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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
心まで凍みる季節を暖めるもの
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ニューイヤーズ・イブ

 大晦日は祖母と紅白を見ながら、こたつで年越し蕎麦を食べるというごくごくありきたりな時間を楽しむ。

 面白いものだ、別に大晦日の夜から元旦への時間の経過って、一昨日から昨日までの時間と何ら変わった所は無い筈なのにもの凄く特別な気持ちになる。

 除夜の鐘が響くようになって、祖母と新年の挨拶を交わしてから、お休みの挨拶をしてそれぞれの部屋へと向かう。


 部屋に戻ると携帯のランプが点滅しているのに気付く。メールがきているようだ。

『明けましておめでとうございます!

  今年もよろしくお願いします。

 お互いに素敵な一年でありますように』

 月ちゃんからのメールに思わず頬を緩ませてしまう。

『明けましておめでとうございます!

 メールありがとう。嬉しかったよ。

 また今年も、映画とか行って楽しもうね。』

 今年は三年になる、そんな事言ってもいいのかとも思ったけれど、そんなメールを返してしまう。でも少しでも月ちゃんと一緒にいたい、それが本心だった。

 受験もあるし、来年は卒業である。今年の事を色々考えてぼんやりしていると、携帯が震える。

『やっほ~!

 あけおめ~♪ ことよろ~♪

 高校生活も最後だし、楽しむぞ!

 ということで、一緒に思いっきり遊ぼうね!』

 薫からの新年の挨拶メールだった。新年からテンションが高いそのメールに吹き出してしまう。

 返信しようとして、送信先に月ちゃんのアドレスも入っている事に気が付いた。

 つまりは、月ちゃんが僕と薫にメールをして、薫は月ちゃんに返信するついでに僕にも送ってきたという所なんだろうと察する。

 薫は去年は年賀状はくれたけど、それに加え年賀メールなんて送ってくることはなかった。男同士だしそんなに色んなツールで挨拶をしまくるという発想もなかったというのもある。


 月ちゃんにもメールを送った事をバレる形で僕にもメールする。別にそこに深い意味などないのだろうが、月ちゃんからのメールをもらった時の喜びは半減していた。

『明けましておめでとうございます

 今年もよろしく!

 三年になり受験も大変そうだけど、互いに頑張ろう!』

 苛立ちに気付かないふりをして、僕はそんな当たり障りのないメールを返した。

 そして深呼吸をして、携帯は手をもったまま布団に横になる。

 月ちゃんは今、どうしているのだろうか? 僕のメールと薫からのメールどちらを嬉しそうに見つめているのだろうか?

 携帯を手の中でもぞもぞと触り、僕はそんな事を考えていた。

『もしもし?』

 携帯から、突然声が聞こえ、僕はギョッとする。その声に僕は慌てて携帯を耳にする

「もしもし?!」

『先輩?』

 月ちゃんの声だ。

「え? 月ちゃん、どうして?」

 月ちゃんの、フフという声が聞こえる。

『先輩が電話かけてきたんじゃないですか!』

 携帯をいじくっているうちに、うっかり通話を押してしまったようだ。

「ごめん、携帯触ってて、うっかりかけてしまったみたい」

 クスクスという月ちゃんの笑い声がする。

『明けましておめでとうございます。先輩』

 月ちゃんの柔らかい声が、響く。文字の言葉よりも僕の心に、大きく。

「明けましておめでとう……今年もよろしくね」

 携帯から息をのむかのような気配がする。僕は月ちゃんの様子を伺う為に受話器に耳を近づける。

『はい!』

 すると、元気な大きい声が聞こえてきて一瞬ビックリする。

『あ、先輩?』

 思わず僕も、声を上げてしまっていたのだろうか? 月ちゃんの心配そうな声がする。

「いや、何でもない。でも月ちゃんの元気そうな声きけて、なんか元気でたよ」

 フフフという笑い声。

『私もです。先輩とこうして話せて、今年は何か凄く良い年になりそうな気になりました』

 僕はその言葉に笑ってしまう。その言葉がなんか嬉しかったから。

「月ちゃんは、今年は何かやりたい事あるの? 抱負とか」

 受話器の向こうから『うーん』という声が聞こえる。

『現状維持? かな?』

「それ、抱負ではないよ」

 僕は思わずつっこむ。月ちゃんは『そうですね』と笑う。

『先輩は?』

 逆に聞かれて、今度は僕が悩んでしまう。

「現状維持! といいたい所だけど、受験だから頑張らないといけないね」

 そう言いながら思わず溜息をついてしまう。電話の向こうで何故か月ちゃんの溜息も聞こえる。

『大変ですね…………。でも私、応援していますから!』

「ありがとう」

『初詣も、先輩が志望校へ行けるようにお願いしないと』

 惚けたその言葉にククっと笑ってしまう。

「いやいや、実際試験は再来年だし。大変なのは山本さん達だよ」

『流石に、早すぎますか! そんなに先の事願われても神様も困りますよね』

 二人でフフフフと笑ってしまう。

「それにさ、初詣は、僕の事じゃなくて月ちゃんのお願いをして欲しいよ」

 『ん』という声が電話から聞こえる。

『初詣、楽しみにしています』

 初詣が楽しみって、考えてむたらオカシイ言葉だけど僕は頷いていた。

「僕も楽しみ」

 二人でそのまま、他愛無いしゃべりを楽しみ、僕らは『お休み』の挨拶をして眠りにつく。電話を受ける前に感じていたイライラは月ちゃんとの会話でスッカリなくなっていて、僕は幸せな気持ちで夢の世界へと入っていった。


ニューイヤーズ・イブ(New Year's Eve)

118分 2011年アメリカ

監督:ゲイリー・マーシャル

脚本:キャサリン・ファゲイト

キャスト:ハル・ベリー、

ジェシカ・ビール、

ジョン・ボン・ジョビ、

アビゲイル・ブレスリン、

クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、

ロバート・デ・ニーロ、

ジョシュ・デュアメル、

ザック・エフロン

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