で時間をずらしてでないとログインできないプレイヤーは相当数いるはずだ。現在一隻のヘリンボーンに1,500人くらいが振り分けられている、ということになる。
「そういうことだ。実際【松の湯】でも5人遅参者がでてる」
「スカ君、しかしそれでもこの人数だ。全体に組織立った行動を求めるのは無理じゃないか?」
「ああ。一応通信チャンネルの割り振りだけ話し合って、序盤は各々独自判断で動くことになってる。とりあえず通信チャンネル票を預けとくよ、ムラさん」
「ああ、それはアイリス君が持ってたほうがいいかな」
「クオ、受け取って各機に設定をしといて」
「承知しました、姫様。」
そんなやりとりをしている間にも、行動を始めたらしいプレイヤーがホールから退出したり、遅れてきたプレイヤーがホールに到着したりと人の出入りがあるようだ。
「プレイヤーの調査報告はイベント掲示板に随時アップする約束になってるが…」
「まあ、身内で検証は必要になるだろうな。抜け駆けしたがる奴は必ずいるだろう」
「そうだな、兄貴。掲示板情報も重要だが全幅の信頼、とはいかないだろうな」
スカーフェイスが言いよどんだことをバダーが引き継ぎ、バズーも兄の意見に同意した。
「そこは独自検証を織り交ぜていくしかありませんね。今は…軽戦闘機ユーザーが上空からの偵察を実行中のようです。特に発見報告は上がっていませんね」
メイフェアは早速イベント掲示板にざっと目を通していたようだ。
「まあ、今のとこは額面通りに受け取っていいんじゃない?【プリンセスメイフェア】からも異常報告はないんでしょ?」
「はい。おそらく上空からのざっくりした調査ではしばらくは何も見つからないと思います」
「えっと、では地表で調査、でしょうか」
「そうですね、プルナさん。僕らはルナ・アルケニーという脚がありますし」
「うん、大地君。それが妥当だと思うよ。自走してもそれほど時間のかかる距離じゃなさそうだし」
『青猫より一番星、予定ポイントに到達、全車待機中。到着予定は?』
『こちら一番星。今ヘリンボーンから離床した。3分で着く。10-10』
『ブラウエカッツ了解』
『五月祭より一番星、周辺の安全が確定でないので着陸待機はどうかとおもいますが。10-10』
『スカーフェイスより一番星、予定変更、合流地点上空からザラマンダで降下しようと思うがホバリングは可能か?10-10』
『一番星よりスカーフェイス、10-4。ブラウエカッツ、聞いた通りだ。痛艦長、念のため上空哨戒を頼む。10-10』
『ブラウエカッツ了解』
『痛艦長、10-4.10-10』
「…えっと、質問なんですけど、メイフェアさん」
「なんですか?プルナさん」
アイリス等【セサミオープナー】は、ギルド【松の湯】と共同でクラーククレーター周辺の調査を行うことになった。当初はルナ・アルケニーで先行し、同じく【松の湯】に協力する桃次郎が【松の湯】メンバーを送り届ける計画だったが、非武装の輸送船である【一番星】の安全性に思い至ったメイフェアの提案で、ザラマンダを使用しての降下策に切り替えることとした。プルナが同じルナ・アルケニーに乗り合わせているメイフェアに質問を発したのは、通信でのそのやり取りの後の事だ。
「スカーさんや桃次郎さんたちが10-4とか10-10とか言ってるのはなんですか?」
「10コード、と言って、古くからあるアマチュア無線の暗号、みたいなものですよ。数字の組み合わせで簡単な文章を表します」
「あ、私も知ってます」
大地と組んでルナ・アルケニーに乗る飛鳥が割り込んだ。
「飛鳥さんもご存じなんですか?それで、どういう意味なんでしょう?」
「10は好き、4は大好き、10-10-は世界でいch…『ピー、ピー、ピー』何の音?」
何かのアラームが飛鳥の発言を遮った。
「姉貴、照準レーザーを検知した警告だよ」
剣呑な事実を告げる大地の声はしかし、張り詰めたものでなく諦観に満ちていた。
「飛鳥ちゃん、出任せを教えないようにね?」
「…はい」
「本当は、10-4が了解、10-10は送信終わり、という意味です」
アイリスの威嚇に飛鳥が黙るのを待って、メイフェアが正解を教えた。
「そ、そうですか。一時はどうなることかと」
「まあ、スカさんや桃次郎さんがガチだったら私だってドン引きするわね」
あからさまにほっとした声のプルナに同意するアイリスだった。
♪カン、カン、カカコカン、カンコカカコカンコカン♪




