火竜
「ところで、テストで使いつぶした話をするために機番の話をしたわけじゃないんだろう?アイリス君。見たところ、この2機の仕様は違うようだが」
2機のスーツを見比べつつムラが話を引き戻した。
「確かに、【ザラマンダ・プロト】には違いないようだが3号機の方はムービーで見たのとはだいぶ変更があるようだな」
ドーユーも異差を指摘する。実際、頭部装甲や肩アーマー、背部のパワーユニットに直結しているらしきオプションラッチなど3号機にしかないディティールがいくつもある。
「これもテストベッドにするための改装か?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるよ。バダーさん」
バダーの推測に曖昧な返答をするアイリス。
「それじゃ兄貴でなくてもわからない。わかるか?メイフェアさん」
「…あぁ、わかりましたわ!」
バズーは抗議したが、メイフェアは何かに気付いたらしい。
「あの、わかったような気がします」
「「マジか?プルナさん!」」
これも何かを察したらしいプルナに驚愕の視線を向けるインセクティア兄弟。
「あれじゃな、【試】が取れとるんじゃろう」
村田が端的に結論を出す。
「そうだよ。これはもう【ザラマンダ・プロト】じゃない。【ザラマンダ】先行生産機の初号機に生まれ変わってるんだよ」
【ザラマンダ・プロト】の本体性能はほぼ完成仕様と言えたが、主に時間切れが理由で火器関連のオプションと、機動力補助が未搭載のままになっていた。オプションラッチを設けるためのマウントや、それを隠すカバーなどは既に装備しているが、入手したユーザーでそれに気付いている者はほとんどいないだろう。
(ミケは気付いてるみたいだったけどね)
リアルの友人を思い出しつつ、アイリスは解説を始める。
「まず背中に折り畳み式で翼形状のベーンを持つスラスター。この推力は自重にはちょっと足りないんだけど、ベーンに沿って吹き出すことで揚力を稼いで地表に沿って最高180㎞/hくらいで滑走できる。はず。
スラスターは宇宙でも使えて、【プロト】の姿勢制御モーターよりもモーメントアームが長いから効率が稼げる」
「動力はロケットか?燃費は悪そうだな?あと、はず、というのは?アイリス君」
「そこはやむを得ないね、ムラさん。連続で30分がいいとこかな?推進剤タンクを繋げば延長できるけど、最大積載量は決まってるから搭載オプションとのトレードオフになるね。で、はず、ってのは滑走に関してはまだ計算上の話でテストできてないから」
「ここでやれば・・・あ、そうか、遠心力の疑似重力だから…」
ドーユーが言いかけて何かに気付いた。
「浮くと色々とつじつまが怪しくなるのですね?アイリスさん」
「そうなんだよ、メイちゃん。だからこれに関しては地表でテストできるまでおあずけ、なんだ」
答えるアイリスは心底残念そうだ。が、気を取り直して先を続ける。
「で、あとは火器管制。最大15目標のロックオン、ターゲットセンサーを付けた銃器との照準連動、オプションラッチへのリモートスイッチ。そのくらいかな?いや、一部装甲形状も改良してるね」
「それはいいですね。今まではレーザーポインターでないと狙えませんでしたから」
手持ちで射撃戦を実行したことがあるらしく、メイフェアの反応が良い。
「そんなところなんだけど、メイちゃん。戦闘能力は上がる、その代りちょっとサイズは大きくなって、作業機としてはデメリットもなくはないけど、4号機の【ザラマンダ】へのアップデートを希望する?しない?」
「ぜひお願いしますわ。それで、アイリスさん。公式アイテムの【ザラマンダ・プロト】は取り下げますの?」
「それなんだけど、併売しようと思ってる。アップデートパックも製品化するつもり」
「さっきの、作業機と割り切るならプロトの方が優秀ともいえる、という話じゃの?」
「えっと、それにプロトの方が安くなりますよね?」
「そこだよ、村田さん、プルナさん。それに今いるユーザーもフォローすべきだよね」
「時期的にはすぐ、なのか?」
我が意を得たり、と微笑むアイリスにバズーが投入時期を問う。
「それはまだしばらく先になるね。この3号機、4号機でオプション含めてテスト運用して問題ないことを確認してから。だから、テスト用の改装、とも言えばいえるってわけ。もちろんバダーさん、バズーさんの機体が用意でき次第二人にもテストをお願いするつもりだけど、いい?」
「もちろん引き受けた」
「専属テスターだからな」
【ザラマンダ・プロト】のゲーム内価格は240000cr。その発展型となればもっと高額なわけで、インセクティア兄弟としてはそれを無償提供してもらえるとなれば否はないのだった。




