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はじめてのもんすたー

 「いやな持久戦になったね」

 「はい。ですが、向こうには決定力のある攻め手がありません。まず勝利は動かないかと」


 合い間合い間に休憩や食事、装備充実のための製作活動、頃合いを見てログアウトをしてリアルでの雑事をこなし、2日、ゲーム内時間では8日目。ついに港湾S解放に後一手。最も港湾部に近い配電室を残すのみとなった。シリンダー南端の山岳部、標高2000mくらいの位置にあるその配電室はシリンダー内とは空調が繋がっているだけのはずだったが、ここまで6か所でそうであったように先客がおり、排除しないと修理がままならないのは明白だった。

 「でも、ここまでは割と普通に野生動物だったと思うんだ。熊とか狼とか虎とか猛獣もいたけどさ」

 「だいたい温帯域で見られる範囲でしたね」

 「パンダはかなり驚いたけどね」

 「結局テーザーで気絶させましたから素材は取れませんでしたが」

 「だって可哀想じゃない。部屋からいなくなれば十分なんだし無理に仕留めなくてもいいと思うのよ」

 「同意します。姫様」

 因みに一番強かったのは虎で、メインカメラヘッドを食いちぎられている。

 「でも、これはあんまり罪悪感わかないわ」

 「同意します。姫様」

 出合い頭に糸を吐いてザラマンダ・プロトの左半身を拘束したのは、2mに及ぼうかという大蜘蛛だった。拘束したと見るや、組み付いて牙をたててきたが例によって装甲に阻まれ、動きの止まったところでテーザーで反撃、それで勝負がつくかと思ったのだが、思いのほか糸の導電性が高かったらしく電撃が散ってしまい、蜘蛛に与えたダメージはわずかなようだった。その後は牙>テーザー>睨み合いのループですでに10分か経過している。

 「なんでここだけ怪獣かな。だいたい、虫は物理的に巨大化できないって聞いたことあるけど?」

 「はい。しかしこの場の環境ならあり得るかもしれません」

 「?ちょっと興味がわいた。聞かせてもらえるかな?クオ」

 ルーチン化した反撃を撃ちながらアイリスは解説を促した。

 「ご指摘の通り、甲殻類はあまり巨大化できません。外骨格は表面積に比例してしか強度が伸びないのに対して重量は体積に比例するので自重を支えきれなくなるからです」

 「うん、そんな話だったよね、確か」

 「ですが、コロニー中心寄りのここの重力は平地部の半分程度です。さらに、体を支える筋力も少なくて済みますから、外骨格を厚くすることもできるでしょう」

 「なるほど」

 「蜘蛛の呼吸器は(えら)に似た構造ですから単純に大型化して低気圧環境に適応したとも考えられます。また、低温環境では体格が大きいほうが体温維持に有利です。熱が逃げる体表面積が相対的に少なくなりますので」

 「もしかして、あんまり暴れると熱がこもって苦しいんでない?」

 「そのようです」

 話している間にも、蜘蛛の動きは目に見えて鈍っており、睨み合いの時間が長くなっている。とはいえ、半身を拘束するのは同じ太さなら鋼鉄の5倍強いと言われる蜘蛛糸。ザラマンダ・プロトで強化されていてもおいそれとは引きちぎれない。

 「熱がこもったら休んで回復?」

 「あとは、SFだと生体レーザーを撃って強引に排熱するというアイデアも」

 蜘蛛の眉間の単眼が閃光を放つ。

 「クオが余計なこと言うから!」

 放たれたレーザーは横薙ぎにザラマンダ・プロトを襲うが、損傷を与えることはできず逆に糸を炎上させて拘束が解ける。

 「所詮元が体温ですからせいぜいタバコの火程度の火力かと」

 さらに、糸を伝って延焼し配電室中にはられた巣も燃え上がる。

 「うお、火事になった」

 「ご安心を。耐火設備は生きています」

 クオの言葉通り、すぐに天井の自動消火器が粉末消火剤を散布、鎮火する。

 「周りじゅう霧がかかったみたいで何も見えないね」

 「低重力ですから巻き上げた粉剤が落ちないんですね」

 消火が確認できたのか、換気システムが働き視界が晴れてくる。

 「蜘蛛は・・」

 「あちらに」

 消火剤に埋まった蜘蛛は、ゆっくりと足をたたみ、ドロップアイテム【スパイダーシルク 1㎏】を残し消滅した。

 「…何だろう、すごくいたたまれないんだけど…」

 「…虫のやることですから…」



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