第12話 異世界の賢者 初めてのお買い物に行く
「話聞かせてもらったわ。私に任せて!」
と田辺美香がノリノリで玄関に現れてきた。
今日は、美人賢者モードになったネコマサが、東京で身につける服を買いに行くために、美香とともにこれから車で1時間ばかし先のショッピングモールへとみんなで買い物に行くことになっているのだ。
光正が、前回会ったコスプレの子用のお出かけ服を買いたいのだが、どんな店のどういうのがいいのだろうか。
とメールで相談したところ。
「なら、私が連れていくわ!」
と、そんな話になり今日に至る。本当は店とメーカーとか聞いてからネットショップで買おうと思っていたのに。
あのゲーム関連メールのやり取りのあと、ネコマサが「実は賢者モードに数日間はなれるだけの理力が溜まっている」ということを話してくれた。
「ゲーム制作の、一番キツイ場面で私が人型になって一気に仕上げてしまえば、サクッとゲームが完成するだろうと思って温存していたのだ。猫の姿だとフリーズしてばかりでなかなか完成させられなくなりそうだから」
と言ってくる。一度その状況になってから、すぐに対策を行いコントロールできるようにしてしまうところが「さすが賢者様だ」と光正は感心してしまったが。
なるほど、地獄の進行状況管理を人型になって乗り切れば、確かに以前のネコ状態でゲーム完成させた時より質も良いものができそうだな。
ネコマサも色々考えているのだな。と色々感心したりする光正であったが。
「2、3日は大丈夫なのか?」
「特に理力を使わないなら、10日くらいは可能だ」
「そんなに維持できるほど、エネルギー溜め込んでいたのか」
「それだけ認識され続けてるということでもあるが、どうもゲーム以外でも私の姿が認識され始めている気もする」
これは、同人誌のようなものに取り上げられているのではないか。
と思いちょっとネット見てみると、YouTubeなどでゲーム関連の記事で取り上げられているのを見かけた。
ちょっとえっちなイラストは出てるが、まだエロい同人誌は出てないようでホッとする。
そういうの禁止って今度ゲームの解説に書いとかないといけないな。
なるほど、ゲーム以外でも認識されるところが増えるとその姿が固定されやすくなるのか。
その後、ネコマサは東京に一緒に行きたいという話をしてきて。
「そんなに東京に行きたいのか?」
「うむ、この国の首都には興味がある、飛行機も興味がある。そして、ゲームを大規模に作っている会社にはもっと興味がある。色々と現場で話を聞いてみたい」
どうやら、メールのやり取りだけでだいぶ相手に興味を持ったらしい。
さすがに一流は少し会話を交わせば分かり合えるものなのだろう。と光正はさすがネコマサ、と感心しているばかり。
「まぁ、俺だけ行っても話にならんから、一緒に行く方がこの先考えるといいのかもな」
ということで、ネコマサも東京に同行することが決まったのであるが。
光正がプロデューサーというか営業のようなことをしてることにして。
制作を全てネコマサが行っているという話をして、二人でお邪魔することも先に決めていた。
そこまで設定して、あとは服を適当に購入して、とか思っていたもので。
一緒に服の買い物までは想定してなかったもので、ネコマサもちょっと戸惑っている。
光正としては「可愛いネコマサ賢者に似合う服を着させてあげたい」「東京の人々にもネコマサ賢者の可愛い姿を見せつけてあげたい」という飼い主が自分の猫を人に見せて「可愛い」と言ってもらいたいような感覚を持ってしまっていて、美香が可愛い服を選んであげる、という言葉に乗ってしまったのだ。
異世界の賢者、29歳の喪女を見る目ではないのであった。
買い物は荷物も乗るのでWRXで行く。
美香もノリノリで、後部座席で二人並んで色々と話をしながら移動したのだが。
美香と異世界の賢者は女子トークとか大丈夫かいな。
と光正は心配していたが、なんとなく年齢が近いせいかお互い親近感を得たようで、食べ物の話から好きな小物の話まで盛り上がっていたようで。
ネコマサがザリガニの小物を集めていることを聞くと、すぐに店をスマホで調べて。モールに入っているザリガニの小物とか売られてそうな店をピックアップして一緒に行こうと誘ってたりする。
服についても、色々好みを言い合っていたが。
ネコマサは先に、自分が着心地が良さそうな服装、をネットで探していくつかピックアップしていた。
光正がみた感じだと、無印という感じ。
異世界でもシンプルなものを着ていたのかな、と思っていたが。ネコマサにとっては無印の服ですら「このような上質な見かけのものは地元にはない」と、庶民が身につける中では高級な服だと思って選んでいたりする。
光正が外出する時に身につけている服が、無印ものばかりだったせいもある。
成人男性や女性が外出するときに、身なりを整えるのに相応しい店として身につけるのが無印の衣類なのだと思っていたのだ。
ネコマサのいた世界では、身分によって服装が異なるのでそういう認識になってしまったのはあるが。
光正はGウーでもホニクロでもなく無印の方が体型に合うからと、それだけの理由で着てるだけで、特に意味はない。
「ガーナちゃん、そんなおばさんみたいな服選んじゃダメよ。私がしっかり似合うの選んであげるから」
と言ってネコマサが購入しようと考えていた服を全て否定していた。
ちなみに、ネコマサ、あるいは賢者ガッハッスナと呼ばせるわけにもいかないので、異世界で呼ばれてていたという愛称のガーナ呼びで今日は過ごすことにしている。
駐車場の時点で大量の車を見て驚き、屋上駐車場で驚き。
駐車場からのエスカレーターで躊躇し、店内に入った瞬間停止してしまった。
上を見上げ、左右を見渡し、
入ってくる様々な音楽、人の声、そして多くの老若男女が楽しそうに歩き回る景色。
「どうしたの?」
美香が手を取って尋ねると、我に返って
「初めてこういうところに来たから・・・」
とネコマサが言うと、笑いながら美香はその手を引っ張って、目的のお店へと連れていく。
これが若い娘とかだったら微笑ましいのだが、アラサーの二人だと、少しな。
とか余計なことをちらっと光正が考えていたが、口に出してないので誰も気づいてはいない。
ネコマサは当然のように注目を浴びていた。
人形のような顔立ちで、髪が緩く巻いてて長く青い色だったりするので、子供たちからは「プリキアだ!」とか日曜の午前中にある女児ヒーローものの名前を言われたりしてる。
リアルだとこんな感じなんやろな。
と後ろから少し距離を置いて光正はついていくが、これは麗しい女子の友情を眺めて尊いエネルギーを感じたいから、とかそれもあるが。
ネコマサが多くの人から「好ましく」みられている様子を見て、なんとなく自慢のペットが褒め称えられている感じがして嬉しい、というのもあったりする。
途中の店などでも興味深そうに覗き込んだりしてるが、まずは目的地へ。
今回、ネコマサの服装は白のブラウスに紺色のロングスカートという、美香からすると「地味」「おばさんっぽい」という服装なのだが。
中身が段違いなので、シンプルが故に引き立てているところもある。
美香は、可愛いものが好きなのだった。
ガーナちゃんには絶対こういう服装をさせたい!
というものがあり、それが用意できそうな店に連れていく。そこは少し可愛い系の服が揃っている店で、アラサー女子の入るところではなさそうなー
と光正は思ったが、まあそこは任せることにしよう。
光正は店の中まで入るとおっさん不審者っぽく見られそうなので、店の外の、おとうさん待機ベンチに座ってスマホで東京に行く時の宿とか色々検索することにしておいた。
別部屋にしておくと何かあった時に対応できないので。
部屋はツインでとるかなー
どうせ初めて東京行くのだし、お金はネコマサの稼ぎがあるから、部屋が広くていいところ泊まるかなー
とか勝手にいいホテルのいい部屋、広い部屋を探したりして。
しかし、ネコマサの目的を達成するのであれば。
大手のゲーム会社に入って整った環境で作った方がいいに決まっている。
大雨が降ったら停電する可能性とか考えて仕事を止めたり、部屋の構造上、重たいサーバーをやたら増やして部屋に置くことができなかったり。
バックアップもギリギリの容量を回してなんとか取っていたりと、個人でゲームを作るとなると様々な、環境の制限があるのでその環境整備に時間と労力を費やしてしまうことも多い。
ネコマサは自分でなんとかするタイプなので全てなんとかしてきたが。
この先、一千万人プレイヤーのゲームを目指すとなると、環境はでかい会社の方が、確実なのではあるが。
販売経路についても、現在の手法だとすぐ頭打ちになるであろうし。
では、ネコマサがそうなったときに自分はどうするか。
東京に住むことになるのだろうか。
いや、自分に東京住まいは無理だろうな。ネコマサだけを東京に行かせるのもどうなのだろうか。
しかし、自分はよく考えてみると、ネコマサのための初期環境整備をしてあげただけで、あとはほぼネコマサが一人でやっている。
俺の役割が、ゲーム会社に変わってしまうだけなら、むしろその方がいいのだろうか?
なんとなく、ネコマサ一人東京行きについても考えてしまうが。
そもそも、本当に自分たちだけでゲーム開発を続けさせてくれるのだろうか?
自分がサラリーマン経験者だから思うのだが。
その上司がいくら素晴らしい人であっても、会社全体の「方向性」が変わった時には当初の予定も約束も、全部消えてしまうことはよくあることなのだ。
今誘ってくれている人はいい人かもしれない、有能かもしれない。
しかし無能ほどちょっかい出してきたりするものだから、組織に入った場合に自分はネコマサの目的達成の手伝いを続けられるのだろうか。
久々の一人の時間は、いろいろなこを考えてしまう。
いかに毎日がネコマサに支配されているのか、自分の思考すらも占領されてしまっているのか、を思って苦笑いする。
そんなこんな思案してて1時間弱、時間が過ぎていった頃
「ジャーン!どう、いいと思わないですか?」
目の前に美香が現れ、その後ろからネコマサが少し恥ずかしげに姿を見せる。
白いオフショルダーのワンピースにつばの大きな白い帽子。
髪の毛と同じ青いリボンが巻いてあり、爽やかな色彩で整っている。
靴や靴下も色合いが合わせてあり、なんというか
「夏のお嬢様だな」
と光正は言葉を絞り出していた。
いい言い回しが思い浮かばなかったのであるが。
「少し肌が見える範囲が多くて恥ずかしいな」
と照れた様子のネコマサもいつもと雰囲気が違ってちょっとドキッとするぞ。
背後では、一緒に服を選んでいたのか店員さんたちも満足げな表情でこちらを見ている。
「で、その大量の紙袋は何」
「女の子の服が一着だけなわけないでしょう。夏用の服をいくつも買いましたよ」
と言って俺にレシートと領収書を渡してくる。
なんか、金額が思った10倍くらいかかってんですけど。
女性服は男のものより高いんだな。
レシート見るとちゃんと下着も何種類か買っているみたいで安心した。
やはり女性のことは女性に任せるべきであったな。
で、そのあとは余計に目立つようになってしまった。
ネコマサの清楚な美しさにさらに磨きがかかってしまい、フードコートにいても、その辺の雑貨屋で真剣な顔でザリガニグッズを選んでいても、全ての空間が「絵になる」ようになってしまったのだ。
これで東京行ったらもっと目を引いてしまわないか。
いや、それとも青い髪色とか都会は普通にあるいていそうだから、逆に目立たないか?
ネコマサが真剣にザリガニグッズコーナーで選び始めたので、美香は光正の隣にスッときて
「ねえ、ガーナちゃんに聞いたんですけど、東京ではゲーム会社の偉い人に会いに行くんですか?」
と聞いてくる。
「うーん、うちのゲームに興味持ったみたいで、それを自分とこで出さないかという話でね」
「・・・出すんですか?」
「わからない、とりあえず条件を聞いてから、それから判断しようと思ったんだ」
「なんでガーナちゃんも一緒に?」
「本人がつく・・・いや、本人もゲーム制作では重要な役割をしてて一緒にゲーム作っているんだよ。ほら、ネット繋がってると遠隔でもできるからさ。
うちきた時にPCが勝手に動いてたのもそれ」
「ふうん。で、正光さんは会社辞めちゃうんですか?」
「うーむ、まだ話が決まってないからなんとも言えない。
ネコ・・・ガーナの判断にもよる。もし東京に住んでゲーム作りたいとか言われたたら、俺も場合によっては東京に出ていくしかないかな〜とは思ってる」
「過保護なんですね」
「過保護というか、義務というか」
「専属税理士としては、色々と今後の方向性が大きく変わる時は教えてください。
契約書は今年分の確定申告までは一緒にやっていくことになっているんですから」
「そうだったっけ?」
「ちゃんと契約見てくださいよ」
などと店の外で話していると、ネコマサはザリガニの大きなぬいぐるみを抱えてこちらを見て笑いかけてくる。
美香はそのザリガニを見ながら「可愛い」とか言ってるが女子の感性はよくわからんな。
などと思いつつ。
ネコマサの最も良い選択を支持してあげねばな。
とみょうに保護者気分になってしまう光正であった。
その後は、映画まで見てしまうことになったが、ネコマサは映画の迫力に唖然として度肝を抜かれてたようだった。
内容は光る剣とか宇宙船とかが出てくる世界で、賞金稼ぎの親子が旅をしながら巨悪を退治していくような話だったりするのだが。
割と内容が普遍的でオーソドックスなものだったのでネコマサも面白がっていたようで。
「しかし、外部記憶領域を通せばリアルな体験ができるのに。あんな、投影しただけの映像を視覚と聴覚だけでここまで臨場感のある演出ができるとは。
足りないものを補おうとする執念が素晴らしいな」
と、なんか一般的な人類と違う視点で驚いている感じもあった。
日曜は投稿お休みします。続きは月曜




