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ゴミの国の歌姫  作者: 熨斗目花色
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リヨーラ様と別れた後、すぐに部屋に戻るのは勿体ない気がして、私は庭を少し散歩することにした。

どこなら見ても大丈夫ですか? と聞いた私をメイドさんが案内してくれたその場所は、一面に咲き乱れる桜色の花が見事な庭園だった。



「これは、スゴイですね……」



辺り一面に咲く可憐な花々に感動していると、ふと1ヶ所散りかけている花を見つける。他の花たちが満開なだけに妙に憐れに感じた。



「負けんなよ、まだ咲けるでしょ」



まだまだ若いもんには負けないっての見せてやんなさいよ。



「……さーくらー」



私の中のド定番な歌を歌えば、花たちが一瞬どくんと震えたような気がした。そして、次の瞬間には散りかけの花は満開に、満開の花は一度散りまた新たな花を開かせる。散った花びらは辺りに舞い踊り甘い匂いを漂わせた。

その美しい風景に息を飲んで見惚れていると、不意に背後から声を掛けられる。



「これはお見事、さすがは歌姫様ですね」



振り向けばピンクの花びらをバックに佇むヨーダがいた。そして、その腕の中には黒ウサギ。


メイドさん、ハメやがったな。

気付けばメイドさんの姿はなく、見事な庭園の中にいるのは私とヨーダと黒ウサギだけだ。



「ヨーダさんにそんな趣味があったなんて」



黒ウサギに目をやりながらわざと目を見開いて言ってやれば、困ったような顔で微笑まれてしまった。



「命令は絶対ですからね。まあ、この足の長さじゃ明日になっても歌姫様に会えないでしょうし、可哀想でしょう?」

「る、るるるーっ!」



ヨーダの言い分はどうやらルルのお気に召さなかったらしい。

手足をばたつかせてヨーダを睨むウサギはスゴく可愛い。頼んだら抱かせてもらえるだろうか。いや、中身がアレなら止めるべきだろう。なんて、くだらない討論をこっそり脳内で繰り広げる。



「王と会っていただけませんか?」



ルルと私の脳内討論総無視で、不意にヨーダが言った。



「なぜです?」



真っ直ぐ私を見つめてくる緑色の瞳を見つめ返す。



「王様と会って私に何がプラスになりますか? マイナス要素しかない今は会う必要性を感じません。もちろん、あなたにも」

「プラスになるものですか」



ヨーダの顔に苦笑が浮かぶ。

人付き合いを損得勘定だけで量れるとは思わないけど、今はそんなことを言っている場合ではない。

私の望みがなるべく早く確実に叶う為の最善を選ばなければ。



「では、一つ教えて下さいませんか?」

「何でしょう?」



内容によっては教えてやらないこともない。

これ以上距離を詰められないように、ヨーダから目を逸らさずに話の続きを待つ。



「歌姫様が好ましいと思う男性はどのような人物でしょうか?」



この状況でまさかの恋話。結構真面目な話をしてたつもりなんだけどねぇ。

若干呆れて黙っていると、ヨーダも微笑んだままじっとこちらを見ている。その腕の中のルルは困った様子で私とヨーダの顔を交互に見つめていた。うん、可愛い。


それにしてもヨーダはどうやら待ちの姿勢らしい。これは答えないと部屋に戻れない気がする。

はあ、と一つ溜息を吐いて私は思いきり理想は高く、で答えてやることにした。



「そうですね。まずは経済力、万が一私が働けなくなった場合でも食べていけるだけの稼ぎがある人、その上で妻が働くことに理解がある人。もちろん共働きなら家事もしてくれる人がいいですね。それから、思いやりがあって基本的に優しいことは大前提です。自分より目下の者に高圧的にならず、目上の者に礼儀正しく、でも間違っていることにはそれを言える正しさがある人。

後は、真っ直ぐでどこか可愛らしさがあれば言うことなしです」

「……うーん、さすがと言うべきでしょうか。中々に厳しい条件ですね」

「あ、大事なことを言い忘れていました。私を誰より愛してくれて、ありのままの私を見てくれて、一生私だけを見てくれる人がいいです」



どうだ、嫁が何人もいる時点でアウトだって話だ。

存分に言い終えて満足していると、急にルルが叫び出した。「るるるーっ!」とまるで遠吠えのような雄叫びを上げて、私を見るクリクリの青い瞳は幾分かキリッとしているようにも見えなくはない。



「……る、るるるー、るっ!!」

「必ず、歌姫様の望む男になってみせる、だそうですよ」



ヨーダがルルの言葉をわざわざ通訳してくれた。て、ヨーダはルルの言葉が分かる訳? まさか勝手に妄想して答えたんじゃないだろうな?


じーっと疑いの眼差しを向けたら、ヨーダは「ですよね? 陛下」とルルに話し掛けた。



「る!」



そうだ! とばかりに全身で頷く黒ウサギは大変愛らしいけど、まさか本当にルルは王様なのか。せめて遣い魔的な別の存在であってほしい。でないと、もうルルを純粋な目で見れなくなってしまうよ。



「……まあ、頑張ってみて下さい」



無理でしょうけど。

後に続くはずの言葉は飲み込んで、私はとても残念な気持ちで拳を突き上げているルルを見つめた。



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