唸る!唸るぞスペック!!
築1000年新古優良物件たる【セサミシード】の修復、再運用を目指すのなら、現状をまず確認しておかなければ話にならないだろう。アイリスの指示をうけ、デスクの正面にいたクオはアイリスの右後ろに移動してくる。
「併せて執務室デスクの用法も簡単にご案内しましょう。先ほど私を呼び出されたランプがデスク起動スイッチを兼ねております。長押しで起動、休眠を切り替えます。オーナーであられる姫様にのみ反応します。」
「呼び名。こう?」
一応突っ込みを入れつつランプに触れたまま待つと、2秒ほどでデスクの上に浮かび上がるように3Dディスプレイが現れ、天板上に仮想キーボードが投影される。
「失礼しました、アイリス様。こちらのキーボード操作で【セサミシード】の情報検索、機能管理が可能ですが、今現在は十全に機能しているとは申しあげかねます。理由、原因は追って。まずはこちらを」
ディスプレイにスペースコロニーの映像が表示される。
「今、これといった操作はしなかったようだけど?」
「はい。私は【セサミシード】の総合情報端末ですから、このデスクの機能ともリンクしています。私がお傍にある時はお申し付けいただければ操作代行いたします。そうでない場合は一般的なOSのインターフェイスに近い仕様で操作、検索ができます」
割り込んだアイリスの質問にすらすらと回答するクオの姿に感心しつつうなずき、アイリスは先を促す。
「ご覧のとおり、我々の文明圏で言うところの【島3号】タイプのデザインです。主構造体はカーボンナノチューブ、外殻は詳細不明の合金製ですが、強度は1000年放置されてこれといった損傷が見受けられないことからかなりなもの、もはや装甲と申しあげるべきレベルと推定されます。直径6.4km、全長は40km弱で、このタイプとしては長いですね。ただし、資源貯蔵区画や未調査の部分があり、居住区画は全体の70%ほど、推定収容人口は最大280万人ほどかと。現在の人口は1名です」
確かに、某超有名で何度も続編やリメイクが作られたアニメ作品で見慣れたコロニーよりもミラーの取り付け位置が中央寄りに見える。おそらく端からそこまでは居住区画ではないのだろう。
「居住区画の環境維持機構は完全に機能しています。ただし、1000年間手入れがなされていないため、持ち込まれていたと思われる動植物が野生化していること、都市インフラが寸断されており、さっぱり機能していないことなどが理由で即時の入植受け入れは不可能です」
「虚空に浮かぶ野生の王国かぁ…」
「はい。的確な表現かと。そして、それ以上に問題なのは農業プラント、工業プラントの両生産施設がほぼ機能停止していることと、コロニー両端の港湾設備が機能喪失状態であること、長距離通信設備が使用不能なことでしょう」
「なにその島流し」
淡々と酷い報告をするクオに、つい抗議の声が出る。
「的確な表現かと、姫様」