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魔王を殺した王子、私を救った恋人  作者: 凪塩 未来


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第6話 :逃避行の夜、二人だけの秘密

第6話「逃避行の夜、二人だけの秘密」をお届けします!

古井戸の裏手から城を抜け出したミリー。追っ手の気配が迫る闇夜の中で、彼女がたどり着いた場所で待っていたのは――。つかの間の静寂の中で交わされる、ロイの魂との切なすぎる邂逅を描きます。


それでは、第6話のスタートです。

冷たい夜風が、アストレア城の石造りの回廊を駆け抜ける。

中庭の古井戸の裏手に設けられた隠し扉は、忠実な騎士の計らいによって静かに開きかけていた。衛兵たちの巡回が終わったその一瞬の隙間を縫って、ミリーは忍者のように身を滑り込ませた。


「……っ、はぁ、はぁ……」


息を潜め、暗い地下水路へと続く階段を駆け下りる。

胸元で揺れる『真実の眼』のペンダントが、まるで冷たい氷のように肌に張り付いていた。周囲の空気が急速に冷えていく。地下深くへと進むにつれ、頭上にそびえる城全体の地盤から、不気味な魔力のうねりが這い上がってくるのが分かった。


魔王復活の儀式が行われる「大聖堂跡地」は、すぐそこだ。

しかし、その手前の古い礼拝堂跡までたどり着いたとき、ミリーの足がピタリと止まった。


そこに、影があった。


月明かりの届かない闇の中、古びた石の祭壇の前に、一人の男が立っていた。

黄金の装飾が施された上着の裾が、冷たい風に揺れている。振り返ったその男の瞳は、暗闇の中で妖しく、痛々しいほど鮮烈な紫色に光り輝いていた。


エンペラー将軍――いや。


「……遅かったじゃないか、ミリー」


その声は、将軍のものではなかった。

耳に心地よく響く、聞き慣れた、けれど今は酷く掠れた――ロイの声だった。


「……ロイ……っ!?」


ミリーは息を呑み、思わず一歩踏み出した。

しかし、目の前にいるのは本当にロイなのだろうか。将軍の罠ではないのか。警戒の色を浮かべるミリーに対し、男は苦しげに顔を歪め、その場に崩れ落ちるように膝をついた。


「来るな……と言ったはずだ、ミリー……。ここは……危険すぎる……!」


ロイは自分の右手で左腕を必死に押さえつけていた。

その肉体は、将軍の強大な意志と、必死にそれを拒絶するロイ自身の魂とのせめぎ合いによって、激しく痙攣している。紫色の光が目に浮かんだかと思えば、次の瞬間には深みのある美しい碧色が激しく明滅した。


「私が……意識を保っていられるのは、ほんのわずかな間だ……。将軍が気づく前に……早くここから離れろ……!」


「そんなことできるわけないわ!」


涙をこらえきれず、ミリーは駆け寄り、その冷え切った両手をしっかりと握りしめた。

ペンダントの聖なる光が、彼の肉体に宿る邪悪な気配をわずかに和らげ、ロイの苦痛を和らげるように淡い蒼光を投げかける。


「私はあなたを助けに来たの。一人で戦わせたりしないわ、ロイ」


「……バカだな……君は……」


ロイは苦しそうに、けれど愛おしげに微笑んだ。

その笑顔は、かつて庭園で小鳥を見つめていたときと同じ、嘘偽りのない優しさに満ちていた。あの戦場へ旅立つ前に、彼と交わした温もりそのものだった。


「……私の魂は、もう長くはないかもしれない。将軍は……この肉体を完全に奪い、魔王を復活させようとしている。もし私が完全に飲み込まれそうになったら……その時は……」


「そんなこと言わないで!」ミリーの声音が震え、大粒の涙が頬を伝い落ちた。「あなたを失うくらいなら、私は……」


「聞いてくれ、ミリー」


ロイはぐっと力を込め、ミリーの肩をしっかりと掴んだ。その瞳の奥には、すべてを覚悟した強い光が宿っていた。

「私の身体が完全に将軍に乗っ取られたとき、唯一奴をこの世から消し去る方法がある。それは、この肉体ごと、私の命を絶つことだ。私が死ねば、寄生する将軍も道連れに消滅する……だから……」


「――そんなの、できないわ……! あなたを自分の手で殺すなんて、そんなのできるわけがない!」


「できるさ。君なら……君だけは、私に本当の人間としての終わりをくれることができる」


ロイは優しく、しかし確固たる意志を込めて首を振った。

「私はもう、魔王を倒した英雄なんかじゃない。ただの、君を愛する男だ。だからこそ、世界を滅ぼすための怪物にはさせないでくれ……頼む、ミリー」


その言葉の終わりと共に、ロイの身体がガクリと大きく揺らいだ。

瞳の中で激しく明滅していた碧色が、急速に押し潰されていく。禍々しい紫の光が、彼の目を完全に支配し始めた。


「……っ……ほう、ここで愛の語らいとはな……感動的だな、お嬢さん」


ロイの口から発せられたのは、再びあの二重に重なり合った冷酷な悪魔の声だった。

将軍の意識が、完全に表層へと戻ってきたのだ。


「ロイ……っ!」


「虫酸が走るわ! もう、その茶番も終わりだ!」


将軍が容赦なく手を振り上げ、ミリーを遠ざけようと冷気を纏った衝撃波を放った。

しかし、その直前、ロイの残された最後の意志が、自らの腕を激しく掴んでその軌道をわずかに逸らせた。


「ぐっ……! おのれ、まだ動くかこの肉体は……!」


「ミリー……走れ……!」


ロイの声が闇夜に響いた瞬間、将軍の完全な支配が彼の意識を完全に押し潰した。

もはや猶予はない。ミリーは涙を拭い、振り返ることなく、暗い地下回廊の奥へと走り出した。

第6話「逃避行の夜、二人だけの秘密」、いかがでしたでしょうか!

束の間の邂逅を果たしたミリーとロイ。お互いへの変わらぬ愛を確認し合う二人でしたが、将軍の支配は刻一刻と完全なものへと近づいていきます。そしてロイが告げた「もしもの時の選択」とは――。


次回、第7話「満月の儀式、開かれた扉」では、ついに満月の夜が訪れ、古城の広間で魔王復活の儀式が始まります。絶体絶命のクライマックスへ向けて、物語は急加速します!


ぜひ次話もお楽しみに!ブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!

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