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恋人のいる時間

 同じ時間に起きて、祖母と朝食を食べ、朝の情報番組の占いの結果見てから家を出て、いつもの電車に乗る。改札を出て左側を見ると、柱の所に立っていた月ちゃんが嬉しそうな笑顔で手を振ってくる。バレンタインの後、僕の生活自身は劇的に変わったわけではない。僕の生活で唯一変わったのは登下校の月ちゃんとの一時。

「おはようございます。星野先輩」

 弾けるような笑顔で挨拶してくる月ちゃんに、僕も思わず頬が緩む。

「おはよう月ちゃん」

 挨拶を交わし、意味もなくフフフフと笑い合ってしまう僕ら。ただ、顔を見合わせるそれだけで嬉しくて、一緒にいるだけで幸せだった。

 月ちゃんと僕との関係は、単なる先輩後輩という関係から、恋人関係になったからといって具体的に何が変わったという訳ではない。前よりも若干多めに会話を楽しみ、メールや電話が増えたくらい。目を合わせてワクワクして、手を繋いでドキドキするという昭和か? というくらいレトロチックな恋愛を楽しんでいた。

「今日も良い天気だね」

「はい!」

 している会話といったら、本当に大した事ないのに、何故こんなに楽しいのか? 愛の力って凄いと思う。コレが晴れていても、雨ふっていても、どんな天気でも同じように話題にしてニコニコ笑い合える自信がある。それくらい僕らは極度の躁状態だった。


 バシ


 いきなり背中に衝撃を感じる。

「おっはよ~」

 ニヤニヤ顔の清水が僕達に挨拶してくる。何故だろうか、疚しい事している訳ではないのに恥ずかしくなる。

「あ、お、おはよう」

 月ちゃんも照れから清水にお辞儀する。

「おはようございます、清水先輩」

 そんな僕らをみて、清水はイヤらしくニヤリと笑う。

「な、何だよ、清水」

 清水は「ん」と言い首を横に振る。眼が何故かランランとしている。

「なんか、青春してるよな~と! 生の青春ドラマって、楽しそうだけど、端からみると恥ずかしいな」

 付き合い出したのは、皆には隠していたのに、清水には直ぐバレたようで、こうしてからかってくる。お陰で部活でも皆の知る所になり、ほとんどの人が祝福してくれるものの、同じようにからかってきて恥ずかしい状況になっていた。

 僕も月ちゃんも顔を赤くして俯くしかない。

「もう二週間たつけど、キスとかしたの?」

 清水はそんな事まで言ってくる。そんな所まで考えていなかった僕は、チラリと月ちゃんと顔を合わせさらに照れてしまう。そして二人で同時に首を横にふる。


 ボコッ 


 鈍い音が聞こえ、清水が頭を抑えている。いつのまにか近くにいた薫が鞄で清水を殴ったらしい。かなり痛そうだ。

「お前さ、馬どころか象に踏まれて死ね!」

「あ! 薫さんおはようございます」

 清水の心配と、薫の挨拶どちらを先にしようかと迷っていると、月ちゃんが先に薫に挨拶の言葉をかける。

「おはよ! 百合ちゃん、ヒデ!」

 薫は明るく笑う。

「ひでぇな、友達と可愛い後輩の恋愛を温かく応援しているだけなのに」

 薫はチラッと冷たい視線をおくる。

「そういうのは、チョット離れて自然な姿を眺めて楽しむから面白いんじゃん」

 清水にニヤリとしながら言う言葉に僕は溜息をつく。清水もその言葉に笑う。

 月ちゃんと両思いになって、僕が一番気になったのは、薫の存在だった。薫は月ちゃんの事を好きなんだろうなというのを感じていただけに、僕と月ちゃんが付き合うことになったのを、どう思うのだろうかと悩んでいた。

 しかし薫は、バレンタインの一週間程たったときに、ニヤニヤと僕に近付いてきた。

『妹を頼むぞ! 泣かせたら承知しないから』

 笑顔でそんな感じの言葉をかけてきた。僕がどういう反応を返してよいのか動揺していると、少し怒ったように唇を突き出す。

『月ちゃんから聞いてたんだ。でもお前は全然俺に話してくれないから、耐えきれず言ってみた。水くさいよ話してくれないなんて』

 怒っているのは、僕が秘密にしていた事で、月ちゃんとの関係は笑顔で受け入れて応援してくれた。僕が逆の立場だったら、こういう風に明るくその事実を受け入れて応援できるのだろうか? ますます薫には敵わないと思った瞬間だった。

 月ちゃんはそんな薫の気持ちにも気が付いていないのだろう。変わらぬ笑顔を薫に向け、二人で馬鹿な事を言い合って楽しんでいる。仲の良い兄妹ごっこは相変わらず健在。というかお兄さんぶりはますます磨きがかかり月ちゃんを猫かわいがりするようになったようにも感じる。コレが薫なりの心の整理の付け方なのかもしれない。僕が出来る事は、そうやって楽しむ二人を見守る事だけだった。

「そういう事は二人のテンポに任せないと、そして俺らはそれを、ヤキモキ悶えながら楽しむ。それでいいだろ?」

 清水もその言葉に呆れるように苦笑する。

「お前は、韓流に填っている主婦か! ま、後は若いもの同士楽しめ! 俺らは先いくから」

 清水はそう言って、薫と仲良く去っていってしまった。

 後には、恥ずかしさに顔を赤くしている微妙な空気の二人だけが残ってしまった。溜息をつき二人で顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。


恋人のいる時間(UNE FEMME MARIEE)

1964年 フランス映画

監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール

キャスト:マーシャ・メリル

ベルナール・ノエル

フィリップ・ルロワ

ロジェ・レナール

クリストフ・ブルセイエ


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