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用法を守って正しく使いましょう

 彼がその騒ぎに気付いたのはクエスト報酬で消耗品を調達すべく公団事務局から商店街の馴染みの店に足を向けてすぐだった。

 「なんだ?あの人垣は。誰かパフォーマンスでもやってるのか?」

 それ(・・)を遠巻きに囲む人垣に取りつき、のぞきこんだ彼は当事者の姿に見覚えがあった。

 「ザラマンダ・プロト…それに、あの青猫ゾアンは、ハチじゃないか?」

 「ザラマンダ・プロト(それ)はそんなくだらないことのためのものではないぞ」

 冷えた声が響く。そうだ。ハチならそう言う。あのスーツの骨格(フレーム)は大学の研究室で災害救助用に提案、開発しているものがベースだったはずだ。冒険、探索のための戦闘はともかく犯罪に用いられるのは不本意もいいところだろう。介入は…多分必要ない。ハチもザラマンダ・プロトを所有しているはずだし、誰よりもその扱いに長けているだろう。それに、あんなに怒っているのだ。発散させたほうが良いだろう。犯罪者プレイヤーにはほんの少し気の毒だが。


 「あぁ?なに言ってんのお前」

 ザラマンダ・プロトのプレイヤーが訝しげに聞いてくる。

 「装備解除して投降する、と言うなら警備に引き渡すだけで勘弁してやるぞ?」

 腕組みをしたままふん、と鼻を鳴らして言い放つアイリス。

 ザラマンダ・プロトは抱えていた商品をばらばらと地面に落とし両手を広げ

 「頭湧いてんのか!?引っ込んでろ!」

 そのままアイリスに殴り掛かった。


 「あ、アイリスさんだいじょうぶなんですか?」

 「あの様子でしたら姫様の相手には不足かと」

 「ええ。あの程度のスピードなら心配ないでしょう。プルナさん、ファーストエイドキットの用意はいいですね?」

 裏通りを迂回してザラマンダ・プロトの後ろに回ったメイフェアら3人はアイリスが挑発して注意をひいている間にIDEの店舗にすべりこんでいった。乱雑に銃器や弾薬、エネルギーパックが散らばる中、カウンターに背を預けて一人のプレイヤーが倒れている。

 「IDEさん!」


 「ひゃはっ!偉そうにふんぞり返ってどれほどかと思えば逃げ回るだけかよっ!!」

 調子に乗って両腕を振り回すザラマンダ・プロトだが、アイリスは組んだ腕をほどきもせずひょいひょいと避けている。

 「あの青猫さん、すげえ…」

 ギャラリーからも感嘆の声があがりはじめる。アイリスにしてみればこの程度のスピードなら熊パンチの方がまだ速いし正確なわけで、当たれば痛いだろうが脅威は感じていない。

 「大振りだな。やっぱり道具の性能におぼれているだけか」

 更に挑発しつつ、視界の端に店舗からIDEを連れ出すメイフェアらをとらえる。

 「すぐにそんな口をきけなくしてやんよ!!」

 ザラマンダ・プロトが左を打ち下ろしてくる。それを除けざま、アイリスは左脇に潜り込む。

 「ち!どこに隠れやがった!?」

 ザラマンダ・プロトは生身の人間と同等の視野を与えられているが、その巨体故に密着されると死角に入られやすい。

 「では、教育の時間だ。覚悟するといい」

 左脇腹にあるアクセスハッチを開いたアイリスはその内側の取っ手をつかみ思い切り引っこ抜く。

 ぼん、と音をたて爆発ボルトが爆ぜて、後ろ半分の装甲がパワーユニットごと排除され、搭乗する強盗プレイヤーの上体が露わになる。

 「んな!?」

 ごきん

 突然の強制除装に驚き対応できない強盗プレイヤーの11,12番肋骨に、伸び上がりつつ放たれたアイリスのガゼルパンチが突き刺さった。人の脇は常時腕に守られており、筋肉も薄いので骨格にダメージが通りやすい。さらに、11,12番肋骨は胸骨につながっていないため、骨折しやすく折れた骨が内臓を傷つけやすい。

 「ぐ…は…」

 「もう暴れないほうがいいぞ?呼吸は苦しいだろうがじっとしていれば死に戻りするほどのことはないでしょう」

 痛覚設定を弱にしていればさほど痛むわけではないはずだが、肋骨を部位破壊されると呼吸困難になり上体の動作に制限が入る。

 「あー、あや?アイリス?そんくらいにしとけ?」

 いつの間にかアイリスの背後に立っていた人物が制止に入った。

 「ん?たく兄?…それともGMって言ったほうがいい?」

 


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