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☆12月10日(土)

★【yellow-layer】


 あの子の好物は自分の好物でもあります。

 幼い頃から一緒にいたのですから、あの子の気持ちも自然とわかるようになりました。

 だから気付いてしまったのです。あの子は好きなものを好きだと言えない性格だということを。

 まったく困ったものです。

 そしてもう一人。

 これまた困った人もいるので、あたしはさらに困ってしまいました。



○○○


☆12月10日(土)



 ドアを開けるとそこには双子の一人の姿があった。

「先輩、おはようございます。朝っぱらから申し訳ないですが、どうしても火急の用件がありまして、午前中の貴重な睡眠時間頂きたく参上いたしました。寝ぼけた頭で理解するのには時間がかかるとは思いますが、とりあえず部屋に上がらせていただけないでしょうか? こちらとしてもこの寒い冬空の中をせっせと歩いてきた関係上、心も身体も冷え切っておりまして、このままですと大聖堂の中に飾られたルーベンスの絵に見守られながら、天使に誘われて」

「ノゾミか?」

 自信がなかったわけではないが、朝っぱらからこの妙なテンションで喋る人間を特定するのに、寝起きの頭では少々時間がかかってしまっただけである。

「はい。よくわかりましたね。それはそれはとても光栄で」

 それ以上言葉を続ける前にマサキはドアを大きく開けて彼女を中へと促す。

「まあ、とにかく入ってくれ」

「お邪魔しまーす。そうそう、何かお土産を持ってくるべきでしたね。あたしも寝起きなんでやっぱり頭が回っていないのかもしれません。なんてったって……」

「メグミはどうした?」

「メグミちゃんならまだ寝てます。早起きはあたしの専売特許ですから。専売特許といえば、8月14日の」

「とりあえず椅子に座って落ち着いてくれ。そうだ、今紅茶でも入れる」

 ノゾミをリビングのソファに座らせると、彼女を一人残しマサキはキッチンへと移動する。

 数分後、マグカップを二つ持ってリビングに戻ると彼女は嬉しそうにマサキに笑いかけ、大きな口を開いて何か言葉を発せようとしていた。

「ストップ。まだ寝起きなんだ。ほどほどにしてくれないか」

 彼女のマシンガントークを受け止めるのが苦なわけではない。回転の鈍い頭では、言葉の端端に込められた重要な事柄を聞き逃してしまう可能性があるからだ。

「そうですね。時間がないのでした。とてもとても大事で、すぐに先輩にお伝えしなければ大変な事になってしまいそうです。さっきあたしが言っていた早起きが専売特許というのも実は大嘘で、今日はめずらしく早起きしてしまったので思い立ったが吉日ってな感じで参上したってわけです。っていうか、あたしがこんなに苦労しているのも先輩のせいなんですからね。まったく、手間がかかるというか、世話が焼けるというか、二層書き込みで焼けるというか。先輩、DLのDはデュアルですからね」

 後半の訳のわからん台詞は切り捨てた方が良さそうだった。

「で? 俺が何かしでかしたってのか?」

 寝ぼけた頭をフル回転させながら、自分が彼女たちに対して何か迷惑をかけたのだろうかと考える。

「そうです。もとはといえば先輩が鈍感すぎるのが原因なんです。こんなに近くにいるのにどうしてメグミちゃんの想いに気付いてあげられないのですか? どうして「おまえなんかには興味がない」って顔しながら、あの子と普通に喋っていられるんですか?」

「ちょっと待て」

 朝っぱらから何事かと思いきや、恋愛がらみの相談とは。いや、ノゾミの事だから、相談というよりは要求なのだろう。もっと遠回しに言ってくると予想していただけに、ストレート過ぎるその言葉には心の動揺は隠しきれない。

「待ちません。鈍感な人にはわかりやすく言ってあげるに限ります。メグミちゃんは先輩の事が大好きなんです。こんな事、あたしが伝えるってのも違うのかもしれませんが、見ていてほんともどかしいんですって。だってメグミちゃん、絶対その事を伝えようとしませんからね。見ているだけで満足なんて今どきありえないですよ。洗濯するならアリエールだってのに」

 紅茶の中にブランデーでもたっぷりぶちこめばよかったと、マサキは後悔する。そうすればもう少し口当たりの柔らかい口調にトーンダウンしただろう。

「……」

 彼は少しだけ頭痛がしてきたような気がする。

「今度のクリスマス。あたしがいっさいがっさいセッティングしてあげますから、先輩はそこで思う存分メグミちゃんの想いに応えてやってください。抱きしめてやってください。もう、押し倒したってあたしが許す。あの子もそれを待ってます。ああ、なんでメグミちゃんはこんなどうしようもない男を好きになったのでしょう。ああ神よ許したまえ。仏よ見逃したまえ」

 ノゾミはくるくると表情を変えながらありったけの心情をぶちまけた。



 そんなノゾミの顔を眺めながらマサキは別の事を考える。

 自分は彼女に叱責されるほど鈍感な人間ではない。メグミの想いくらい気付いていたつもりだ。だからこそ、必要以上に踏み込まないように気をつけてたのだから。

 三人でいるのはとても楽しい。優柔不断だと言われようが、今のマサキにはどちらかを選ぶことなんてできないだろう。


 永遠なんて望めない。日常は砂のように流れていき、そしてそれは突然終わりを告げる。



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