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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
心まで凍みる季節を暖めるもの
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小さな贈りもの

 冬休みが終わる前に遊びに行こうと、薫と月ちゃん、一家団欒に飽きたという清水の四人で渋谷に映画を観に来ていた。


 月ちゃんと薫は十日ぶりだとか言い二人で何やら盛り上がりながら歩いている。僕も薫と合うのは十日ぶりな筈で、清水に関しては終業式以来な筈。しかし薫は僕らには『よッ! おめでと!』の一言で挨拶をすまし、月ちゃんと無邪気に会話を楽しんでいる。楽しそうに話しをする二人が、色が違うものの同じデザインの耳当てをしているのをボンヤリと眺めていた。


 薫が僕の視線に気が付いたのか、ニヤリと笑う。

「コレいいだろ?」

 薫の笑顔は、北野がよくしてくる、独占欲からくる優越感とは違ったようだ。

「お前らも買えよ! 暖かくていいよ!」

 続けてそんな言葉を言ってくる。使ってみて気に入ったからクリスマスプレゼントにも選んだという事を、誇らしげに薫は語る。

 薫の言葉に、月ちゃんは頷きながらコチラを嬉しそうに見上げてくる。二人が似たような期待を込めた目で見つめてくることに戸惑いを覚える。清水も同じ事考えたのか苦笑している。

「あ、うん」

 そう答えたものの、四人でお揃いになるって、どういう状況なんだろうか? とも思う。そこまで特殊な防寒具ではないものの、部で同じ耳当てをしていたら、皆変な顔しないだろうか? また薫と清水と俺が同じ耳当てをして現れたら、クラスの人はどう思うのだろうか?

 まあ、薫は素直に良い道具だからと、友達に勧めていて、それでお揃いになるという事なんて気にもしてないのだろう。でも月ちゃんは女の子だし、そういう事は気にならないのだろうか?


 薫と今日見事にお揃いになっても、それを無邪気に喜んでいたし、さらに僕とお揃いになるのを喜んでいるようにも見える。ということは、月ちゃんにとって、僕も薫も同じくらいの距離感という事なのだろうか? それはホッとする反面残念にも感じる。

「マルキューで売ってたから、後で買いに行こう! このイヤーマフラー!」

 薫の中では、もう買うことに決定しているようだ。耳当てではなく、イヤーマフラーが正式名称らしい。

「俺は、買わねーよ! 鈴木や、星野とお揃いって、状況が寒いよ!」

 清水は、僕と違ってハッキリ自分の意見を述べる。そんな清水に『ヤレヤレ』という感じで薫は大袈裟に溜め息をつく。

「そういう事気にする所が、チッチャいんだよ! そんな事言ったら、電車の中でユニクロのウルトラフライトジャケットとか着てる人皆お揃いなのかよ! 柔軟性持って答えるヒデを見習えよ!」

 薫の言葉に、清水は笑う。

「コイツの事情は、また別だろう!」

 そうして清水は僕にスッと近づく。

「お前は、月ちゃんとのペアルックを楽しめ!」

 清水は、僕だけに聞こえる声で囁いてきて、僕は思わず赤面してしまう。

「そうそう、こないだ川崎大師いってきたから、お土産です。とんとこ飴! ボケ封じとせき止めの効用あるみたいですよ」

 なんか妙にしらけた感じになった雰囲気を変えるために月ちゃんがそんな事を言って話題をかえてきた。薫と清水に、何故か可愛い布にくるんでリボンで纏めたという可愛い包みを手渡す。

「なんで、態々こんなファンシーなラッピングを?」

 そう呟く清水に月ちゃんはヘラっと笑う。

「実は、飴が一袋しかなくて、お二人に配るには分けるしかないという事で」

 元々、仲の良い薫へのお土産だったのだろう。急遽今日来る事になった清水に対して苦肉の策だったようだ。

 清水がナルホドと頷いた後に、僕の顔見て「あれ?」という表情を見て、僕も『あっ』っと思う。


 月ちゃんは僕と初詣して、二人で飴買ったから、僕にはお土産を用意しなかった。しかしその事知らない二人には不自然な状況である。

「つまりは、清水が来た所為で、僕の分け前が減ったと言うわけか~」

 薫は気が付いてないのか、むくれた顔でそう呟く。

「セコい事言うなよ! 飴くらいで!」

 清水の言葉で薫は肩をすくめる。そして困った顔をして二人のやり取りを見ていた月ちゃんと隣に立っていた僕の方を見てニコリと笑う。

「ま、サンキュー、二人からのお土産嬉しいよ」

「ありがたく、頂くよ! お二人さん!」

 清水も続けてそう言いニヤリと笑う。薫も気が付いていたようだ。


 その言葉に、月ちゃんも自分がやらかしてしまった事に気が付いたようだ。僕の方をチラリと見て恥ずかしそうに俯いた。

 僕は二人に月ちゃんと初詣にコッソリ行ってしまった事が二人にバレてしまった恥ずかしさだけでなく、別の意味でも動揺していた。清水は兎も角、薫が「何故自分も誘ってくれなかったのか?」と聞かれら、どう答えようか? 気分を害してないのか。と色々考えてしまう。


 しかし薫は機嫌良さげだ。直ぐに飴の包みを開け一つ口に放り込み、『結構、美味い!』と言いながら、眩しいくらい明るい笑顔をコチラに向けてきただけだった。僕はその様子をまるで素敵な映画の一シーンを観ているかのように見つめてしまった。月ちゃんは、横目で見ると、笑いかけてくる薫にニコっと可愛らしく無邪気な笑みを返していた。


 そして何時もと変わらない四人の時間が始まる。他愛ない事や、馬鹿な事言ってふざけて笑い合う。

 何故か清水が積極的にイヤーマフラーを買いに店に皆を引っ張って僕だけに同じデザインのを無理やり買わせる。そして清水は金ないからと買わずにニヤリと笑う。完璧からかっているようだ。月ちゃんは赤、薫は黒、僕は青と同じイヤーマフラーをして渋谷を歩く僕ら。清水だけはニヤニヤして見てたけど、周りの人は気にもしてないようで、一緒とか一緒でないは僕が思っている以上に大した問題ではないのかもしれない。このイヤーマフラーデザインもシンプルで、後頭部で抑える為に邪魔な感じはなく、耳も暖かくて、確かに快適だった。

 その事を素直に薫に伝えると、『だろ!』と自慢気な顔で明るく笑った。


小さな贈りもの(LARGER THAN LIFE)

1996年 アメリカ映画 93分

監督:ハワード・フランクリン

脚本:ロイ・ブラント・Jr.

キャスト:ビル・マーレイ、

ジャニーン・ガラファロ、

マシュー・マコノヒー、

リンダ・フィオレンティーノ、

パット・ヒングル







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