うなぎあれこれ
「皆さん、お疲れ様でした!」
「「「「「おつかれさまでした」」」」」
大盛況となったうな丼配布会の後片付けを終え、最後にこっそり人数分確保しておいたうな丼を食べつつの打ち上げ兼ミーティングだ。
「しかし、アイリスさんや。鰻なんかよく有ったもんだな」
「それがミケさんや。実は水産物の中じゃ一番潤沢な部類だったりすんのよ」
「わっつ?」
「クオ、解説」
「かしこまりました。ご指名につき、僭越ながら解説させていただきます。時に皆様、鰻の成長についてご存知でしょうか」
「あー、大体」
「はい、大筋は」
「聞いたことはあるな」
アイリス、メイフェア、IDEの3人は知っているようだった。
「え?いえ?」
「よく知らないな」
ピンと来ないのはプルナとミケだ。
「ご存じない方もおいでのようですのでざっくりおさらいします。十分に成長したウナギは海に下り、深海も深海、海洋で最も深い海溝まで降りて産卵します。当然孵化も深海です。そこから成長しながら陸地に向かい河川に遡上します。長い旅は数年を要します」
「す、すごいですね」
「へえ、そうなんだ」
「鰻の養殖は19世紀後半に始まっていますが、河口で稚魚を捕獲して育てるもので、資源保護策としては不十分なものでした。産卵から孵化、成長のすべてを人工環境で再現できるようになったのは21世紀初頭、その後も長く商業ベースにするにはコストが見合わない時代が続きました」
「そこは存じていますが、セサミシードで潤沢な理由と繋がるのですか?クオさん」
メイフェアが疑問を呈した。クオは一つうなずいて先を続ける。
「【セサミシード】では当然卵からの完全養殖です。しかも天然ものに限りなく近付けるために段階的に水圧、塩分等ミネラル濃度、水温などを調整する高度なシステムです。他の魚類は海産プラントリングの中に放流して放置に近いのと比較すれば雲泥の差があると言ってよろしいでしょう。ですが、そのため一度停止してしまうと再供給が可能になるまで数年かかることになります」
「つまり、他と違ってこれだけはずっと稼働してたと?」
アイリスが合いの手を入れた。
「はい、姫様。食料生産系は姫様が着任なさる前はほぼ停止、ないしは環境維持のみの状態でしたが鰻養殖のみはアイドリングとはいえずっと稼働していました。出荷可能在庫は常に数千食分に達してしまうため、過剰な在庫を農業プラントの魚骨粉肥料の素材に転用して処理するサイクルになっています」
「「「「「なんて贅沢な肥料なんだ!!」」」」」
「現在は本日消費した分を除き1500尾が在庫状態です。プラントから水揚げ可能な個体が約2万尾、成長促進とシステム稼働率上昇で…」
「今は現状維持で問題ないよ、クオ。どうせまた280万人に供給可能なのがベースなんでしょう?」
「はい。ご明察です、姫様」
コロニーのスケールが桁違いであることに慣れてきたアイリスだった。
「まあ、鰻の話はよしとして、これからどうするんだ?」
ひとしきりの鰻談義に区切りをつけてミケが訊ねた。
「このまま一旦放置でしょうか。明日も期待した人は集まるでしょうが」
メイフェアが涼しげな笑顔で答える。
「えと、全てのプレイヤーに行きわたった訳ではありません。今頃そちこちの板が鰻祭りの話題で加速中なはずです。地表組のプレイヤーの中でも都合が付けばステーションまであがってくる人もいるでしょう」
「すみません、IDEさん。明日も迷惑かけそうです」
プルナの予測にアイリスがフォローを加える。
「ああいや、どっちにしてもガラス修理するまで営業はしないつもりだったし。ただ騒ぎに巻き込まれるのもあれだから、メイフェア君の艦にでも避難させてもらえないかな」
「それがよろしいかと思います。私たちは艦に戻りそこでログアウト、明日のお昼くらいに再ログインして落ち合えばこちらでは丸2日くらい空くことになります。その間公団には問い合わせが殺到する事でしょう」
メイフェアの笑顔がそこはかとなく黒い。
「メイちゃん窓口めぐりの件怒ってる?」
「公団職員の皆さん、倒れなければいいですね?」




