終夜 夜になったふたり
ふたりを見つけたのは、H大学の山岳部だった。その新入生がたまたまルートから外れなかったら、ふたりは未だに見つかっていなかったかもしれない。お手柄ではあったが、先輩やOBの言うことを守らなかった彼は、後日、山岳部を除籍となった。
連絡が取れない――女の両親が捜索願を出したのは、H大学の山岳部が入山する前日のことだった。
上京したきりの娘にいい加減業を煮やした父親が「この際なにも知らせずに行くぞ」と、妻とマンションを訪れたとき、部屋には鍵がかかっていた。
どこか出かけているのだろう。娘の携帯に電話をかけた。出なかった。電源が切られている。少し苛立った。なら、と旦那のほうに電話をかけた。やはり出なかった。こちらも電源が切られている。土曜日の二時半。休日出勤もそう珍しくないと聞いてはいたが、ふたりとも出ないのはどうもおかしい。帰省を延ばし延ばしにされていたのもあって胸騒ぎを覚えた両親は、管理会社に連絡して部屋を開けてもらった。
まず目に飛び込んで来たのは白。部屋中がペンキで真っ白に塗られていた。壁だけでなく床も天井も(家具までも!)執拗なまでの白。父親は言葉を失い、母親は気を失いそうになった。
両親は、娘夫婦が寝室を別々にしていたことを、このとき初めて知った。ふたつのベッドがそれぞれの部屋にあった。ただ、その寝室の壁が――最近やったのだろう――鈍器らしきもので大きくぶち抜かれていた。
「夜中になにやってんのかと思いましたよ」
隣の学生は眠たげに無精髭を掻いていた。
「てっきり新婚さんのハイキングかと……」
麓で弁当屋を営む老夫婦は、警察の話に驚き、「まだ若いのに……」と無念そうに言った。
「写真? 撮ってるわけねーだろ! 不謹慎つーか絶対呪われるわ!」
ふたりを見つけた学生は、警察から解放されると同級生から質問攻めにあった。
「生活が大変だったんだって……でも、なんだろう……」
飲み放題の九十分が終わったあと、彼は馴染みのバーで、ひとり酔い潰れるまで飲み、追い出されてからは、駅のホームで眠った。
そりゃもう、ひどいなんてもんじゃなかったよ。
なのに、顔だけは綺麗に残っていてさ。口元がこう、笑ってるんだよ、ふたりとも。
それを見てさ、俺ちょっとだけ泣いたんだ。




