ミモザ
お店を出ると、夜風が心地よく吹いている。
「えっと、それじゃ…」
美咲が挨拶をしようとすると、
「よかったら、1杯付き合ってくれないか?」
康之からの誘いに、美咲は笑顔を見せるが、
「私、お酒は…。」
と躊躇していた。康之は、そんな美咲をホテルの最上階にあるbarへとエスコートした。
夜景の見える窓際のカウンター席へ。
「素敵…」
美咲は魅了されていた。この雰囲気。飲めないけど、飲みたくなる。
「少しなら…」
と美咲が言うと、
「それじゃ、カクテルにしようか?」
と言って、好みを聞いてくれた。そして、康之はバーボンのロックを、美咲にはカクテル"ミモザ"を注文してくれた。『アルコール弱めに』にと付け加えて…。
「美味しい!」
アルコールを口にしたせいか、美咲はおしゃべりに夢中になる。好きな映画の話や、お気に入りの本のこと…。
「ごめんなさい。私、ひとりで…」
そんな美咲に、康之は優しく微笑む。しかし、ふと思った。『こんな素敵なお店。よく来るのかな?でも…誰と?』―そんなこと聞けない。美咲は急に黙り込んでしまった。
「どうしたの?」
康之の言葉に、
「ううん。なんでもない…」
作り笑いで答えるだけだった。
「そろそろ出ようか?」
「…はい」
ホテルのラウンジからは中庭が見える。美咲が眺めていると、
「行ってみる?」
と、康之は歩き出してしまった。美咲も慌てて後を追う。遊歩道を進むと、その先には砂浜が…。
「綺麗…」
こんな素敵な場所まで知ってるなんて…。美咲の心が騒ぐ。
季節はずれの、誰もいない砂浜。酔いが醒めたのか、美咲は身を震わせた。すると、康之は自分の着ているコートを美咲にかけようと…。その瞬間、美咲は康之の胸に飛び込んだ―。
「あったかい…」
康之は美咲を優しく包み込む。康之の胸の鼓動だけが聞こえてくる…。
「…俺のとこ、来る?」
美咲はコクリとうなずいた…。
タクシーを降りると、そこは超高層マンション。エレベーターで20階へ。
「どうぞ」
美咲がリビングから窓の外を眺めて、
「ここの夜景も素敵なのね」
と言って振り返ると、康之はキッチンからグラスを持って現れた。
「飲む?」
と聞かれ、美咲は首を横に振りながらも、
「じゃあ、一口だけ…」
と手を伸ばしたとき、康之は持ってたグラスのお酒を口に含ませ、口移しで美咲へと飲ませたのだった…。そして、そのまま彼のリードに身を任せ―。
美咲が目を覚ますと、もう夜明けが近づいていた。慌てて身支度を整え、玄関で靴を履いていると、
「送るよ」
と、康之がシャツを羽織りながら近づいてきた。
「大丈夫。タクシーで帰れるから…」
美咲がそう言うと、康之は美咲の頬を軽くつねって微笑んだ…。
クルマで送ってもらうと、30分ほどで到着する。
「それじゃ…」
と、美咲はクルマから降りようとしたが、康之は美咲の肩をすばやく抱き寄せてキスをした。
「おやすみ」
「おやすみなさい…」
―こうして美咲は康之と交際することになった。




