ボスのところへ
「さて、と。もうそろそろエリアボス出現場所に近いから今のうちに準備しとこうな」
「そーそー。HPはもちろんMPとかもねー。チョッキとウミは大丈夫そう?」
「HPはチョッキのポーションのおかげで問題ないけど、MPポーションは限りがあるからできればちょっとだけ回復しときたいかな」
「あ、うん。私も。皆お腹は減ってない?大丈夫?あ、でもここで料理はさすがに危ないかな……合流する前に作ったのでよければこれ……揚げ焼き肉と、なんちゃってスープとカチカチパン」
「なんちゃってすーぷ」
「カチカチパンって……?うわ、ほんとだ、かった!パンにあるまじきじゃん!」
「スープにつけたら食べれるよ……一応」
「揚げ焼き肉は普通にうまいな」
きょとんとしたウミに、カチカチパンの堅さに笑ってイッチに軽く振りかぶるフリをするニーナ。それを気にせず早速もぐもぐと頬張って肉を食べるイッチ。
「にしてもチョッキちゃん、相変わらずのネーミングセンスだなぁ」
「イッチそれって褒め言葉じゃないですよね……?でもネーミングセンスというか……例えばですけど冷蔵庫にある食材で適当にありあわせで何かを作ったときとか、料理名なくないですか?それに近い気がします」
「あーそれはわかるかも。毎回料理名があるようなもの作らないもんね」
「それは確かに……炒めたもの、とか煮込んだもの、みたいな感じになること多いかもなぁ」
「ウミは料理とかするんですね。おにいも見習いなよ」
「うっせ、おまえだって実家住みだから基本的に親に作ってもらったもん食ってるだろ」
「私は作ろうと思えば作れるからいいんですー」
少しそっぽを向くニーナにカラカラと笑ってスープにさっと浸したパンを頬張るイッチ。仲のいい兄妹だなぁ。
すでに作ってあったものを全員に渡してさっと空腹を満たしていく。合流前に多めに作っておいてよかった。合流前に少し食べていたこともあって短い時間でも軽く瞑想してMPを回復させておいた。ニーナ達はきちんと購入して準備していたMPポーションを使って回復していた。
「さすがに一つぐらいは買って持っておいた方がいいと思うぞ」
「う……それはそう」
「まぁ今は値段も上がってるしなかなか買えないから次の街行かないと難しいかもだし」
「確かに……魔術師ギルドでも店売りの価格が普段より高騰してるって聞いたし実際初めに買ったときより値段が上がってたなぁ」
そんな風に緩い会話をしながらも、イッチ、ニーナ、その後ろにウミと私という形で足を進めていた私たちだったが、ガサガサッという音と共に突然目の前のイッチとニーナの姿が消えた。
「っ!?」
正確には横から来た何かに押されるようにしてその場から消えた、だ。
「イッチ、ニーナ!?」
「う、ウミ、なに、二人が……ボス?」
「……いや、ボスだったらわかりやすくエフェクトが見えるって言ってたし、違うと思……!?」
「っ!?」
ウミの言葉を遮るように今度は私とウミ、両方が何かに後ろから強い衝撃で押し出されるように吹き飛ばされた。二人とも身長や体格のこともあって簡単に地面から足は離れた。地面に突っ伏しかけたのをどちらも手をついて顔を上げる。
何があったかと振り向くまもなく、目の前に大きなオオカミが姿を現していた。
「ー……これは……」
「……エリア、ボス……」
草原で相手にしていたオオカミなど比較にならないほどの大きさの、硬い毛並みのオオカミがそこにいた。イッチやニーナが消えた方向を見ても、少し離れた位置には地面からエフェクトと共に透明な、しかし向こう側は見えない不思議な壁に隔たれてどうなったのかもわからない。
「……二人とも、……名前がグレーアウトしてる……」
「それって……?」
「ログアウトや死んだりしたわけじゃない。でも、パーティーからは一時的にカウントされない状態だ……」
「?解除されたってこと?」
「ううん。ボス壁で区切られて二人とはぐれたみたいな感じで思えばいいというか……」
視線は狼に向けたまま、ウミが私にもわかるように言葉を選んでいるのがわかる。
「それって要は……」
「そう。今から僕たちは二人でこいつを倒さないといけないってこと」
突然の何かによって、予定していた四人ではなく、私とウミの二人だけで、首が痛くなりそうな大きさのそいつと対峙することになったのだった。




