05.名探偵パンツの事件簿〜消えたハンカチの行方〜
教室に残っているのは、俺と氷室だけだった。
窓の外をボーッと眺める。
もう夕方だ。
差し込む光が、机の上を斜めに切っている。
そこに、鳥が窓の外を横切った。
パンパンッ!
担任が手を叩く音が教室に広がる。
「よし、二人ともいるな」
教卓にプリントの束を置く。
「悪い、会議あるから先に行く」
「これ、一人三ページでまとめとけ。混ざってるから気をつけろ」
「まあ、お前らなら大丈夫だろ」
そう言って、担任は教室を出ていった。
――ガラガラ。
ドアが閉まる。
静かになる。
氷室がすぐに動いた。
「じゃあやるわよ」
束を持ち上げる。
「……先に数えるわ」
二つに分ける。
「あんたはこっち」
「了解」
一枚ずつ確認していく。
紙をめくる音が続く。
途中で一度、束を揃える。
もう一度、数える。
氷室がちらりとこちらを見る。
「……ちゃんとやってるわね」
「俺を何だと思ってる」
「変態」
「違う」
「何が違うのよ」
「パンツが好きなだけだ」
「それを変態って言うのよ!!」
氷室が小さく息を吐く。
やがて、手が止まる。
「……全部で、百二枚」
「――氷室」
「何」
「一人分足りないぞ」
氷室が顔を上げる。
「……は?」
「なんでそんなこと分かるのよ」
「両面が十七、片面が六十八」
「……え?」
「二ページと一ページで合計百二」
「一人三ページ」
「三十四人分」
「……」
氷室の視線がプリントに落ちる。
指で軽く弾く。
「……両面が二、片面が一で……」
小さく呟く。
「三で割って……三十四……」
顔を上げる。
「……ほんとだ」
「クラスは三十五」
「一人分足りない」
氷室の手が止まる。
「……はや」
「パンツ算だ」
「は?」
「パンツ算だ」
「そんな計算ないわよ!!」
「それを言うなら、つるかめ算でしょ!!」
氷室が軽く頭を押さえる。
「とにかく」
「足りないなら、取りに行くしかないわね」
束を机に揃えて置いた。
「職員室、行くわよ」
「了解」
教室を出る。
廊下は静かだった。
窓から差し込む光が、床に長く伸びている。
足音だけが響く。
そのとき。
ピコン。
頭の中で音が鳴った。
『パンツイベント発生予測』
来た。
足が止まる。
氷室が振り返る。
「……何」
視線を上げる。
廊下の先に、人影が見えた。
女子が一人、立ち止まっている。
何かを探すように、足元を見ている。
「……ふむ」
一歩、踏み出す。
「面倒だが」
もう一歩。
「これもパンツのため、か」
「何言ってるのよ」
そのまま歩み寄る。
「どうした」
女子が顔を上げる。
少し困ったような表情だった。
「さっき、ここに置いたんですけど……」
女子が手すりの上を見る。
「ハンカチが……なくて」
氷室が眉をひそめる。
「落としたんじゃない?」
「それが、下も見たんですけど……」
女子が足元を指す。
確かに、何もない。
氷室が少し身をかがめて確認する。
「……ないわね」
廊下の窓が、少しだけ開いている。
カーテンがわずかに揺れていた。
「……ふむ」
開いた窓。
窓際近くの手すり。
高さ。
「軽い布」
氷室が顔を上げる。
「は?」
「静かに消えた」
女子が不安そうにこちらを見る。
「人じゃない」
氷室の眉がさらに寄る。
「ちょっと、何言って――」
「鳥だ」
「は?」
氷室と女子の声が重なる。
「……何でそんなことわかるのよ」
視線が、窓へ向く。
「風の仕業じゃない?」
「違う」
「それはな」
女子も身を乗り出す。
「そ、それは……?」
二人の視線が集まる。
「さっき、咥えて飛んでいくのを見た」
「えー!!」
歩き出す。
「ちょっと、どこ行くのよ」
そのまま非常口へ向かう。
扉を押して外に出る。
夕方の風が思ったより強く、制服の裾が揺れた。
足を止め、視線を上げる。
校舎の軒下に、小さな影が見えた。
布が引っかかっている。
――さっきのハンカチだ。
「あれ、届かないわね……」
氷室が見上げる。
軒下は思ったより高い。
手を伸ばしても、指先がかすりもしない。
「脚立、ないの?」
「あるわけないでしょ」
「……仕方ない」
その場でしゃがみ込む。
「乗れ」
「は?」
「肩車だ」
氷室が一歩下がる。
「却下」
「即答か」
「当たり前でしょ!!」
「お前な。困ってる人がいるんだぞ?」
「パンツが見たいだけでしょ!!」
近くに落ちていた細い枝を拾う。
それを伸ばして、引っかける。
少し引く。
布が外れ、ふわりと落ちた。
女子が慌てて受け取る。
「あ、ありがとうございます!」
ハンカチを握りしめたまま、深く頭を下げる。
そのまま、氷室の方にも向き直る。
もう一度、大きくお辞儀をする。
その瞬間。
視線が落ちる。
――白。
「……よし」
「何がよしよ!!」
氷室が呆れた顔でこちらを見る。
「最初からそれでいいでしょ……」
「効率が悪い」
「は?」
「肩車の方が、成功率は高い」
「何の成功率よ!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
パンツを追いながら、今日も無事に一件解決しました。
この先もこんな感じでいろいろ起きていきます。
よければまた読んでいただけると嬉しいです。




