ショッピングモール~涼ちゃんとはるちゃん~
姉が12月に始まるバーゲンの下見がしたいということで、涼介は姉とショッピングモールに来ていた。茶色のプリーツスートと白のニットとベージュのカーディガンの組み合わせで、今日も姉によるコーデである。
「このスカートかわいい、ウェストがゴムだが涼ちゃんも着られるね。バーゲンで安くなったら買おうかな。」
下見を楽しんでいる姉に、
「お姉ちゃん、来年から男に戻ってもいい?」
と聞いてみた。
「男に戻ってもいいけど、たまにはこうやって買い物には付き合ってね。髪切ってもウィッグすればいいから。」
「たまにならいいけど。」
涼介は3年になったら髪を切って男に戻り、その日の気分でウィッグをつけてスカートで登校するのも楽しいかなとも思った。
女子高生生活も半年を超え、姉が入学前に語っていた、女子高生にならないと味わえない楽しさというのも十分に堪能できた。楽しいがゆえに完全に手放すのも惜しいと思い悩んでいた。男子と女子、二者択一で選ばなくても、男子と女子との間を行ったり来たりする生活も良いような気がした。
女子がその日の気分でスラックスとスカートで登校しているのと同じように、男子もその日の気分で選べる白石高校のシステムに感謝した。
姉の下見に付き合っている途中、同じクラスの本田さんを見つけた。隣にいる女の子と一緒に買い物に来ているみたいだ。近寄って声を本田さんにかける、
「本田さん、奇遇だね。本田さんもバーゲンの下見?」
「いや、この子1年生の下田さん。ハクジョ男子だけど、あまりご家族が協力的ではないみたいなので、一緒に服を見にきたところ。」
紹介された下田さんをみると、恥ずかしそうにお辞儀した。涼介は姉から女の子になるための教育をうけたが、身内の女性の協力がないと厳しいだろうなと想像した。
そのあと、モール内を歩いているとき制服姿のはるちゃんがみえたので、近づいてはるちゃんに声をかける。
「はるちゃん、部活の帰り?」
「涼ちゃん、今日はお姉ちゃんと買い物なの?」
部活で疲れているのか、いつもより元気がない返事が返ってきた。
「いつも弟がお世話になっています。」
姉がはるちゃんに挨拶する。
「涼ちゃん、お姉ちゃんに似てるね。」
女の子になる前はあまり姉と似てるとは言われなかったが、女の子になってからは同性にみえることもあって、姉の友達からも似てるといわれるようになった。身内ながらキレイと思う姉に似ていると言われうれしい。
はるかは部活後にお弁当をバレー部のみんなと食べた後、地元の書店では品ぞろえがいまいちなので、参考書を買うためにショッピングモール内にある大型書店にいくことにした。
本屋に入り参考書コーナーにたどり着いたとき、蒼ちゃんと理恵が仲良く本を選んでいるのが見えた。少し距離はあったが蒼ちゃんが楽しそうにしている感じが伝わる。理恵が顔をあげたときに、目があった。思わず目をそらして本屋から逃げるように出てしまう。ここで笑顔で近づいていく選択肢もあったとは思うが、現実を直視するにはまだ心の整理ができていない。
理恵から蒼ちゃんと付き合うことになったことを告げられた時のことを思い出す。
理恵からそのことを聞いた時、スカートを履いて女の子になりたいといっている男子と付き合うことに躊躇している私よりも、かわいい女の子になりたい蒼ちゃんを受け入れる理恵の方が、蒼ちゃんにとっても良いことだと思った。頭の中ではそう思ったので、理恵に「おめでとう。」といったが、心の整理はついていない。
蒼ちゃんがスカート履いていようがいまいが、蒼ちゃんであることには変わりない。世間の判断基準にとらわれて、蒼ちゃんのことが好きという根本的なことを忘れてしまっていた。今になってみれば、蒼ちゃんをそのまま受け入れていればよかったと思う。もっと早く蒼ちゃんのことを受け入れていたら、今日みたいに二人で楽しく過ごせたのかなと思うと、判断の遅かった自分が嫌になる。
もう帰ろうとモールを出ようとしたときに、声をかけられて振り返ると涼ちゃんだった。隣に立っている女性はお姉ちゃんだろうか、
「はるちゃん、部活の帰り?」
と聞かれたの、
「涼ちゃん、今日はお姉ちゃんと買い物なの?」
できるだけいつもの感じで答えたが、涼ちゃんの心配そうな表情をみると落ち込んでいる様子は隠しきれていないようだ。部活で疲れたからとごまかしたが、信じてもらえたかはわからない。
仲良く買い物している姉妹のような涼ちゃんとお姉ちゃんを見ていると、同じように姉妹のように仲良くしていた蒼ちゃんと理恵が思い出されて、さらにつらい気持ちになってしまった。




